第202話 不死夜叉丸攻略戦4×勇気の一歩と千日手
▼セオリー
薙刀の刃先が目の前を通り過ぎていく。急激に俺との距離を詰めてきた僧兵はまず横薙ぎに斬り払ってきた。それをバックステップで回避したところだ。
今度は俺の方からお返しとばかりに手裏剣を投擲するも、薙刀を回転させて弾き飛ばされてしまう。悠々と手裏剣を弾き飛ばし、再び僧兵のターンだ。薙刀を縦振りしてくるのをすんでのところで回避する。そこへ畳みかけるように息もつかせぬ連続突きを放ってきた。時にステップを踏み、時にクナイで流し受け、時にローリング回避を敢行する。
合間に手裏剣を投げてみるもしだいに僧兵はそれを無視し始めた。ざくざくと身体に手裏剣が刺さる。しかし、それを意にも介さず薙刀によるコンビネーションコンボを繰り出してくるのだ。
「手裏剣程度の脅威度じゃ避けるまでもねーってことかよ!」
僧兵が俺の攻撃を無視し始めた辺りから薙刀を振るう切れ味も鋭さを増していった。今では反撃の手裏剣すら投げる余裕がない。まあ、投げたところでほとんどダメージ入って無さそうだったから余裕があってももう投げてなかったかもしれないけども。
攻撃を避けつつ僧兵の全身を観察する。
薙刀による攻撃は棒術に近い性質を持つ。リーチの差を生かし、敵の攻撃を弾きつつ必殺の一撃を叩き込む。刃によって棒術よりも殺傷能力が高まっており、おそらく一撃でも受ければ俺の耐久ではひとたまりもないだろう。
それから戦ってみて分かったのは巨漢のわりに意外にも筋力
正直、非常に厄介だ。力任せのブンブン丸ならライギュウの時みたく上手く懐へ潜り込んでカウンターを決めればいい。しかし、目の前に立つ僧兵には懐へ潜り込めるような隙が存在しない。常に薙刀が最も活かせる距離間を維持してくるのだ。少しでも俺が距離を詰めようとすれば薙刀を大きく横に払って近寄らせまいとしてくる。
横薙ぎは回避する方法が限られる。「上に跳ぶ」か、「下にしゃがむ」か、「後ろへ戻る」か、「前へ進む」か。上に跳ぶと続く縦振りで一刀両断にされるだろう、空中では避けようもないから即座に却下だ。下にしゃがむのは一見良さそうだが低い体勢からの動き出しは次の対応に制限が掛かるため続く連撃に対応し切れない。後ろへ下がるのは振り出しに戻ってしまうので意味が無い。
となると、この状況を打破する為には「前へ進む」という選択を取れるかどうかが重要だろう。中忍頭の俺が格上のモンスター相手に一対一で攻撃を掻い潜りつつ前へ進むのは至難の業だ。今だって僧兵の連撃をギリギリで躱し続けることができているのは『
あとは前に進んでからどうするかも課題だ。
現状、『仮死縫い』は不死夜叉丸に対して使用している。『仮死縫い』は一人までしか対象に取り続けることができない。そのため僧兵に対して使用すると不死夜叉丸の『仮死縫い』が解けてしまうのだ。つまり今だけは『仮死縫い』封印である。
俺の持つ最大の武器が封じられた今、活路はどこにあるのか。
「見えねぇなー、活路……」
脳内スイッチを切り替え『
『第六感的死線突破』は自分でも気付いていない活路を「情報」と「状況」から直感的に見いだして光の道標という形で感じ取るVR適応を発展させた能力だ。フェイ先生曰く「光明を得る、天啓が下りる、活路を見いだす」といった本来は偶発的に起きるはずの力を自覚的に使いこなしている状態なのだという。
しかし、そういった光明や天啓、活路というものは全くの無から生まれるものではない。十分に蓄積された「情報」と「状況」の二つが複合的に絡み合い、それらを直感的に組み合わせた結果、確かな道筋として発現されるのだ。
まず、僧兵の「情報」が足りない。これに関しては戦いの中、現在進行形で得続けている。つまり時間が経てばおのずとクリアされるだろう。
だが、もう一つが面倒だ。すなわち「状況」である。状況とひとえに言っても様々な意味がある。俺と僧兵を取り巻く場所・人数差・武器・勝利条件・時間制限・エトセトラ……。
一分一秒刻一刻と変わりゆくものもあれば、戦いの舞台へと上がった時点で決定され今さら変えようのないことまで色々だ。
現在の一対一という状況から好転することはまず無いだろうし、僧兵の武器が突然薙刀から変わることもないはずだ。
逆に勝利条件なんかは流動的だろう。俺が僧兵を倒してもいいし、他のメンバーが不死夜叉丸を倒してくれてもいい。まあ、基本的には後者が本命だな。
そう考えるとやっぱり俺の勝利条件は耐久勝負だ。僧兵を倒すための道標は灯らないけれど、だったら視点を変えよう。僧兵の嫌がらせを主眼に置くのだ。そうして、とことんヘイトだけを稼ぎまくる。ある意味でやってることは避けタンクみたいなものだ。そう考えると俺のすべきことは実にシンプルだ。脳内で目標が整理されたことで頭がスッキリとした。
「おっ、見えてきたじゃん、活路!」
思考の変化が作用したのか、光の道標が灯り始めた。死線を突破するための道標。そんな光の道筋は超接近戦にこそ活路を見いだしていた。薙刀を潜り抜けた先、僧兵の懐である。
やはり「前へ進む」が正解か。そうあれかしと思いながら一歩を踏み出す。俺が距離を詰めたことに反応して僧兵は横薙ぎをしてくる。さらに一歩前へ。さあ、どう潜り抜けようか。
「……は?」
次に感じ取った光の道標は思いがけないものだった。俺は戸惑いつつも直感の命ずるままに身体を動かしポーチから棒を出現させる。ロッセルに作成してもらった特注の棒は軽く頑丈で使い勝手の良い武器だ。
そんな相棒を片手に進む先は僧兵の懐……ではなく薙刀の先っぽ、その刃部分だ。横振りの刃は真っ直ぐに俺の胴体を真っ二つにせんと迫ってきている。その刃先へ向かって自分から突っ走った。
斬撃が俺の肌へと達する直前、身を沈めるようにしてスライディングをした。ギリギリまで引き付けたおかげで僧兵は全力で薙刀を振り切ろうとしている。相手に小細工は無い。
刃の真下へ潜り込むと俺は待ってましたとばかりに棒を勢いよく回転させ、刃先を真上方向に跳ね上げさせた。『集中』の黒いオーラで覆われた棒は威力を底上げされ、さらに下から跳ね上げるという意表を突く攻撃により、僧兵の持つ薙刀は斜め上方向へ振り抜かれていった。
予想外の衝撃で下から突き上げられた結果、薙刀が空を泳ぎそれと同時に僧兵の腕が伸び切る。その隙を俺は見逃さなかった。僧兵は慌てて腕を曲げ、薙刀を構え直そうとするが、もう遅い。『集中』を足へと付与し、素早く僧兵と肉薄した。
僧兵の懐へ潜り込むためには、まず絶え間ない連撃のコンビネーションを
こうして第一関門と考えていた超接近戦という土俵に辿り着いたのだった。
至近距離まで接近した俺は棒をポーチに戻すと今度はクナイに持ち替える。この距離で長物は邪魔だ。そして、それは僧兵に対しても同様のことが言える。そんな長い薙刀で俺を捉え切れるか?
武器が薙刀ということに加えて僧兵の三メートル近い巨体も悪さをしている。そのまま薙刀を構えると手元の辺りは俺の首くらいの高さ。ちょっと屈めば簡単に避けられる。灯台下暗し、足元が一番の安置ってわけだ。
「というわけで、チクチクさせてもらいます」
僧兵の足を狙ってクナイを突き刺す。避けては突き刺す。蝶のように舞い、蜂のように突き刺す。
モンスターによっては皮膚が鱗に覆われて非常に硬かったりする場合もあるけれど、少なくとも目の前の僧兵は投擲した手裏剣が刺さったのを確認している。だから刃が通らないということは無いと踏んでいた。そして想定通りクナイによるチクチク戦法は通用した。ダメージ自体は微々たるものかもしれないけれど、『仮死縫い』が封印されている俺にできる最大の攻撃はこれしかない。
「はーい、チクっとしますよー」
最小限の動作でクナイをぶっ刺す。あんまり力を込めると返しの縦振り薙刀で一刀両断される恐れがある。そのため隙を極力見せないよう立ち回る。現状、僧兵が俺にできる攻撃手段は薙刀の縦振りと蹴り、それから掴み攻撃くらいだ。
縦振りの一撃は振りかぶる予備動作が大きくて分かりやすいので簡単に避けられる。蹴りは薙刀の振りと比べればずいぶんと遅いから見てから回避が余裕だ。今回は特に自分自身の俊敏ステータスの高さに助けられた。
そんな中で一番厄介なのは掴み攻撃だ。
いきなり腕をガバッと開いて抱き締めようとしてくる。いわゆる
そんなわけで懐へ潜り込むことに成功した結果、僧兵は俺への有効打を失ったのである。アレ、もしかしてこのままチクチク戦法で勝てるんじゃね。ボスハメ成功しちゃったか?
「んー、僧兵の体力ゲージが一ミリくらい減ったかな……?」
体力ゲージの一ミリはだいたい最大体力の百分の一くらいである。あれぇ、結構クナイで突き刺しまくってるんだけどな。いやいや、嘘だろう。何かの間違いだ。もう一回だけ体力ゲージを見直そう。
……あぁ、うん、なるほど。儚い幻想だった、そろそろ現実を直視するよパトラッシュ。
やっぱり倒すのは無理だな。向こうが有効打を持っていないと同時に、俺も有効打を持ち合わせてない。千日手みたいな状況だ。
いや、現状をより正確に言うならば至近距離の攻撃を俺が回避できているのは集中力が続いているからだ。そして、俺の集中力は刻一刻と削れていっている。いくら避けやすいとは言っても絶対に失敗できないという前提条件が付くと途端にじわじわと精神力を削ってくるものだ。精神力と集中力は密接に絡み合っている。どちらが尽きても共倒れする。
というか正直チクチク戦法のダメージ量を認識した瞬間、嫌気が加速した気もする。そろりと僧兵の体力ゲージから努めて目を反らす。
「うぉー! みんな早く不死夜叉丸を片付けてくれー!!」
俺は泣き言を叫びながらチクチク戦法と回避を続けるのだった。
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ちなみに僧兵は体力ゲージが半分を切ると行動パターンが変化するので主人公のハメは瓦解します。でも、多分そこまで行く前に集中力が切れて一刀両断されることでしょう。
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