第235話 ヘイト争奪バトル勃発?!
▼セオリー
ミユキの攻撃が始まった。とんでもない重量同士がぶつかり合うような音、それがフィールド中に響き渡っていた。ともすれば俺よりもダメージを稼いでしまうのではないか。
「いや、本気でヘイトを奪いにきてないか?!」
「ハハハッ、シャドウハウンドだからと油断したな」
「笑ってる場合か!」
俺が心配そうに見ている隣でシュガーは笑っていた。
笑ってる場合じゃない。ヘイトがフラフラと変わってしまえばそれだけルシフォリオンの攻撃が散ってしまう。
第一陣は精鋭だけだから大丈夫だとしても、第二陣以降には下忍や中忍も加わるのだ。確実にルシフォリオンのヘイトは固定させた方が良い。
(ミユキ! 攻撃の手をもう少し緩めてくれ)
(どうしてでしょう?)
(ヘイト管理の話は事前にしただろ)
(それは知ってます。けれど、その心配は要らないみたいですよ)
(心配要らないってどういう)
「危ない!」
「んなっ?!」
危険を知らせるコヨミの声が聞こえた時には、すでにシュガーの式神カナエによって俺は首根っこを掴まれて後ろへ引っ張り込まれていた。
それと入れ替わりにコヨミが前へ出て『浄界』が張られる。直後、視界はルシフォリオンの羽で一杯になった。さっき喰らったフェザーショットだ。それが結界の上からマシンガンの如く降り注いでいたのである。
「まだヘイトは俺へ向いてるのか」
(大丈夫ですか?)
(あ、あぁ、問題ない。だけどミユキがあれだけ攻撃したのにまだヘイトは俺に向いてるんだな)
(私も信じられません。ヘイトを奪うくらいの全力で殴っていたのですが……)
(おい、奪う気だったのかよ!)
(ちょっと興が乗りまして)
興が乗ると作戦を無視してしまうらしい。実は要注意人物なんじゃないか?
そんなことを心のメモ帳に書き加えつつ、いまだに俺へと敵愾心を燃やすルシフォリオンを見る。
ミユキの方は見向きもしない。完全に俺一人をロックオンしてるようだ。ということは俺の与えたダメージがミユキの与えたダメージを上回っていることになる。
「もしかして神域忍具に挑発効果とか付いてないだろうな」
俺の与えた攻撃はわずか2回の『稲妻』だけだ。それに対してミユキは5、6発殴りつけている。はたから見ていてもミユキの攻撃を受けてルシフォリオンの巨躯が揺れているのをさっきから何度も確認している。どう考えてもミユキの方がダメージを与えられていると考えるだろう。
「どうだろうな。挑発効果があるならもっと早くから狙われててもおかしくない」
シュガーは否定的だ。
「じゃあ、俺の攻撃がミユキの攻撃よりも多くダメージを与えているってことか?」
「その可能性の方が妥当だろう。なんにせよ、解析班の報告次第だな」
「まあ、たしかに俺たちがここで考えていても仕方ないか」
ルシフォリオンへと顔を向ける。相変わらず獅子の
雷霆咬牙を握り締め直すとコヨミをともなって再び戦場を駆けたのだった。
▼アカバネ
第三部隊はデバフチームだ。そして、同時に情報解析も任されている。というのも、アカバネ自身が情報解析を得意とする忍者だからだ。デバフは副次的なものと言ってもいい。
「組長、そろそろウチの部隊も出陣ですよ」
「そう、ですか」
「序列二位の上位幹部様も気張ってますわ」
「えぇ、派手に暴れてくれていますね」
念のため血染組の若頭を連れて来ていたが、ワールドモンスターはこちらを見向きもしない。明らかにノーマーク、仕事がし易くて大変助かる。
甲刃連合序列二位である不知見組の組長セオリー、若頭は彼を揶揄するように話しているが、おそらくは敵意と嫉妬が混在した結果だろう。私の目から見てもワールドモンスターを貫いた雷は強力な攻撃だった。
甲刃連合の中でも格上、忍術の威力でも目を見張るものがある。しかし、そんなセオリーはまだ中忍頭だという。プレイヤーであれば嫉妬しない方が嘘というものだ。
きっと、この戦いが終わった後、セオリーは渦中の人物となるだろう。今までは上手く隠れていたようだが、ワールドモンスター討伐は関東中のクランが注目している。そこで活躍したプレイヤーがまだ中忍頭と知れれば大きな波紋を呼ぶだろう。
「しっかし、ワールドモンスターの大きさ半端なくないすか」
「……そうですね」
「反応、薄っ!」
「モンスターが大きかろうと傷を作れば血が流れます。あとは任された仕事をこなすのみです」
若頭はまだ何か言いたげな様子だったが無視することにした。どうせ、セオリーやミユキに張り合うような大技で周囲の目を引いて欲しいのだ。もちろん、私も頭領の端くれではあるから大技も持っている。しかし、今は絶対にダメだ。今ほど技を隠したい場面もない。
この戦いの後、一斉に外部の攻略サイトが編集されることだろう。頭領がワールドモンスター相手に大盤振る舞いで忍術披露してくれるのだ。各部隊の中には確実に戦闘を録画している者が潜んでいる。気を抜けばあっと言う間に丸裸とされてしまうだろう。
「私は最小限の手札で最大限の仕事をします」
「ハァ……、つまりいつも通りってことすね」
「忍者ですから。隠した手は多ければ多いほど良いんですよ」
私の信念である。若頭もそれで折れたようだ。
第一陣の精鋭たちに合図を送る。目標はワールドモンスターこと傲慢なるルシフォリオンの左後脚だ。
素早く近付く。そして、一斉にデバフを掛けていった。行動阻害、認識阻害、精神攻撃、呪い、毒、麻痺などなど、ありとあらゆる状態異常を掛けていく。
ボスクラスのモンスターはデバフに対する抵抗力が高い。しかし、全ての抵抗力が高いというのは稀だ。何かしら鍵となる弱点が隠されている。
とはいえ、今回はそれを調べることが第一目的ではない。
私は懐に手を忍ばせると得物を取り出した。鋭利な刃をしたメスである。忍具の銘は上忍具『
血というのは様々なことに利用できる。例えば呪いの触媒として使用したり、特定の忍術で使用したりといった具合だ。
今回の対象は巨大なモンスターであるルシフォリオン。しかし、精鋭たちによって重ね掛けされたデバフが効き、少々動きが重くなっている。こうなってしまえば隙だらけだ。左後脚の腱辺りを斬り付ける。
なるほど、とても硬い。おそらく与えたダメージは微々たるものだ。しかし、傷はつけた。ごくごく小さな傷だけれど関係ない。傷を付けたこと自体に意味がある。
「皆さん、一旦下がります」
第一優先の目標を達成した。
私の手の中には円筒状のガラス瓶に少量ストックされたルシフォリオンの血があった。
第三部隊の本隊がある位置まで下がると、一冊の本を取り出す。中には何も書かれていない白紙の本だ。その本へ抜き取ったルシフォリオンの血を振りかける。
「『血識術・
見る間に白紙だった本へ血が染み込んでいく。紙面を血が踊り、文字を形成していく。そこにはルシフォリオンの体力や耐性、各種ステータスといったデータが記載されていた。
これこそが解析・情報収集系統において現状最強を自負する固有忍術『血識術』。それは対象の情報を丸裸にした専用攻略本を作り出す能力だ。
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