第301話 藪から出た蛇、天の怒りに触れる
▼シュガー
ヤマタ運輸の頭領が駆る強化外骨格。青・緑・金・黄の色とりどりなる四つの機体が同時に四方向から攻撃を繰り出す。それに対し、こちらが取れる手はただ防御を固めて受け止めるしかなかった。
一人ずつであれば、いかようにもやり方があった。しかし、罠に掛けられ、一斉に攻撃を仕掛けられてはどうにもならない。
群を抜いて素早い機動力で、ガードの隙間を縫って蹴りを入れる青の機体。
「速さこそ
装甲を光学迷彩で明滅させ、死角からナイフで一突きにする緑の機体。
「知覚不能の攻撃こそ至高。八俣衆一の
肥大化した上半身から放たれる王者の拳で、式神をガードの上から吹き飛ばす金の機体。
「防御を貫く破壊力。八俣衆一の剛力、キンコブラ」
毒牙を模した双刀で素早く斬り付け、壊毒を与える黄の機体。
「毒と連撃のコンビネーション。八俣衆一のコンボ使い、イエローヴァイパー」
それぞれ防御に回った式神たちが一瞬にして倒されていく。口上とともに名乗り上げる様子を見るに、かなり余裕をかましている。だが、カナエ、タマエ、阿吽入道の四体が一撃で倒され、残るは俺とノゾミの二人だけ。実際ピンチだ。
「にしても黄色だけ命名法則を無視してないか」
「なにを言うか!? それはミーの勝手だろう!」
イエローヴァイパーが双刀を振りかぶり、高速で距離を詰める。あの刀の刃には毒がたっぷり染み込んでいる。攻撃を受けたカナエは掠り傷程度だったが、壊毒に侵されると瞬く間の内に身体を崩壊させていった。となると受けるのは得策ではない。
「ユニーク忍具『虚数マント』」
勢いに押し切られるとズルズルと残機を削られてしまうだろう。まずは一度隠れて仕切り直しを狙う。
そう考え、マントをひるがえし頭から被ろうとした瞬間、背後から手が伸び、俺の腕を掴んだ。
「させないねぇ、その忍具のことはクロマムシから聞いてるんだよ」
光学迷彩が解除され、緑色の機体が露わとなる。イエローヴァイパーに対して意識を向けた瞬間、ミドリニシキが隠形術で潜み、背後に回っていたのだ。そのまま掴んだ腕を捻り上げられる。後ろ手に回され、虚数マントが手から零れ落ちた。
追い打ちをかけるように動けない俺の眼前にイエローヴァイパーが迫り、双刀を振り下ろす。しかし、直前で小さな影が間に飛び込み、攻撃が逸れた。
「ノゾミ……」
ポリゴン粒子となって崩壊するノゾミが薄れ消えてゆく。これで召喚していた式神は全員やられた。
後ろ手に掴まれ動けず、眼前に双刀を構えるイエローヴァイパー。その後方にはアオダイショウとキンコブラも控えている。
「肩透かしを食らったみたいだよ。ミーたち四人も必要なかった」
「それは期待に沿えなくて申し訳ないな。どうだい、一回解放してみるってのは」
「……フッ、まるで解放したらミーたちに勝てるような口ぶりだね」
「そりゃあ、頭領だからな」
「おい、イエローヴァイパー! さっさと始末しろ」
「おっと、アオダイショウがお怒りだね。終わらせてもらうよ」
「……そうか、残念だ」
イエローヴァイパーが双刀を振り上げる。そして、縦一文字に振り下ろした。
▼ルペル
ヤマタ運輸の頭領と目される七機の強化外骨格。地上に降り立った後は山怪浮雲の忍者と交戦を開始し、各地の戦況を覆しつつあった。いくらシュガーが対処すると言っても七機である。手が足りないのは火を見るよりも明らかだった。
そんな中、突然機体の動きが変わった。銀と赤の二機は変わらず山怪浮雲の忍者と交戦していたが、それ以外の青・緑・金・黄の四機が突如反転し一ヶ所へ向かっていったのだ。
(メイズ、私だけでいい。彼らの向かった地点へ飛ばしてくれ)
(ちょっと待って、調べてみる。……えっと、予測座標はシュガーミッドナイトが白い機体と交戦してる場所よ)
(シュガーの居る場所だって?)
嫌な予感がする。メイズへ早急に転移するよう伝えた。そして、一瞬の後に視界が切り替わる。
ビルの屋上だ。縁へ走り寄り、隣接する商業ビルへ目を向けた。そこには屋上で四機の機体に囲まれるシュガーがいた。ちょうど最後の式神が黄色の機体によって倒されたところだ。万事休す。式神使いの弱点は式神を全て倒されると新たに召喚するための時間を稼がなければいけないことだ。今の状態ではとても再召喚の時間は望めない。
後ろ手に掴まれ拘束されたシュガーはなおも黄色い機体に話しかけ、なんとか隙を作りだそうとしていたが、そこに青い機体がトドメを刺すよう声を荒げる。シュガーの延命作戦は潰えた。指示を受けた黄色い機体はすらりと双刀を頭上へ振りかぶった。
このままではマズい。私がなんとかしなければ。
シュガーに脱落されては飛行船を落とす方法すら失ってしまう。
いや、待て。さっき青い機体が黄色い機体のことをイエローヴァイパーと呼んでいた。名前さえ分かれば、たとえ頭領相手だろうと私にも干渉できる。
「『イエローヴァイパー、動くな!』」
双刀が振り下ろされるのと、私の声が空気を震わせたのはほとんど同時だった。少しでも逡巡していればシュガーは縦に真っ二つとなっていただろう。
しかし、相手の攻撃よりも私の声の方が到達するまで早かった。『忌名術』は成功し、イエローヴァイパーの時間が停止する。
「シュガー、頭領相手は時間がない。あとは自力でなんとかしろ!」
「おう、最高のアシストだったよ」
ぼそりと呟くようなシュガーの返答。しかし、私にはそれがいやにクッキリと聞こえた。
「クソ、邪魔をするな」
金の機体が目の前に現れる。私が声を発した時点で飛び出してきていた。肥大化した上半身を見るに筋力特化のパワー型だろうか。引き絞った拳が眼前に迫る。避け切れない。
腕を十字に組み、防御姿勢を取るのが精一杯だった。拳が腕に触れた瞬間、衝撃が身体を貫いてゆく。吹き飛んだ私は屋上扉に背中をしたたか打ち付けた。糸が切れた人形のように受け身も取れず、顔面から崩れ落ちる。
「戻れ、キンコブラ。そんな雑魚を相手している場合じゃない」
朦朧とした視界の中、なんとか腕をついて顔を上げる。青い機体の叫ぶ声が聞こえた。キンコブラと呼ばれた金の機体が私から視線を外し、振り返る。そして、そのまま目線が上へスライドしていく。
私も同じように目を上へ、いや、天へと向けた。
「な、なんだコイツは!?」
キンコブラが驚きの声を上げる。それは私も同じだった。
空に大きな雲の渦が生まれていた。暗雲が空を支配し、太陽の存在すら覆い隠してしまっている。そして、渦の中心には大きく開いた一つの目玉があった。異様な光景だった。
空中には、さっきまでシュガーを後ろ手に拘束していた緑の機体が半透明の球体らしきものに閉じ込められていた。
手足をバタバタと動かしたり、ジェットを吹かしたりしているが一向に抜け出せないでいる。そして、緑の機体のすぐ近くでは空中に浮かんで腕を組むシュガーの姿があった。彼は小さな竜巻のようなものを足場としているようだった。
「なんとか式神を召喚できたな」
「……これが式神だと!?」
「あぁ、そうだ。式神の名は『
「ふ、ふざけるなよ」
「お得意の光学迷彩もこれだけ暴風が吹き荒れる中じゃあ正常に機能しないみたいだな」
緑の機体は暴風渦巻く球体に閉じ込められていた。いくら動こうと中心部へ引き戻されてしまう。身体をチカチカと明滅させるも、移動できない現状では全く意味のない行動でしかなかった。
「一目連、『
シュガーの指示の直後、空を覆う暗雲から巨大な
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