第179話 迷宮道中、妖怪巡り

▼ハイト


「コタロー、右後方から来てるぞ」


「オッケー」


 コタローが回避をした直後、元居た場所を燃え盛る車輪が通り抜けていった。

 車輪は牛車の片輪を巨大にしたような形状をしており、中央部に怒り顔をした男性の顔が付いていた。車輪の円周部は燃え盛る炎がまとわりつき、駆け抜けた後には燃え上がる炎の道筋が出来上がる。確か名前は輪入道わにゅうどうだったか。


「今の妖怪の弱点はなんですか?!」


 アヤメが目の前にいる巨大な骸骨へ向かって岩石を放ちつつ、こちらへ問いかけてくる。同時に、輪入道の方へ掌を向けていることから俺の説明を聞いて攻撃を仕掛けようって腹積もりだろう。

 有名な妖怪というのは有名税とでも言おうか、人々に知れ渡る代わりに弱点も知れ渡ってしまっている。だからこそ、弱点を聞いてから攻撃をしようというアヤメの考えは正しい。だが、それは弱点を知っていればの話だ。


「さっきの燃えてる車輪は輪入道だ。弱点は知らねー!」


「コタローさんは?」


「ボクも弱点は知らないかな。ただ一応、報告。車輪が通った後に残った炎は触れると気と体力がじわじわ減少するから気を付けて」


 弱点は分からないし、面倒くさい追加効果が判明したし、かなり厄介だな。その上、他にも妖怪どもがワラワラと湧いてきやがる。

 アヤメが放った岩石の直撃を受けてバラバラになっていた巨大な骸骨の破片は、空中に浮かび上がると元の形に再生してしまった。物理ダメージは通りが悪いか?

 そう逡巡する内にも戦場は動き続ける。巨大骸骨は復活すると同時にアルフィへ向けて拳を振り下ろした。輪入道の突進を回避するのに意識を割いていたアルフィは回避が遅れてしまった。


「『花蝶術・胡蝶乱舞』」


「『付加術・加速加算アドアクセル』」


 青い蝶を緩衝材のように並べて壁を作る。それにも構わず拳は振り下ろされるが、ほんの一瞬、巨大骸骨の攻撃速度が落ちた。その隙を狙ってコタローの加速加算アドアクセルで俊敏さにバフを受けた俺がアルフィの身体を引っ掴んで回収する。

 直後、目の前を拳が通り過ぎ、地面を叩き割る音が鳴り響く。ふぅー、ギリギリだ。


 ───チラリ。


 俺の視界の片隅、石壁にぱちりと開いた目玉を見た。さっきから戦闘の最中、何度か見かけている。しかし、アレは後回しだ。攻撃をしたところで目玉が閉じると、そこは普通の石壁に戻っている。おそらく何かしらの妖怪なんだろう。名前は知らねえけどな。


 巨大な骸骨が腕を指揮者のように振り上げると、今度は俺とアルフィの足元の地面がボコボコと盛り上がり、そこから通常サイズの骸骨が這い出てきた。

 見るからに雑魚モンスターって感じだけど、それでも敵の手数が増えるのは脅威だ。つうか、狭い通路型のダンジョンで召喚系の攻撃は無しだろ!


「デカいのが雑魚骸骨を召喚してきたぞ」


「がしゃどくろ本体を狙おう」


 コタローが名前を言ったことで巨大骸骨の名前が判明した。どうやら、がしゃどくろというらしい。でも、本体を狙うって言っても、さっきアヤメの岩石を喰らってバラバラになった後、すぐに再生してたぞ。どう倒すよ。


「倒し方の案は?」


「うーん、ボクも知りたいかな」


「知ってんのは名前だけか」


「ボクは妖怪博士って訳じゃないからね」


 そりゃそうだ。雑魚骸骨が襲い掛かってくるのを回避して、アヤメの後ろに隠れる。コタローもちょうど避難してきたようだ。


「結局は力押しをするしかありませんか」


「正直、正攻法よりもアヤメのそれが一番早い」


「あはは……、ステージギミック全否定だけどね」


 アヤメの案に対し、俺が賛同する。コタローは苦笑いを浮かべていたが、だからと言ってより良い打開策があるわけでも無かったようで、それ以上は何も言わなかった。よし、アヤメ、やっちまえ。


「死者よ安らかに眠りなさい、『礫地術・土牢柩どろうきゅう』」


 アヤメが忍術を唱えると、巨大骸骨の周囲を囲うように土壁が盛り上がっていき、半球状に包み込んだ。そして、掌を握り込む。死者を弔う棺桶は握り込まれるのと連動して圧縮されていく。そして、最後には野球ボール大くらいの球にまで縮んでしまった。

 あそこまで圧縮されては身体の再生どころではないだろう。それを示すように召喚されていた骸骨の群れもさらさらと光の粒子となって消え去った。


「ははっ、さすがに凄いな。物理攻撃効かなそうな相手を、その上から物理で捩じ伏せるとは、火力最強忍者の面目躍如ってとこか」


「あまり持てはやさないでください」


 そうは言っても仕方がない。素直に感心してしまい、褒め言葉が自然と零れたのだから。言われた当人であるアヤメは恥ずかしそうに顔を手で隠した。


「なに照れてんだよ、タイドとか他のシャドウハウンドの隊員から褒め言葉くらい毎回もらうだろ」


「それはそうですが……、でも、あなたが褒めてくれるのは珍しいじゃないですか」


「あー……、そうか?」


「そうですよ」


 割と俺は相手を褒めて伸ばすタイプだと思ってたんだけどな。弟子のエイプリルとかには結構褒め言葉を送ってた気がする。でも、言われてみればアヤメは最初から自分よりも上の立場で、忍者ランクも上の存在だった。格下の俺がアヤメを褒めるというのも何だかおかしな話だ。そう思って心で思っても口にはあまりしていなかったかもしれない。


「そんなに言うなら、今後はもう少し意識して言おうか?」


「ホントですか?! ……あっ、いえ、今のは無しです。別にハイトに褒められたからって、どうというわけではありませんから」


 急に気丈な態度でツンツンしだした。分からん、女心は山の天気のようだ。移り変わりが激しすぎる。そんな俺たちの下へ、コタローの演技のような怒った声が飛んできた。


「そこのお二人さん、まだ輪入道が残ってるの忘れないで欲しいんだけど?」


「あっ、そうでした! すぐに加勢します」


 コタローの言葉にハッとしたアヤメはすぐさま輪入道へ向かって行った。車輪の進行方向に石壁を生やして動きを止め、左右から岩石の立方体二つで挟み、圧し潰す。一対一なら圧倒的だ。速やかに輪入道も倒してしまった。

 それから壁に生えていた目玉はいつの間にか姿を消していた。まあ、見るからに直接的な戦闘力は持って無さそうだったから撤退したのだろう。


「よし、この調子でドンドン進んでいこうぜ」




 その後も幾度となく現れる妖怪の群れを倒し、ダンジョンを進んでいく。

 数度の戦いを経た後、道の先に不自然な広間が現れた。広々とした円型の空間は、まるでダンスホールを思い起こさせる。しかし、ことゲームにおいてこのような空間はまた異なった印象を与える。つまりはボス部屋だ。

 広間に足を踏み入れる。その瞬間にゾワリと冷気が身体中を駆け巡ったような感覚がした。


「……いますね」


「あぁ」


 アヤメの零した言葉に、俺は短く答えるのが精一杯だった。それくらいの圧力を前方から感じたのだ。



 奥には一人、ぽつんと佇む人型のモンスターがいた。

 半透明の白い布を頭の上から被り、顔はうつむき加減で真っ黒な面を被っているのだけがかろうじて分かった。身体には薄紫色の着物をゆったりと着て、足には高下駄を履いている。


 不意に、モンスターが顔を上げた。ベールの様に垂れていた白布を両手で持ち上げながら、こちらを向く。ここで真っ黒な面が般若の顔をしていることが分かった。同時にアルフィの「ひぃ」という小さな悲鳴が聞こえたが、努めて無視する。今、相手から注意を逸らすのは危険だと全身でぴりぴりと感じていたからだ。


くびきの監視者・不死夜叉丸』


 視界に敵モンスターの名が表示された。わざわざ名前が表示されたってことは、つまり目の前のモンスターがダンジョンボスで大正解ということだ。そして、名前から考察するにユニークモンスターで間違いないだろう。

 久しぶりにぞくぞくする強さを感じる。そして、そんな強敵の出現に心から楽しんでいる自分もいた。拳を握り込む。さあて、公式イベントの美味しいところをご相伴に預からせてもらおうかね。






********************


完全に私事なんですが、私が推しているアイドルマスターシンデレラガールズのライラさんというアイドルにボイスが付くことが決定しました。嬉しすぎて思わず全く関係ないこの場で言ってしまいました。嬉しい……!

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