第236話 小手調べ終了、人海戦術ターン開始

▼セオリー


 アカバネ率いる第三部隊より連絡が入った。内容は「ルシフォリオン解析完了」の一報。

 さすが情報解析を得意とする頭領なだけある。ワールドモンスターでさえその手にかかれば丸裸にされてしまうのだ。


「なるほどな、やはりセオリーの『稲妻』の方がダメージを叩き出してたみたいだぞ」


「マジか!」


 ルシフォリオンの攻撃を躱しつつ、シュガーの言葉へ耳を傾ける。

 あれからミユキのフォローもあったおかげで、さらに攻撃を重ねることができた。それにより、いよいよもって俺以外のプレイヤーは目に入ってないのではないかという勢いで攻撃が苛烈になっていた。


「よし、だいたい把握した。集合しろ」


 シュガーの号令で俺とコヨミ、それから第一陣の精鋭メンバーが一ヶ所へ集結する。当然、コヨミの『浄界』が周囲を包み込み、ルシフォリオンとの間に壁を作り出した。

 前線で敵から目を離して会議ができるのはひとえにコヨミが『浄界』を張ってくれているからに他ならない。しかし、気力消費のことを考えるとあまりチンタラと話し合ってる時間はない。


 基本的に俺は絶えずルシフォリオンの攻撃に晒され続ける。そのため、アカバネから送られてきた連絡はシュガーへ届き、情報を精査した上で共有することにしていた。

 それは当然、コヨミが『浄界』を張らなければいけない時間を短縮するためだ。実際問題、コヨミが居ると居ないのとでは安全性に大きな違いが出る。生命線だ。


「まず、ダメージについてだ。現状セオリーが飛び抜けてダメージを叩き出している」


「信じられねー」


「どうやらルシフォリオンは物理耐性が異常に高いらしい」


「ミユキの攻撃はかなりダメージ入ってそうな様子じゃなかったか?」


 攻撃を受ける度に若干ノックバックして顔を歪ませていた。あれはダメージが効いてるからなんじゃないのか。そういう疑問だ。


「それに関しても報告をもらっている。あのリアクションは嘘だろう、とのことだ」


「嘘だって?」


「らしい。アカバネ曰く、ダメージ量に対してノックバックなどが大げさすぎるそうだ」


 なるほど、解析の結果によればルシフォリオンは嘘を吐いている訳だ。

 それは何のために? 答えは簡単だ。一番嫌なタイミングでカウンターを決めるためだ。


 隣に立ち、『浄界』を張り続けるコヨミへ視線を移す。今のところルシフォリオンはコヨミの防御を突破できていない。よほど虚を突かれたとしても致命打にまでは至らないだろう。それを踏まえて俺がルシフォリオンだったらどう考えるか。

 そうだな、コヨミが気力切れを起こし、防御を他の上忍頭らに引き継いだ後、隠していた牙を剥くだろう。

 こりゃ、いよいよコヨミが生命線になってきたかもだ。


 だが、アカバネのおかげでルシフォリオンの嘘を見抜くことができた。この事実は重要だ。これを利用すれば逆にルシフォリオンを釣ることだってできる。


「とりあえず、物理ダメージは効きが悪いわけだな」


「そうだ。だから、基本的には術ダメージを中心に攻撃する」


「了解」


 術ダメージはファンタジーゲームで言うところの魔法ダメージに近い。忍術や特殊な忍具による攻撃の中には物理ダメージとは別に術ダメージを与えるものがある。こちらは術耐性を参照してダメージを与えるので、物理耐性が高いルシフォリオンにも通りが良いってわけだ。


「ちなみに、お前の『稲妻』は貫通ダメージらしい。超貴重だ、ガンガン攻めろ」


「えっ、なんか今凄い重要なことをサラッと言わなかったか?!」


 俺は背を押されて戦場へと送り込まれた。

 慌てて視線をルシフォリオンへと移す。猫パンチを回避し、フェザーショットの合い間を潜り抜ける。クソ、シュガーとの距離が一気に開いてしまった。

 シュガーの奴、なんて言ってた? 貫通ダメージって言ったのか。もうちょっと詳しく説明しろっつーの。まあ、アイツのことだからこれだけ言えば分かるだろってことなんだろう。つまりは聞いて字のごとくなわけだ。


 貫通ダメージ。字面から当たりを付けるなら耐性無視の攻撃ってことなんだろう。流石、雷霆咬牙だ。神特攻の神域忍具なだけある。

 ちなみに事前練習で使った時の『稲妻』は物理と術の複合ダメージだった。あの、本番で仕様変化すんの止めてくんないかな。攻撃の射程もそうだけど、イレギュラーが多すぎる。おそらくは神性の高い敵と戦う時に仕様が変わるようになっているんだろう。

 にしたって忍具の説明欄にもうちょっと詳しく書いといてくれても良いんじゃねぇかな。


「まあ、強くなってくれるのは有り難いんだけど、さ!」


 再びミユキの攻撃を受けてルシフォリオンの体勢が崩れた。そこを狙って『稲妻』を放つ。もちろん、アカバネの助言は忘れちゃいない。ミユキの攻撃を受けている時のルシフォリオンは演技をしている。それが本当かどうか見極めたい。

 多分コヨミがスタンバってくれている限りはルシフォリオンも動かないと思う。であれば今の内にルシフォリオンの動きの違和感を把握しておきたい。


「ふぅむ、なるほど」


「不自然なところでもあった?」


 俺が分かったような振りをしているとコヨミが尋ねてくる。


「いんや、全然」


「そっかー。……あと、そろそろヤバそう」


「おっと、そうか。交代しよう。それにそろそろ良い時間だしな」


 解析力を売りにしている訳でもなし。そういうのはアカバネに任せよう。餅は餅屋だ。

 というわけで、俺は一旦足を止めた。コヨミが第一部隊の本隊へと下がっていく。入れ替わりで上忍頭が二人、俺のそばまでやってきた。


「しばらくの間、よろしく頼む」


「ふぁ~あ、やっと仕事ですかい。あんなデカブツ、止めきれっかな」


 伸びをして眠そうにあくびをするのは結界術を得意とする忍者サンガだ。見た目は僧正といった服装に身を包んでいるけれど、咥えタバコが台無しにしている。だらしない顔つきを見るにこういうのを破戒僧というのだろう。もしくは生臭坊主か。


「二人がかりならなんとかなるでしょ!」


 それに対し軽い返事をしたのは女性の忍者ナナリン。彼女は物体の強度を上げる固有忍術を持っている。そして、この二人が俺のそばへ来たのはコヨミを休憩させるためだ。

 気力切れ。連続して『浄界』を使用したツケがとうとう来たのだ。


「そしたら、ここから動かんでくださいよ。『結界術・六面結界』」


 サンガが両手で印を組むと俺たち三人の周囲を囲むように薄緑色のガラスみたいな結界が生まれた。六面体の結界だから、まるでサイコロの中にでも閉じ込められたみたいだ。

 サンガの使った『結界術』は固有忍術ではなく一般忍術なのだという。しかし、彼は固有忍術以上に『結界術』を使い倒したのだという。その結果、彼の得意忍術としてプレイヤー間にも知れ渡ったのだ。一念も貫き通せばなんとやらということだろう。


「結界オッケー? それじゃあ、硬くしちゃうよー『凸鋼とっこう術・エレクティオン』」


 ナナリンはサンガの張った結界を手で優しく撫で上げていく。すると、薄緑色の結界の表面がバキバキと毛羽立つ様に、はたまた鱗状に変化していく。おそらくこれで強度が上がっているのだろう。彼女の手の動きを詳細に描写するのは憚られる感じだったので途中から目を反らした。固有忍術って何でもありだな……。

 うーん、それはさておき正直コヨミの『浄界』と比べて不安が残る。彼らの忍術でルシフォリオンの攻撃を耐え切ることができるのだろうか。まあ、これで駄目なら彼ら以上の結界は無いらしいけども。



 サンガの結界に引き篭もった俺を尻目に各部隊の第一陣が引き返し、第二陣が出てきていた。精鋭および頭領による小手調べが終わり、ルシフォリオンの行動パターンがある程度読めた。ここからは人海戦術で圧し潰すターンだ。

 俺が結界ごしにタコ殴りされている間、関東クラン連合の全戦力を注いでダメージを与えていくのである。


 三方向から狼煙が上がった。と同時に鬨の声が上がる。まるで武士の合戦のようだ。プレイヤーたちは待ってましたとばかりにルシフォリオンへと群がっていった。

 はたから見ればゾウへ挑むアリである。しかし、アリも数万匹一斉に襲い掛かればゾウにも手傷を負わせられるはずだ。


 そんなわけで暇を持て余した俺はしばし高みの見物をするのであった。

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