第253話 偽神マザークロウズ


「えらい大層な肩書きがついとりますなぁ」


「ギシン? ……あっ、さっき天狗が私たちに襲い掛かってきた時にも言ってたよね」


「偽神っていうのはサーバー統合後に追加されたモンスタータイプでね。ユニークモンスターに並ぶ新たなネームドモンスター群なんだ」


 トモエの説明を聞いて、ミツビは思わず目を見開いた。

 思ったよりずいぶんと話の規模が大きい。ユニークモンスターは強い個体だと頭領複数人掛かりでやっと倒せたというような化け物だって含まれる。

 そんなユニークモンスターと並べるくらいのモンスターとなると、中忍二人なんて足しにもならない。トモエの上忍というランクが戦場に立つ上での最低ラインということだって有り得る話だ。


「そのクエスト、ウチらやと力不足やない?」


「いやいや、そんなことないよ」


「根拠はあるん?」


 こういう時、根拠もなしに大丈夫と口にする人間は信用できない。もし、トモエが実際適当に言っているのであれば協力するというのは御破算だ。そう疑念を強めてミツビは尋ねた。


「ミツビちゃんは疑り深いなー。別に勝てなかったら勝てなかったで良いじゃない」


「モモはんは疑うことを知らなさ過ぎや」


「えへへ、それほどでも」


「褒めとらんわ!」


 モモに話の腰を折られて、シリアスな雰囲気は霧散してしまった。二人のやり取りを見てトモエも笑っている。


「真面目に話しとった自分が恥ずかしいわ……」


「そんなことないって、そういうリスク管理ができるのは大事なことだと思うな!」


 ミツビが両手で顔を覆い隠してしまったのを見て、トモエはすぐフォローに回った。

 ミツビはきっと真面目な子なのだろう。だからゲームにも真剣に取り組んでいるのだ。それが彼女の楽しみ方。トモエはそんな風に解釈した。


「オッケー、そしたら私も真面目に答えよう。ちゃんと根拠もあるんだからね」


 トモエが一人では解決できず、手をこまねいていた現状。それは単純に手数の足りなさに起因していた。


「ユニークモンスターと偽神の大きな違いは単体か群体かってこと。基本的にユニークモンスターは単体で出現するのに対して、偽神は眷族と呼ばれる固有の配下を伴って出現するんだ」


 トモエはタブレットから外部動画サイトの映像を呼び出して、ミツビとモモの二人へ見せる。その映像にはここ一年で現れたユニークモンスターたちの姿が映し出されていた。


「ユニークモンスターは単体だけど大きくて強いって感じ?」


「概ねその認識で間違いないよ。逆に言うと偽神は単体ではそこまで大きな脅威ではないかな」


「そうなの?」


「これは確実だよ。だって実際に戦ったからね」


「「えぇっ?!」」


 ミツビとモモの声が綺麗にハモる。てっきりまだ戦闘はしていないのだと思っていた。


「一対一にまで持ち込めれば神域忍具を持つ私が絶対に勝てる。そう私は確信している」


「つまり、周りの雑魚をなんとかせなあかん訳やな」


「そっか、私たちは偽神の眷族を足止めする役目だね」


 ミツビとモモが早合点したところを、トモエは手で制した。


「いいや、二人にお願いしたいのは偽神マザークロウズ本体の足止めだ。雑魚は私が片付ける」


「……ちょっと待って、ウチらが強い方相手するん?」


「えー、私たちまだ中忍なったばかりだよ。足止めなんてできるの」


「難しいこと要求してるのは自覚してる。だけど眷族の攻撃は偽神本体の攻撃以上に激しく、苛烈だ。私じゃないと捌き切れない」


 眷族の攻撃を捌くにはトモエ並の技量が必要なのだろう。モモとミツビは理解した。だが、だからといって「はいそうですか」と納得して敵の本丸である偽神と二対一で対峙するのを了承するかは話が別だ。

 どうしようかと迷っている二人を見て、参加するかは偽神討伐の作戦内容を聞いた後で良いよ、とトモエは提案した。

 ミツビとモモはそれならと再び話を聞くことにしたのだった。





「マザークロウズは、元々この黒羽山脈の守り神『守護霊鳥ヤタガラス』が偽神に変化したものらしい。この辺は私も天狗のオッサンに聞いた話だけど、まあ、そういう設定なんでしょ。それから困った所が偽神の権能だ」


「ケンノウ?」


「言ってしまえば特殊能力だね。マザークロウズは周囲の生き物をカラスへと変化させて眷族にしてしまうんだ」


「周囲の生き物を!」

「カラスに?」


 モモとミツビが復唱し、それから周りを見回す。目に入ってくるのは神社の屋根に止まるたくさんのカラスたち。


「もしかして……、あのカラスたちって」


「そうだ、あのカラスたちは我ら天狗の一族の同胞たちだ」


 モモが恐る恐る尋ねた言葉に返事をしたのは天狗だった。天狗は神社の柱を背に腕組みしたまま立っている。怒りによるものか、自身の腕を掴む両手は血管が浮かび、ぶるぶると肩を震わせていた。


「どういうわけか、天狗たちはカラスに変化させられたけど、マザークロウズの眷族化だけは免れたらしいんだ」


「先ほどは偽神の手先と勘違いし、襲い掛かってしまったこと真に申し訳なかった。ただ、どうか……、どうか同胞たちを元に戻す為に我らへ手を貸して下さらんか」


 トモエたちの会話に加わらず、口を閉じたまま静観していた天狗だったが、気持ちの高ぶりが許容量を超えたのか、堰を切ったように謝罪と懇願の言葉を重ね、モモとミツビへ頭を下げた。

 モモとミツビはお互いに顔を見合わせた。しばしの沈黙。


「マザークロウズを倒せば元通りになるん?」


「クエスト的に考えれば元に戻るんじゃないかな」


「それなら良いんじゃない。私たちでマザークロウズをぶっ倒そうよ」


「せやな。というわけで、天狗はん、その依頼了承したで」


 モモとミツビが二人とも了承を伝える、と同時に青白く発光する電子巻物が出現した。


『クエスト:偽神マザークロウズ討伐』

『クエスト:天狗の一族を救え』


 正式に承諾したことでクエスト受注が完了した。推奨ランクは上忍以上。やはり、難易度の高いクエストだった。とはいえ、それはもとより望むところだ。


「ありがとう。我もできる限りの協力は惜しまないつもりだ」


「よし、協力して討伐するにあたってパーティーを組もう」


 正式にクエストを受注したのを見てトモエは提案する。ミツビとモモも異論はない。その場でパーティーを組むことにした。

 パーティーメンバーは四人。トモエ、ミツビ、モモ、天狗の四人である。


「天狗のおじさんもパーティーに入ってくれるんだね」


「NPCを仲間にするの初めてやね」


 パーティーを組んだ後、ミツビはトモエをちょいちょいと呼び寄せて神社の端で尋ねた。


「天狗はんはマザークロウズに変化させられへんの?」


「ん~、たぶんされちゃうと思う。ついでに言うと天狗のおっさんが眷族にされたら『天狗の一族を救え』のクエストはバッドエンドかな、って予想してるね」


「ほぉん、なるほど。討伐ミッションと護衛ミッションが並走しとるんやね」


「うん、だから私一人だと手が足りなかったんだ。二人が来てくれて助かったよ」


 だからこそ、クエストが二つに分かれていたわけだ。ミツビは空を見上げる。推奨ランクが上忍以上のクエスト二つの並走。


「こりゃ、難儀や……」


 愚痴の一つも零したくなる。さりとて、こんな美味しい経験値効率のクエストもそうそう転がってはいない。しゃあない、と重い腰を上げるのだった。










************************


 ところで、モモ&ミツビ編は今までとは違う書き方をしています。

 これまではセオリーやエイプリルなど誰か一人の視点から物語を進める一人称形式でした。しかし、モモ&ミツビ編では三人称形式で書いています。

 果たして読みやすさとかに違いはあるでしょうか?


 どっちの方が読みやすい、など個人の感想で構いませんので教えていただけると参考になります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る