第166話 ルペルの最悪な一日・破
▼ルペルまたはルンペルシュテルツヒェン
セオリーとシュガーミッドナイトの関係性。
尋ねてみて返ってきた答えは、まぎれもなく友であった。
「君の興味はユニーク忍具だけに注がれていると思っていたが、NPCにも向いていたのか。まさか、ユニークNPCのためにサーバー移動までするなんてね」
「……ん? ……え、あぁ、うん」
相変わらずのポケっとした表情をしてシュガーミッドナイトは頷く。
私の質問に対して馬鹿正直に答えてくれるからか、何やらイリスが彼のことを肘で小突いていたけれど、もしかしたらセオリーとシュガーミッドナイトの関係は極秘だったのかもしれない。もっと言えばイリスもその交流の中に加わっているわけだ。
「イリス、君はシュガーミッドナイトとセオリーどちらの関係者だったのかな?」
「あら、私はこの男みたいにペラペラと簡単には答えないよ? というか、気軽に話し合ってるけれど二人は親しいのかしら?」
さすがにイリスは口が堅く情報が引き出せなかった。というかこの反応が普通だろう。シュガーミッドナイトは昔馴染みとはいえ口が軽すぎる。
そんなイリスは素朴な様子で私とシュガーミッドナイトの関係について質問を口にした。それに対し、シュガーミッドナイトは大仰な手振りで私を指し示しながら説明する。
「あぁ、ルンペルシュテルツヒェンとは関西地方に居た頃、同じクランの仲間だったことがあるんだ」
「へぇ、クラン。何ていう所なの?」
「知っているかな。ニド・ビブリオという」
「……あぁ、あのユニーク情報の蒐集に命かけてる集団ね」
イリスは若干の呆れを含んだ目線を投げかけつつ、私とシュガーミッドナイトを見た。彼女の呆れはある意味正常な人間の真っ当な反応だ。一般人から見れば過度のコレクター気質と言ってもいいような狂気がニド・ビブリオにはあったからだ。
「それがどうしてヤクザクランなんかに?」
「それには理由があるのさ」
かつて私とシュガーミッドナイトはともにニド・ビブリオで活動していた。彼はユニーク忍具部門で、私はユニークNPC部門だ。一緒にクエストをすることなどは無かったけれど、お互いに意識はしていたと思う。少なくとも私はそうだ。
ユニーク忍具部門のトップにして最多ユニーク忍具保持数を記録していた男、シュガーミッドナイト。ニド・ビブリオにおいてこの男を意識しないクランメンバーはいなかっただろう。
「ルンペルシュテルツヒェン、お前はまだあの予言に囚われているのか?」
シュガーミッドナイトは私を憐れむような声で、それでいて真剣そのものの表情で尋ねてきた。
「囚われている、か。それは違うよ。私は次の
「本当にそんなことが起こり得るのか?」
「少なくとも私は信じているよ。それにワールドクエストにも書いてあっただろう」
彼の目には疑心が浮かんでいるようだった。信じられない、そう顔に書いてある。
しかし、同時に私の言ったワールドクエストのくだりに書かれていた文言を思い出したようで、もしかしたら、という気持ちと
「……二人の世界に入ってるところ悪いけど、私にも分かるように説明してくれない?」
真剣な表情で話し合う私とシュガーミッドナイトの空気に割って入ったのはイリスだ。
「あぁ、すまんな。順を追って話そう。……半年以上前だ。ルンペルシュテルツヒェンは関西地方で預言者と呼ばれるユニークNPCを発見した」
シュガーミッドナイトはイリスの方へ向き直ると、かつての出来事を説明し始めた。
それは私がニド・ビブリオを脱退し、パトリオット・シンジケートに入るキッカケとなった出来事だった。
かつての私はニド・ビブリオの一員として日夜、ユニークNPCの情報を求めて奔走していた。
その頃、私が目を付けていたのは関西地方に広がる
しかし、難しいフィールドと言うことはその分だけ実入りがあるということでもある。
仙人は発見難易度が低いものから高いものまで千差万別であり、仙人探しに熱狂したプレイヤーたちの手により捜索が行われ、毎日のように新しい仙人が発見されていた。それこそ山の名と同じく八百人いるんじゃないかとまで言われたほどである。
何故、仙人探しにプレイヤーたちが熱狂したのかというと、発見難易度が高い仙人の中には特殊な忍術を教えてくれる者がいたり、称号を与えてくれる者がいたりしたからである。見つけるだけで新たな忍術を得られるのは破格だ。そうして多くのプレイヤーたちが八百剣山に足を踏み入れていった。
私が
三百近い数の仙人発見報告があったけれど、おそらくは少数のプレイヤーによって秘匿されている仙人もいただろうと考え、私はその秘匿されている仙人を虱潰しに発見したいと思っていた。
一種のコレクター精神である。
何ヶ月、山に登っただろうか。並みいるプレイヤーたちの中でも私が一番長く仙人を捜索していた。そして、気付けば仙人発見件数が三桁に上っていた。もちろん、ソロプレイヤーにおける最多仙人発見数だ。
簡単に見つかる仙人はほとんど探し尽くされており、私が見つけた仙人はほとんど発見難易度が高い者ばかりだ。
そうやって何ヶ月も山に登り続けた。
そして、その中でたまたま見つけたのが『預言者』だった。
八百剣山の中にも山々の中で難易度が異なる。
その日、登っていた「
頂上へ到達する一歩手前に、グラフィック的に見ても、踏み外せば確実に死が待っているだろう断崖絶壁の道があった。猛吹雪が横から殴りつけてくる場所ではあったが、とはいえ頂上一歩手前のその道まで辿り着けた忍者であればなんのその、容易に踏破できるルートである。
しかし、私がその道を通った時、突如計算外の突風が吹いた。下から突き上げるように吹いた強風は気力により地面と接着させていた足を無理やり浮かび上がらせ、バランスを崩した私はそのまま崖下へ真っ逆さまに落下した。
死を覚悟した。もちろん、リスポーンすれば良いのだが、こんな突風に足を取られて死亡するようではきっと疲れているのだろう。今日の捜索は一旦止めにしよう。そんなことを思っていた。
しかし、それから待てども死は訪れない。自分の状態を確認してみると、断崖絶壁の中腹で下から突き上げる突風が絶えず吹き続け、そのおかげで身体が空中に浮き、落下せずに静止していた。
もしや、特殊な隠しルートを発見したのか?
心拍が跳ね上がるのを感じた。
頂上を目前にしたプレイヤーがわざわざ崖から飛び降りて自殺することもそうそう無いだろう。となると、偶発的にしか発見できない場所だ。もしかしたら私が最初の発見者かもしれない。
空中で静止したまま、周囲を観察する。よく見てみれば崖の方に洞窟のような穴が開いていた。私は逸る心臓の鼓動を抑え付けながら、洞窟の入り口近くに生えた低木へ向けて鉤付きロープを放った。
しっかりと引っ掛かったことを確認してから、突風によって身体を支えられていた場所から移動した。風による浮力が失われ、自由落下が再開される。
引っ掛けていた鉤付きロープが伸び切り、私の身体を支えた。崖の岩肌に両足で着地し、気力で吸着させると、そこからは地道にロープ伝いに垂直な崖の面を登っていくだけだ。ほどなくして洞窟に到達した。
洞窟は大して奥行きもなく、六畳くらいの広さしかなかった。そして、そこに仙人が一人だけ座り込んでいた。初見、私はその人物のことをまるで即身仏か何かと思ってしまった。それくらい肌は水分を失い乾燥し、身体全体も小さく干からびていた。
生きているのかも疑わしい状態だったが、観察しようと近付いてみると、急に仙人の口から音が聞こえた。唇などは全く動かず、ただ音だけが漏れ聞こえてくるようだった。
「約束された解放の時、
私は仙人の口より確かに聞いた。そして、同時に青白い電子巻物が現れ、新たなクエストが表示されたのだ。
『ユニーククエスト:世界の滅びを食い止めよ』、と。
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