第188話 無限湧き蜘蛛地獄、たった一つの冴えたパワー
▼セオリー
「それでだぁ、結局あのクソ強ぇ武術家の下に付いてどこが強くなったんだ? 腕っぷしが変わったようには見えねぇがぁ……」
由崎組の組長マキシを倒し、甲刃重工の雇われ忍者ダイコクと八重組の忍者が戦闘しているだろう場所へ向かっている最中、ライギュウがそんなことを聞いてきた。
「『
「あぁ、勝ち筋が感覚で分かるっつう意味分からねぇ力だろぉ」
「意味分からねぇって……。一応、フェイ先生に言わせると手練れの武術家なら誰しも自然とやってることらしいぞ。曰く、『先読みして活路を見出す力』とか『先見の明』みたいなものなんだとさ」
「ハッ、どっちにしろよく分かんねぇなぁ。俺は自分の目で見たものしか信じねぇからよぉ、そんな予感みたいなものに身を委ねるなんてできねぇなぁ」
「目で見たものか。……でもさ、そう言うライギュウと俺でも見えてる世界が違うかもしれないだろ。いや、もっと言えば全く同じ見え方をしている人間なんて居ないのかもしれない」
「認識の違いってヤツかぁ、哲学的だな」
「哲学なのか?」
「知らねぇ」
「……テキトーなヤツめ」
ライギュウと話している内に、ショッピングストアが立ち並ぶ通りから奥へ進んだところに位置する「百景島シーアイランド」の遊園地部分へ到達した。
ダイコクはちょうど俺たちから見やすい位置、観覧車の頂上に追いやられていた。そして、彼の周りにひしめき、迫っているのは大小さまざまな蜘蛛の群れだった。ゆうに数百匹を超えるのではないかという蜘蛛の群れは地上に居る俺たちにも視認できた。
これ、視認できてしまったのが最悪だ。つまり、小さい蜘蛛でも数十センチほどの大きさがあり、デカいヤツだと二メートル級の蜘蛛もいたからだ。
「おうおう、でけぇ蜘蛛だな」
「あの数は骨が折れるぞ」
「また勝ち筋とやらをパパっと見りゃ良いじゃねぇか」
「そう簡単に言ってくれるなよ。アレ、かなり脳に負担がかかるんだぜ。だから長時間は使えないし、一度使ったらインターバルを置く必要がある」
「おいおい、じゃあ何か? この数の蜘蛛を一匹ずつ潰してけってか」
それじゃあ、後手に回ってしまうだろうな。俺は思案する。ダイコクの下へ行って、現状分かっている情報を共有するってのも手だけど、無策で突っ込んでは意味が無い。
「……いや、待てよ。ちょうど良い全体攻撃技持ちがいるじゃん」
「あぁん? ……あぁ、そうかぁ。なるほどなぁ、根暗忍術も役に立つじゃねぇか」
「おい、その根暗忍術って言い方止めろよな。変に定着したらどうすんだ」
「そんときゃ盛大に笑ってやるよぉ」
「くそぉ、他人事だと思って……。はぁ、気分切り替えてくしかないか。マキシ、命令だ。あの蜘蛛どもを一掃しろ」
俺は『
マキシが術を唱えると、身体から筋繊維の波が周囲へ噴き出した。そして、瞬く間の内に観覧車の周囲を筋肉の海が取り囲んだ。
「ダイコク、気合いで避けてくれー!」
俺のメッセージは届いただろうか。こっちは地上に居て、片や向こうは観覧車の頂上だからなぁ。声はさすがに届いてないかも。まあ、積極的に狙う
筋肉の海から無数の腕が上空へ伸びていく。そして、観覧車を超える高度へ達したかと思うと放物線を描いて観覧車へ拳が飛来した。
ダン、ダン、ダン、ダダダ、ダダダダダ……。最初の数発を皮切りに
そんな能天気なことを考えていると、観覧車の頂上から必死に駆け下りようとしているダイコクが視界に映った。
「マキシ、観覧車を駆け下りてるダイコクのフォローをしてくれ」
一応、ダイコクの方も崩壊しつつある観覧車の残骸を足場にしつつ懸命に駆け降りているけれど、命を投げ打って攻撃してくる蜘蛛が邪魔をしてスムーズにいっていない。あ、空中に投げ出された。
ヤバいかなと思っていると、空中に伸びる拳の内、三本ほどがダイコクの身体を掴み、そのまま俺たちの近くまでゆっくりと下ろしてくれた。アフターフォローもばっちりとは、マキシのヤツ、なかなかやるな。
というか、マキシの忍術ってかなり優秀なのではないだろうか。多数の腕をコントロールするのは大変かもしれないけれど上手く操作できれば多方面の戦闘へ同時に介入したりもできるし、自分自身の単体強化もできる。なんなら筋肉の海の展開の仕方によっては盤面を支配することだってできるだろう。使い勝手のいい忍術だ。あと、ライギュウに根暗とは言われ無さそう(重要)。
「お、お前さんたちの忍術だったのか?」
「いや、マキシの忍術だ。たくさんの虫を叩くのにちょうど良かったもんでな」
「マキシだと? ……そうか、これが『支配術』か」
「知ってたのか」
「社長より聞いている。詳細は伏せられたが、不知見組の組長セオリーは他者を支配できる、とな。眉唾だと思っていたが、あれほどお前さんに噛みついていたマキシを従えている、ということは本当なのだろうな……」
「カザキからの情報を信じてなかったのかよ!?」
「いくら社長からの情報とはいえ鵜呑みにする訳にはいかない。だが、今回は助けられたようだ、感謝する」
「良いってことよ」
「……それから非礼を詫びよう。俺はお前さんを下に見ていた」
「あぁ、そのことね。問題ないさ、一番格下なのは俺もよく分かってる。だからこそ、下剋上のし甲斐があるってもんだろ?」
「フッ、敵わないな。……では、改めて共同戦線を張らせてもらいたい」
「オーケー、分かった。じゃあ、早速だけど八重組の忍者の情報をくれ」
俺は先に戦闘を行っていたダイコクへ情報を要求する。しかし、ダイコクは歯切れ悪そうに腕を組んで
「うぅむ、それなんだがな。八重組のくノ一は未だに姿を見せていない。ひたすら蜘蛛の大軍をけしかけてくるだけだ」
「パッと見で蜘蛛単体は弱そうだけど、片っ端から倒していく訳にはいかないのか?」
「そりゃあ、俺も最初は蜘蛛どもを倒していたんだがな、どうやら無限に湧き出てくるようだ。骨折り損だと思うぞ」
なるほど、八重組の忍者はひたすら潜伏して、無限湧きする蜘蛛でじわじわと消耗戦を仕掛けてきているわけか。
しかし、疑問は残る。蜘蛛はおそらく式神か口寄せ術によるものだと思うけど、これほど大量の蜘蛛を呼び出しているのだ。術者の気力消費は相当なものだろう。にもかかわらず、いまだにテーマパークの至る所から蜘蛛が湧き出し、俺たちへ襲い掛かってきている。マキシが片っ端から叩き潰しているおかげでなんとかなっているけれど、逆に言えば彼が居なければ敵の目論見通り消耗戦に付き合わされる羽目になっていたことだろう。
「相手は蜘蛛を呼び出す為の気力をどうやって
「お前さんもそこに行き着くか」
「ダイコクも思うよな」
「うむ、これだけの数だ。一匹ずつ呼び出していてはとても追いつかないだろう。……となると、考えられる選択肢は少ない」
「何か心当たりが?」
「そうだな、真っ先に考えられるのは儀式忍術だろう。大掛かりな儀式を行うことで、一度発動した後は半自動的に術が繰り返される。これなら術者の気力消費は最初の一回で十分だ」
「儀式忍術……?」
初めて聞く種類の忍術だ。
「古い忍術だ、知らないのも無理はない。例を挙げるなら、隠れ里の結界などを維持するために使われたりするな。そういった永続的に効果を発揮し続けて欲しい忍術などは儀式忍術を用いて自動化するんだ」
「へぇ、なるほど。たしかに人の手だけじゃ足りなくなるもんな。忍術の自動化……、そういう技術もあるんだな」
「とはいえ、応用の利きづらい術だ。それに儀式忍術は場所に施す忍術だからな、術の
「へぇ、場所に施す忍術なのか。面白いな」
ダイコクの説明のおかげで、相手の忍術のカラクリがだいぶ把握できた。それに対策も思いついた。
「マキシ、蜘蛛を一匹こっちによこせ。『不殺術・仮死縫い』」
命令を下すとすぐさま一匹の蜘蛛が俺たちの下へ投げ込まれた。それを流れるようにクナイで刺す。虫の急所とかはよく知らないけど、頭を突き刺しとけばおそらく急所だろう。
「何をするつもりだ?」
「あぁ、簡単なことさ。この蜘蛛自身に呼び出された場所まで案内してもらう」
仮死状態にした蜘蛛へ『
「さあ、蜘蛛よ。お前が生まれた場所まで案内しろ」
俺の命令を聞き、すぐさま蜘蛛は
甲刃連合の序列決め、そろそろフィナーレに向かわせてもらおうか。
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