第227話 待ち合わせ
▼セオリー
「今日も始まりました、VRゲームTV!! 本日の目玉は、いよいよワールドクエストも佳境! 関西サーバーにてワールドモンスターが大暴れ?! 『NINJAになろうVR』特集です」
不死夜叉丸の攻略において全サーバー内で一歩抜きんでていた関西サーバーは、そのまま世界の
「関西サーバーではワールドモンスターが解放されてゲーム内で一週間が経ちました。プレイヤーたちはなんとか討伐しようと猛攻を続けていますが、いまだ達成できていないようです」
「えぇー、一週間も戦ってるんですか?!」
「そうなんです。とはいえ、ゲーム内の時間経過は現実の4倍で進みますので、我々の感覚からすると、つい一昨日解放されたばかりですね」
「でも、そんなに長く戦っても倒せないなんてすっごく強いんですね」
「そうなんです! なんと関西サーバーの主要なフィールド5ヶ所の内、すでに3ヶ所が陥落してしまったようです」
「うっそー、このままじゃ関西サーバーの皆さん、やられちゃうんじゃないですか?」
「そこはご安心を。プレイヤーはたとえ倒されようとも、何度だってリスポーンすることができます。どれだけ破壊されても、最後はプレイヤー側が勝つのです!」
「わぁ、何度も蘇るって、まるでゾンビみたいですね」
「鋭い! ゲーム内でも死んでは蘇り、再びワールドモンスターへ向かって行くことを指して『ゾンビ戦法』なんて呼んでるんですよ」
「なるほどー。でも、それじゃあいずれは必ず倒せるわけですし、急いで倒す必要もなくないですか?」
「いえいえ、そうもいきません。さきほど話に出た主要フィールドにはそこにしかいない重要なユニークNPCというのが存在します。ワールドモンスターとの戦いが終わった後、彼らがどれだけ生き残っているのか、今後の焦点はそちらへと移っていくでしょうね」
「そっかー、プレイヤー以外は復活したりしないわけですもんね」
「そういうわけです。では、今回は関西サーバーで解放されたワールドモンスターの現時点で判明しているデータを分析していきましょう」
「いきましょー!」
朝、テレビで見たゲーム情報番組「VRゲームTV」の内容が頭の中で再生される。
二日前、関西サーバーは世界の
現時点で関西サーバーは二つ失敗を犯している。
一つ目はサーバー全体でプレイヤーが手を組まなかったこと。
クラン同士という小さいレベルの同盟ならちらほらあったようだけど、サーバー全体で全てのクランが同調して手を組むというレベルには至らなかった。結果、戦力の逐次投入という形になり、ゲーム内で一週間もの時間が経ったのにも関わらず、戦況は膠着、ワールドモンスター討伐もいまだに成されていない。
二つ目は世界の軛を破壊するタイミングを一クランが握ってしまったこと。
石板に刻まれたヒントによれば、最終段階で世界の軛を破壊するのは「王位の簒奪者」だという。関西サーバーにおける該当者は自身の所属するクランのタイミングでワールドモンスターを解放してしまったのだろう。
それにより関西サーバーのプレイヤーたちは後手に回ってしまった。関西サーバーの主要フィールド5ヶ所の内、機能停止に陥った場所は3ヶ所。だけど、その内の2ヶ所は初日で瞬く間に蹂躙されたという話だ。
情報共有も準備も揃っていなかった。
とはいえ、初日を乗り越えてからはまだ1ヶ所しか侵攻されていない。番組でも言われていたが、プレイヤーたちがゾンビのように何度も何度も突撃しているのだろう。
つまり、いずれは倒せる。それは分かった。
あとは、関西サーバー全土が蹂躙される前に完遂できるかどうか。そこが重要になってくるだろう。
……違和感。
何か見落としてるような気がしてならない。単純な事に気付いていないような。テストでケアレスミスをする時と同じだ。なにか引っ掛かるけれど、その原因が分からない。
実際にワールドモンスターは強大だった。
関東クラン連合を結成する時に俺がプレイヤーたちへ発したワールドモンスターの危険性も間違っちゃいない。むしろ、関西サーバーが先走ったおかげで話の裏付けとなり、関東クラン連合の結束がより固まったともいえよう。
「大丈夫か?」
「ん……。あぁ、なんでもない」
シュガーへと返事をする。すぐ表情に出てしまう困った癖は腐れ縁の親友には筒抜けだ。とはいえ、自分自身でも違和感の理由が分からない。それで伝えたところでシュガーも困ってしまうだろう。
今、俺は世界の軛ダンジョンを進んでいた。シュガーの他にコヨミとエイプリルも付いて来ている。
関東サーバーを代表する頭領プレイヤーたちと話し合いをした後、ひとまず世界の軛を破壊するタイミングを考える必要があった。全員の予定をなるべく合わせたい。そのためにはキーパーソンである「王位の簒奪者」とコンタクトを取る必要がある。
そして、俺には一つ心当たりがあった。イリスだ。
彼女と俺だけが知っている情報に「
フレンドチャットで連絡を取ったところ、世界の軛ダンジョンの最奥で待ち合わせすることになった。そう、最奥にあった地下墓所を指名してきたのだ。どういうわけだか彼女は地下墓所の存在を知っていた。俺とコヨミ、エイプリルくらいしか知らないはずの秘密だったのだけれど、さすがに頭領は耳が早いということだろうか。
軛の監視者・不死夜叉丸の居たボス部屋前の通路から隠し扉を開き、螺旋階段を降りる。階段を降りきると、開けた空間が目の前に広がった。最奥の地下墓所へ着いたのだ。
墓石の前にはイリスが一人佇んでいた。
「よう」
俺は声を掛ける。
彼女もこちらに気付いたようだった。
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