第259話 話より団子な作戦会議
▼セオリー
中四国地方最大の都市、大都会「摩天楼ヒルズ」。
たとえ深夜になろうとも街には煌々と明かりが灯り続ける不夜城である。
とはいえ、今は昼間である。不夜城も昼間は普通のオフィス街ってな。
そんな訳で、とある高層ビルの一階に居を構える和風喫茶店のテラス席で俺とホタル、エイプリルの三人は、メニューにオススメと書かれていた団子をパクつきながら作戦会議を開いていた。
うんうん、茶屋っぽい畳敷きの椅子と唐傘のパラソルが良い味を出してるなぁ。こういうコンセプトカフェは味だけでなく見た目や雰囲気で楽しませるのも重要だ。あとは周囲を囲む雄大な山々とか背景にあるとバッチリなんだけど……、それは無いものねだりというもの。
実際に周囲を見渡した時、目に入ってくるのは雄大な高層ビルと、スーツを着て忙しなく街を行き交うサラリーマンばかり。雰囲気ぶち壊しな景観である。しかし、そこには目をつむるしかあるまい。都市だからね、仕方ないね。
さて、話を戻そう。
ここ摩天楼ヒルズでは日夜コーポクランによる熾烈な情報戦が行われており、単純なアクション戦闘ばかりではなく潜入ミッションによる情報の取り合いやクラン単位の陣取りのようなゲームプレイを味わえるのだという。
そういった傾向から隠密・諜報を得意とする忍者たちのメッカとも言われる。
情報元はルペルだ。
それぞれの主要フィールドには特色がある。中四国地方における摩天楼ヒルズは隠密・諜報を楽しみたいプレイヤー向けのフィールドなのだろう。
ちなみにクエストの傾向もフィールドによって偏りがあり、加えて傾向に合致したクエストの方が経験値も多く貰える。つまり、郷に入っては郷に従えこそが、このゲームに置いて最も合理的なのである。
思えば桃源コーポ都市で多少スニーキングミッションの真似事みたいなこともやったな。
甲刃重工のビルに忍び込んだり、逆嶋バイオウェアを仲間に引き込んで企業連合会に潜り込んだり……。
とはいえ、企業連合会の一件は甲刃重工と逆嶋バイオウェアが最初から味方みたいなもんだった。今回は新天地で孤軍スタートだ。慎重に進めるべきだろう。
「というわけで、ルペルが話していた通り、ここでは情報こそがものを言う。だから、まずは情報収集から始めようと思う。何か意見はあるか?」
情報を整理し、改めて意見を問う形でホタルとエイプリルに視線を向けた。
二人は夢中で団子を食べ続けている。うぉっほん、ここで一つ咳払い。ようやくホタルが団子を食べる手を止めた。おい、俺の話聞いてたか?
「情報収集から始めるのは賛成です。集める情報としては摩天楼ヒルズに拠点を置くクランをリストアップするのが良いんじゃないでしょうか。もぐもぐ」
どうやら団子を食べつつもホタルは話を聞いていたらしい。マルチタスクだ。そんな才能を使ってまで団子を食っていたかったのか。とはいえ、言ってることは真っ当なので何も言えない。いや、喋る時くらい食べるの止めろよ。
「たしかに打倒すべき敵を知るのは優先だ。じゃなきゃ勝利条件も設定しづらいしな」
正直、勝利条件を見定めることが一番難しい。
西日本を甲刃連合の支配下とする。キョウマの指令自体は単純だ。けれど、どこまでやったらその条件を満たしたことになるのか。その線引きが難しい。
そりゃあ、それこそ全てのクランを倒して吸収・支配すれば勝利条件達成と胸を張って言えるだろう。しかし、それは無理難題だ。各クランにはプレイヤーだって参加している。そして、彼らには無限の残機がある。単純な力押しでは物量に負けることが目に見えている。
そもそも、こちらの戦力は現状で中忍頭3人しかいない。
一番レベルが高いのはホタルだけれど、不知見組に加入してからホタルのレベルはほとんど上がっていない。クラン運営に力を割き過ぎていてクエストをしていないからだ。
この戦力ではたとえ相手にプレイヤーが居なくとも真っ向勝負じゃ勝ち目はない。
だからこそ、実現可能な勝利条件を見つけなければいけない。
桃源コーポ都市においては、企業連合会の主要コーポから半数を味方に引き入れるのが勝利の鍵だった。それと同じだ。
俺はいまだに団子を食べ続けるエイプリルの頬を摘まんで引っ張った。
「いひゃい~」
「食いながらでも良いから、せめて作戦会議に意識を傾けろ」
「ひぃてるよ~」
聞いてるよ、かな。うーん、怪しいな。
ところで、前に比べて頬っぺたがモチモチになったような。
「なんか、前よりモチモチになった?」
「もひっ!?」
俺の一言に顔を青ざめさせたエイプリルは、ポロリと団子を串ごと落とした。
それからショボンとした表情をしつつ、団子を怨めしそうに見つめ始めた。いや、そんな諸悪の根源みたく団子を見つめるなよ。冤罪だよ。なんなら容疑者はお前の内にある食欲だろう。
しかし、得てして正論が正しいとは限らない。負の自省スパイラルへ陥る正論など愚の骨頂。ここでの正解は意識の向くべき方向性を導くことにある。
「さあ、エイプリル! シェイプアップのためにも身体を動かすぞ。情報収集は身体が資本!」
「分かった! 私、ダイエットのために頑張るよ!」
「……あはは、そっちが主目的になってません?」
エイプリルのやる気に火をつけることに成功した。ホタルのツッコミは無視だ。その気になっている時に、やる気を
そんなわけで、それぞれ三手に分かれて情報収集を開始したのだった。
と思いきや、いざ街中へ繰り出そうとしたところをホタルに止められた。
「ちなみに、セオリーさんは顔を隠した方が良いですよ」
「えっ、何で?」
顔を隠せって、そんな指名手配犯みたいな扱いあるか?
俺の疑問をよそにホタルはメニュー画面を操作すると青白く発光する電子巻物を出現させ、外部サイトのアドレスを入れた。
外部サイトはどうやら「‐NINJA‐になろうVR」の攻略サイトらしい。俺、あんまり攻略情報は仕入れたくないんだよなぁ。とはいえ、ほんのりとそのことを伝えているホタルがわざわざ見せようとするってことは無視してもいられない情報があるのだろう。
「ふむふむ、『各サーバー別の有力プレイヤー紹介ページ』だと?」
「はい、これの関東サーバー欄にセオリーさんが載ってるんですよ」
ホタルが素早く電子巻物をスクロールしていく。関東サーバーのページは上から頭領、上忍頭、ユニークNPC、その他と細分化されている。
その中の「その他」欄に、……あった。
プレイヤーネーム、セオリー。中忍頭。
企業連合会の会長であり、関東地方におけるワールドモンスター討伐の鍵となった関東クラン連合の発起人となった人物。プレイヤーであることが確認されており、強力なユニーク忍具を有している
紹介文の後には動画サイトのアドレスが添付されており、飛んだ先にはワールドモンスター「傲慢なるルシフォリオン」戦の動画が再生されるようになっている。
お~、綺麗にくっきりと雷霆咬牙を振るう俺の姿が映っている。第三者視点で自分を見るというのは新鮮だ。こうやって見ると『雷霆術・稲妻』は威力が高すぎる。神性特攻が刺さり過ぎなんだ。
動画にはコメントも付けられるようで「このセオリーって忍者の使う忍具、強すぎる」とか「巫女の頭領がマンツーマンで守ってるのズルくね?」といったコメントが残されていた。
たしかに動画で改めてみるとデータ改造でもしてるのかってくらい雷霆咬牙は強い。もちろん、ワールドモンスターの神性が高かったからなんだけど、他のプレイヤーは裏の事情なんて知る由もないからな。
中には「何かしらの特攻が乗ってるんじゃないか」と鋭い意見を残しているコメントもあったし、真面目に考察しているコメントもあった。しかし、半数以上は強すぎ、ズルいという感想だった。うん、あれだ。若干、
「えっと、見てもらえれば分かると思いますが、だいぶ有名になっちゃってます」
「しかも、良い意味でだけじゃないな」
良い意味で有名になる分には活用方法もあったろう。しかし、今回のは思いもよらず悪目立ちしてしまった感じだ。
「でも、セオリーさんは正当な頑張りで手に入れたものですから、胸を張っていいと思います」
「まあ、不正したわけじゃないからな。……でも、中忍頭なのもバレてるか」
これが頭領相手なら「頭領なら仕方ない」と腑に落ちるのだろう。だが、俺は中忍頭だ。おそらくコメントで不平不満を言ってるヤツらは俺と同じくらいの忍者ランクのプレイヤーだろう。
中忍頭のくせに凄い忍具を手にしていてズルいという感情が先に来ているような印象だ。
ホタルの忠告も頷ける。
多分、運が悪いと面倒くさいのに絡まれる。さすがに酷い
悪いけど粘着されるのは御免だ。
「オッケー、変装して歩くことにするよ。教えてくれてありがとう、ホタル」
「いえいえ、それじゃあクエスト頑張りましょう!」
両拳を胸の前でグッと構えたホタルは意気込んで街へ走っていった。
俺もホタルに負けてられないな、情報収集を始めよう。忘れる前に『変装術』をしっかり唱えると、摩天楼ヒルズの雑踏へ踏み出すのだった。
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