第252話 倚天神槍・蒼天喝破
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「楽しくやり合ってるところ邪魔して悪いね」
戦いを仲裁した長槍を持つ女性は敵意がないことを示すように槍を地面に突き刺して見せた。さらに両掌もひらひらと振ってみせ、何も武器を持っていないことを強調する。
「この天狗のオッサンを殺されると私も困っちゃうんだ」
「先に攻撃してきたのはそっちなんだけど!?」
モモはぷりぷりと怒った仕草で天狗を指差す。
そんなモモに対してミツビは怒っていなかった。攻撃を仕掛けられるのも含めてクエストの仕様かと思っていたからだ。
だからこそ、クエストの先を考えて最初は天狗を生け捕りにしようとした。だが、思った以上に天狗が強く手加減していられない状況に追い込まれてしまった。
ミツビは女性をプレイヤーだろうと睨んだ。そして、NPCと思われる天狗の生死を気にするということは、クエスト進行において天狗は生かしたまま話を進めなければいけなかったのだろう。
戦いを仲裁してもらえたことはむしろ幸運だった。
だが、それはそれとして戦いに横槍を入れられたことは事実である。この弱みにつけ込めばクエストを進める上でのヒントを女性から聞き出せる可能性がある。
だからこそ、ここはシンプルに天狗の非を責め、怒ってくれるモモの存在がありがたかった。ミツビだとどうしても先を考えて打算的な怒り方になってしまう。しかし、モモはそんなことは考えていない。シンプルに思った通りに怒っているだけだ。
それは相手にも伝わる。
「ごめんよ。……そうだ、君たちプレイヤーでしょ。私の進めてるクエストに一枚噛ませてあげるってのはどう?」
来た。
ミツビは内心でにんまりと笑う。
モモを軽々しくあしらった腕前を見るに、この女性のランクは二人よりも上のはず。そんな彼女が受けているクエストに参加できるのならば経験値だって通常よりも破格なはずだ。
「モモはん、話だけでも聞いてみいひん」
「むぅ、ミツビちゃんがそういうなら許してあげてもいいけど」
飴と鞭。こういう意味でも相性が良いとミツビは思っている。当のモモがどう思っているかは知らないが。
「よし、交渉成立だね。そしたら改めて自己紹介。私はトモエ、元東北サーバー出身で上忍だよ。よろしくっ」
「私はモモで、こっちはミツビちゃん。二人とも中忍なりたての無所属でーす」
トモエの自己紹介に合わせ、モモが答える。ミツビの分までモモが伝えたのでミツビはペコリとお辞儀をして自己紹介の代わりとした。
「へぇ、無所属の中忍か。ってことはクエスト探しに奔走してた感じかな」
「そうそう、勢いでシャドウハウンド辞めたら大変でさー。路頭に迷ってたら、同じ境遇のミツビちゃんと出会って、それからコンビ組んでるんだ」
「ありゃま、大変ね」
「トモエはどこか所属してるの?」
「あはは、とか言ってる私も無所属なんだな、これが」
「おっ、無所属仲間!」
「イェーイ!」
モモとトモエがハイタッチする。
この二人は波長が合うようだ。少しばかり会話を交わしただけで、さっきまでぷりぷりと怒っていたのが嘘のようにモモはトモエと意気投合していた。
今の会話だけでも色々と収穫があった。ミツビは二人の会話に適度な相槌を打ちながら思案する。
無所属の上忍トモエ、彼女は元東北サーバーのプレイヤーだという。つまり、この黒羽山脈は彼女にとってホームグラウンドに等しい。クエストの斡旋に加えて土地勘のある案内役ができた。これはかなりの儲けモンである。
あとはもう一点、気になるところを尋ねておくべきだろう。
「そや、トモエはん、さっき天狗はんに神様言われとらんかった?」
「あぁ、アレね」
ミツビの疑問にトモエは若干呆れ顔で答える。そこから二の句を継ごうとトモエが再び口を開こうとするが、それを遮るように天狗が滔々と語り始めた。
「神とはトモエ殿のことではない。我らが神はこちらだ」
天狗は手振りでトモエが地面に刺した長槍を指し示した。
それに対してミツビとモモは頭に疑問符を浮かべる。
「槍が神様なの?」
「この槍はただの槍にあらず。
それから天狗は槍の伝説の数々を話して聞かせた。聞いてみるに、やれ天高く背を伸ばしたデイダラボッチを一撃で滅しただとか、やれ神と偽る巨大隕石を刺し貫いて破壊しただとか、どうにも眉唾な伝説ばかりだ。
モモとミツビはお互いに顔を見合わせて、それからトモエへ視線を送った。さっき槍を振り回していたのはトモエだ。おそらく今の所有権はトモエにあるのだろう。
モモとミツビの「本当なの?」という視線を受けてトモエは苦笑いをしつつ答えた。
「まあ、一緒にクエストやるならいずれは分かることだし良いか。この槍の伝説は多分本当だよ。なんで本当だと分かるのかって顔してるね。それはこの槍が特殊な忍具だからさ」
トモエは少し勿体付けて槍を手に取ると持ち手部分を撫でた。
「神域忍具って言うみたいなんだけど、相手によって強さが変わるんだ」
「相手によって強さが変わる?」
それは確かに変わった忍具だ、とモモとミツビは頷く。しかし、そのくらいで神と奉られるほどになるだろうか、とも思う。
「まあ、ピンと来ないのは仕方ない。私も普段は普通の槍として使ってるしね」
「神に認められたおぬしに異論は無いが……、あまり手荒に扱わないで欲しいものだ」
くるくるとバトンのように扱われている神槍を見て天狗は愚痴を零したのだった。
トモエの説明が終わり、続いてモモとミツビも固有忍術をトモエに話した。トモエは途中から天狗との戦いを見物していたらしく、忍術の予想をした上で話を聞いていた。そのため、なかば答え合わせのような説明になった。
「モモが奇襲型で、ミツビが後衛支援型ね。それなら真っ当な前衛型である私とも相性良しだ」
二人の説明を聞き終え、トモエは結論付ける。
モモは『
ミツビは『稲荷術』による幻術で相手へ幻覚を見せ、モモを見失わせる起点を作る後衛支援型。
二人は良いコンビだ。上手いこと罠にハメてしまえばモモの火力でも十分な火力となるだろう。しかし、最大火力を出すまでにいかんせん時間が掛かる。二対一で時間を掛けられる状況なら強いが、相手が多数いる時は厳しいだろう。そういう意味では単純な火力が足りない。
そこでトモエだ。純粋な前衛アタッカーであるトモエが加われば、多数の雑魚をトモエが蹴散らし、単体の強者をモモとミツビがハメるというパターンを戦術に組み込める。
「それじゃあ、クエストの内容説明といこう」
戦力確認を終え、クエストの内容を共有する。
「クエストは『偽神マザークロウズの討伐』。黒羽山脈の山頂に巣食ってる怪物マザークロウズを討伐するクエストだ」
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蒼天喝破(そうてんかっぱ)、名前が気に入ってます。
存在しないオリジナル武器の名前と効果、設定を考えるの楽しいですよね。
槍には有名どころが多くて引っ張られ過ぎないように設定を考えるのが難しい、と同時に楽しい部分でもあります。
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