第161話 三神ポートタワーでアバンチュール

今回は二手に分かれた攻撃部隊の内、

エイプリル&タカノメの女子チームの一幕です。


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▼エイプリル


 私とタカノメは索敵に使えそうな高所を探して港を歩いていた。

 カザキさんから新たに敵側の配置を連絡してもらったため、それを頼りに警戒の薄い場所を縫うように進んでいく。

 突然、タカノメが私の前方を遮るように腕を伸ばした。若干、つんのめるようにして立ち止まる。


「どうしたの?」


 声を潜めて尋ねると、人差し指を口元に当てたタカノメがゆっくりと逆の手で前方にある建物を指差さした。

 物陰に隠れつつ、タカノメが指差す建物へと目を向ける。そこにはすでに見張りの忍者が陣取っていた。


「危なかった~。あのまま進んでたら見つかってたね」


「……万全を期すなら、そろそろ姿を隠して進むべき」


「分かった、それじゃあ影の中を進みましょう。『瞬影術・影呑み』」


 とぷんと足元から影の中へ沈み込んでいく。そのままタカノメの手を取り、一緒に影へ潜り込んだ。


「地上の索敵は私がする。あなたは私の言う通り進んで」


「了解!」


 タカノメの指示を頼りに手を取ったまま影の中を泳ぐように進んでいく。夜の闇は影に潜む私たちへと味方してくれる。

 建物の影から影へと突き進む。私の気力総量から逆算すると『影呑み』の制限時間はおよそ十分程度だ。とっさに身を隠す際にも使えるように気力には余裕を持っておきたいことを考えると、三分くらいは使用できる分の気力を残しておきたい。タカノメと制限時間に関して共有して、時間内で辿り着けるひとまずの目標地点を定めてもらう。


「あのタワーの上が良さそう。右手の裏に回って、そこで地上に出ましょう」


 言われるがまま港の中心地からやや東に寄った位置にあるタワーへ近寄る。カザキから事前に渡されていたマップによると、三神貿易港のシンボルとして建造された「三神ポートタワー」という建物らしい。

 タワーの側面に張り付くようにして地上へ這い出す。タワーの周囲は遮蔽物などもあまりなく、上から見張っていれば敵の接近も見逃しようがない。それこそ私のように影へ潜って視線を切ることができなければ近づけない立地だ。


「でも、こんなに良い立地だとここもすでに敵の忍者が陣取ってそうだよね」


「そう、おそらく中には敵の忍者がいる。だから私たちは中に入らない」


「中に入らないってどうするの?」


 私の疑問に対して、タカノメの答えは単純明快だった。

 無言で彼女が羽織っているものと同じマントを一つ手渡される。これは何? という質問をする間もなく、タカノメは三神ポートタワーの方へと身体を向けると手足に気を『集中』させ、一歩ずつタワーを登り始めた。


「さあ、登って」


「えぇ……、さすがに外から見たらバレちゃうんじゃない?」


「問題ない。『迷彩オン』」


 タカノメがキーワードを唱えると、途端にマントの色がタワーと同じ色へと変化した。さらにマントと一体化しているフードまで被ると完全に同化して見分けがつかなくなった。


「すっごい……、こんな忍具もあるんだ」


 驚きつつも先を行くタカノメの後を追う。

 しばらくの後、上手く死角を通りながらガラス張りの展望台を抜け、さらに上にある管理・点検用の通路まで登り切った。


「足音を立てないように気を付けて」


 タカノメの注意を聞いてより一層気を付けて歩く。たしかに鉄製の足場は少し気を抜くとカンカンと甲高い音を立ててしまう。万が一、そんな音を立ててしまえば台無しだ。展望台で監視しているであろう敵の忍者にもすぐ気付かれてしまう。


「私は隅っこで小さくなってるね」


 ここまで来ればあとは私にできることはそんなに無い。下手に音を立てたりしないよう、隅で待機しているのが良い。

 あ、そうだ、気力回復の丸薬を今の内に飲んでおこう。少しでも気力を回復させておけば、いざという時により長く『影呑み』で潜伏できる。


「違う」


「え……?」


「あなたの位置はここ」


 タカノメは自分がうつ伏せになった場所のすぐ隣を示す。

 肌と肌が触れ合わんばかりの真横だ。


「あなたには私の隣にいて欲しい」


 トゥンク、これってもしかして愛の告白?!

 でも、私たち女の子同士だよ。あっ、でもタカノメって初めて会った時もコヨミと一緒にいたし、つまりそういうことなの?


「常に私の体のどこかに触れ続けていて」


「なっ、そんな大胆な……」


 温もりを常に感じていたいだなんて、そんなハレンチなこと要求してくるなんて……!


「わ、私にはセオリーがいるんです。あなたの要望には応えられません」


 顔を手で覆って身体をくねらせる。二人きりになった途端に私の体を狙って来るだなんて見損なってしまった。

 身の危険を感じ、より一層通路の隅へと退避しようとする私の腕をタカノメは力強く掴んだ。


「な、なにをするの!」


「……あなたこそ何を言っているの?」


 心の底から意味不明だと言わんばかりの表情でタカノメが私を見つめる。


「だって、私を隣に寝かせてハレンチなことするつもりだったんでしょう?」


「……え?」


「……あれ?」


 私とタカノメは頭の上に疑問符を浮かび上がらせる。

 目を点にして頭を捻るタカノメを見て、何か私は思い違いをしているのではないか、と気付いた。


「えっと、説明を聞いても良いかな?」


「……敵陣営にスナイパーがいることは確定している。もし、私が一発でも撃てば場所がバレる。その時にあなたを近くへ呼び寄せてる間に撃ち抜かれてしまうでしょう。だから、瞬時に影へ逃げ込めるように隣にいて欲しかったの」


「な、なぁんだ。そうだったの。私ったら早とちりしちゃった」


「真面目な作戦の最中にそんなこと言うわけない」


「最近見てるドラマで略奪愛とかがよくあるから、そういうこともあるのかと……」


「そういうのはフィクションの中だけ。感化され過ぎ」


 私としては世間を知る手掛かりはテレビの中だけだった。だからドラマ作品なんかも貴重な情報源だったのだけれど、意外とドラマでよくあることがそのまま現実でも適用されるわけではないみたいだ。

 自分の中の常識に修正をかけつつ、タカノメの隣でうつ伏せになる。彼女の要望通り、服の裾をキュッと掴む。これで『影呑み』のオーダーがあれば、いつでも一緒に影の中へ飛び込める。


「こちらタカノメ。三神ポートタワーに到着。長距離索敵を開始する。そちらの座標を求む」


 タカノメはカザキ手製の通信機を用いて連絡を始める。

 今回、私たち攻撃部隊はパーティーを組んでいるため、念話術も使用できる。しかし、念話術は上位の諜報術を習得している忍者には盗聴される可能性があるのだ。

 諜報系統の忍術は派手さが無く地味なためプレイヤーには人気が無いけれど、NPC忍者の中には非常に実用的な忍術であるとして習得している者も多い。

 もし、イリスやシュガーなどのように頭領ランクの忍者であれば、相応に高い防諜術も習得している為、盗聴を恐れずに念話術を使用することもできるのだが、あいにくとタカノメは下忍であり、私も中忍頭成り立てである。とても私たちの防諜術では盗聴を防げない。


 そんな低ランクの忍者にもオススメなのが通信機の忍具である。特に手製の通信機の場合、作成者の防諜術の習熟度によって盗聴難易度が変わる。

 今、タカノメが使っている通信機はカザキが作ったものだ。そして、カザキは戦闘面を捨てた分、防諜術を極めていた。頭領のイリスが太鼓判を押したほどだ。彼の作る通信機は盗聴の心配はほとんどない。

 頭領ランクまで登り詰めた忍者が極限まで諜報術を磨き上げ、盗聴を仕掛けてくるとなれば話は別だけど、そこまでするのはよほどの酔狂くらいのものだろう。


「位置把握。これより索敵支援を開始する」


 こうして、一波乱あったけれども、無事にタカノメを高所へ送り届けることに成功した。彼女はすぐさま座標から位置を割り出すと、通信機ごしに攻撃部隊の進行方向へ向けて索敵を開始したのだった。

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