第258話 甲刃連合、西日本侵攻

▼セオリー


 冴島組のキョウマより西日本掌握という無茶振りをされた結果、序列上位の不知見組、由崎組、血染組の三組は急遽西日本へと向かわされたのであった。


 そして、我ら不知見組が降り立ったのは中四国地方。

 関東地方から遠路はるばる旧サーバー間移動鉄道を使って移動してきたのだ。


 かつて各地方サーバーが分断されていた時のサーバー間移動鉄道は莫大な金額が掛かり、忍具のほとんどを持ち込めないなど様々な制限があったけれど、サーバー統合を終えた今では普通の新幹線と変わりない値段で乗れる手ごろな長距離移動手段となった。


 中四国地方に降り立ったのは俺、エイプリル、ホタルと俺のテイム下にあるアーティの計4人だ。本来の不知見組であればここにシュガーやルペルも加わるわけだけど、彼らは元々関西サーバー出身である。色々と済ませたい用事があるようで関西地方に立ち寄ってから中四国で合流することとなった。



 さて、キョウマの指令によれば西日本侵出の足掛かりは関西・中四国・九州の三地方である。その内、中四国に俺たち不知見組は降り立ったわけだが、同じく由崎組は九州地方、血染組は関西地方に降り立っている。

 つまりは組ごと別々に作戦を進めるというわけだ。もちろん、甲刃連合として三つの組がまとまって行動を起こした方が安定して支配圏を伸ばすことができただろう。最初はそれも案として出た。しかし、すぐに却下されたのだった。


 何故って?

 そりゃあ、一つの地方を掌握している内に他の地方で噂になってしまうからだ。どうやら東の甲刃連合が西日本を支配下に置こうと画策し、動き出してるらしいってな。

 そうなりゃ、地元民NPCもプレイヤーも黙って指をくわえて待っていてくれる訳もなし。ならば目標である三地方を三つの組で同時侵攻しちまおうってわけだ。兵は拙速を尊ぶ、ってな。ちょっと違うか?


 いずれにせよ、ワールドモンスターの爪痕がいまだに根深く残っている所に悪いが、再び混乱を呼び込むこととなる。わりとそれはマジで御免って感じだ。せめて復興の邪魔にはならないように動きたいものだ。



 そう、復興である。

 ワールドモンスターに挑戦した順番は関西サーバー・九州サーバー・中四国サーバーの順だった。そして、それはそのままワールドモンスターによって破壊された主要フィールドの数・広さ順にも当てはまる。


 言わずもがな、関西サーバーは「溜め込むマモーニクス」の手にかかり、主要フィールドの実に8割が灰塵と帰し、辺り一面瓦礫の山と化した。唯一残った場所は金之尾神社と呼ばれる関西地方の中心に位置する場所だけだ。

 公式運営の建物がある場所のため、もしかしたら何があってもここだけは破壊されないようになっているのかもしれない。

 ここは血染組が中心になって進行する。序列上は一番下なので攻略難易度が低い場所にあてがわれている。というか、ほとんどの場所が崩壊した瓦礫地帯なのでむしろどこを支配すれば良いのかが難しい。まあ、残った主要フィールドを手中に収めれば良いのかな。分からん、頑張れアカバネ。


 とりあえず、同じプレイヤーであり、キョウマの無茶振りに難色を示していたアカバネへエールを送る。

 そういえば、シュガーが言うにはニド・ビブリオの本拠地も関西地方だと言っていたな。シュガーの古巣か。機会があれば顔を出しに行くのも有りだろうな。ユニークに関する情報も色々知れそうだし。



 それから九州サーバー。ここは「全喰らうベルゼーシャ」によって5割ほど主要フィールドを破壊された。

 なんでもベルゼーシャは黒猫の背中から昆虫の翅が生えたような怪物だったらしい。攻撃方法がえげつなく、猫の顎が外れたかのように広がり、そのまま地面を大きく開いた口で削りながら全てを喰らい尽くしていく動きを見せたのだという。なんつーか、見た目と行動のミスマッチ感が気持ち悪いな。

 そして、そんな九州地方担当は由崎組である。おそらく今回のメンバー中で一番やる気に満ち溢れていた組長がマキシだったろう。序列二位である俺をライバル視しているようで、やたらと張り合うように「どちらが先に指令を完遂できるか勝負を受けてもらうぞ」と宣言していきやがった。一方的な通告に対して俺は否定も肯定もしていないけれど、アイツの中ではすでに了承を取ったのと同じなのだろう。

 そもそも序列が上の不知見組に挑戦を蹴るという選択肢は無かったのかもしれない。まあ、今回の作戦一つで序列が引っくり返るってことは無いと思いたいけど……。



 最後に中四国サーバー。ここは「渦巻くレヴィペント」というとぐろ巻く八つ首の蛇に襲われた。

 ワールドモンスター討伐戦の映像記録を後から見た感想としては「大怪蛇イクチが八体出てきたけど、尾っぽは一つで繋がってるから機動力は低めだね」ってとこか。八本の頭が一ヶ所に攻撃を集中させた時の密度で言えば各ワールドモンスター中でも最悪のヤバさだった。幸いだったのはそれぞれの頭でヘイト管理が別になっていたことだ。これに気付いた中四国サーバーの忍者たちは四方八方に各頭のヘイトを分散させることで被害の拡大を最小限に抑えることができた。


 そんな中四国こそ不知見組が侵攻し、支配下に収めなければいけない地方だ。

 ワールドモンスターによる主要フィールドの破壊率は3割程度。被害を抑え込めた要因は中四国地方の形状にある。

 中四国は北と南に二ヶ所のフィールドが海を挟んで共存する特殊なマップ形状をしている。現実の中国地方と四国地方が合わさり反映された結果によるものだろう。

 その内、南側が「山怪浮雲」と呼ばれる雲を超える山々が連なるフィールドだ。そして、渦巻くレヴィペントはそこからさらに南の海上で出現した。

 おかげ様というか何というか、山怪浮雲の山々が天然の要害となってレヴィペントの侵攻を食い止めたのだ。ある種、関東地方の傲慢なるルシフォリオンが幽世山脈で出現してくれたおかげで被害が最小限で済んだのと似ている。



 こうして中四国地方は南側フィールドの山怪浮雲が少なくないダメージを受けたとはいえ。北側フィールドの大半がワールドモンスターによる被害を免れたのであった。


 つまり、甲刃連合の西日本侵攻における一番の難所こそが中四国地方なのである。

 いや、マジで不知見組だけで攻略すんの無理じゃね?

 ウチの組員、いまだに一桁しかいないんすよ?


 というボヤきたくなる気持ちを抑えつつ、まずは情報収集が大事だ。何も全てを敵に回して掌握する必要なんて無い。どこかに協力できるクランが転がっているかもしれない。一つ見つかれば二つ、三つと見つかる可能性が出てくる。

 そうだ、企業連合会で会長になった時を思い出せ。あの時だってハリボテの立場から本物の会長へと登り詰めたのだ。



 というわけで我々不知見組は中四国地方の北側フィールドで最も栄えている都市、大都会「摩天楼ヒルズ」にやってきたのだった。

 そこは桃源コーポ都市に並ぶ巨大都市。密集する高層ビル群がどこか懐かしさすら思い起こさせる。そんな都市だった。

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