第155話 思い出したかのように筋力1
▼セオリー
どうしてこうなった。
後悔したところでもう遅い。賽は投げられてしまった。
パットの案内により、逆嶋バイオウェア中央支部で一番広いフロアに通される。本来は講演会や催しなどに使われるワンフロアぶち抜いた大広間だ。
「カザキぃ、やっぱり勝たないとダメかなぁ」
「何を弱気になっているんですか。自分の蒔いた種でしょう」
「まさか戦って実力を示せ、なんていう展開になると思わなかったんだよ」
ロッセル君、脳筋過ぎんか?
もし、俺が頭脳明晰でそんな部分を評価されて総大将に選ばれていたらどうするんだ。僕は頭脳労働係なんだ、キミのように暴力が全てだと思ったら大間違いだよ、と煽り散らかしてやってるぞ。
いや、実際のところ俺は軍師タイプではないのでロッセルの言うように手合わせで判断するのが正しいんだけどね。というか、逆嶋バイオウェアの忍者ということは俺の情報はあらかた知ってるのか。その上で手合わせを願い出てきたわけだ。あれ、もしかして手の内とかもバレてんじゃね?
色々と思考が脳内を駆け巡りつつ、カザキへ弁解しているとハイトが割り込んできた。
「傍目には納得いかなきゃ掛かって来い、って挑発してるようにしか見えなかったぜ」
「え、ホント? 全然そんなつもりは無かったんだけど」
「ま、頑張れよ。お前の固有忍術なら不意突きゃ勝てるだろ」
ハイトは気楽そうに言うと、そのままシャドウハウンドの集まるグループへと帰っていった。ちくしょう、気楽に言いやがって。そんな簡単に不意を突けるなら苦労はしないのだ。
ちなみに、パットから聞かされた情報によるとロッセルは上忍頭なのだという。組織抗争の際は逆嶋バイオウェアの本社で防衛を任されていたそうだ。
そう、上忍頭だ。
頭領一歩手前の実力者。今まで見たことのある上忍頭はあまり多くない。パトリオット・シンジケートのリデルやシャドウハウンドのアヤメとタイドくらいだ。いずれも実力者揃いと言って良い。正直言って、今の俺が彼らと一対一で戦ったところで勝てる気はしない。そんな上忍頭を相手にして勝たないといけないわけだ。……え、無理じゃん。
フロアの真ん中ではすでにロッセルが準備万端といった様子で待っている。そんな中、俺はさらに重要なことを忘れていた。
「そういや、エイプリル。言いにくいんだけどさ、咬牙が壊れちゃった」
曲刀・咬牙の件だ。パトリオット・シンジケートの襲撃を受けた際、遠距離からの狙撃を受けて破壊されてしまった。バタバタと忙しくしていたため、エイプリルへの報告が遅れてしまっていた。
「あちゃー、そっか。耐久値があったからいずれは壊れると思ってたんだ。でも大丈夫だよ、すぐに直すから壊れた部分渡してもらえる?」
「それがさ、戦闘の最中だったからこれしか無くて……」
あの場ではバタバタとしていたから壊れた破片なども集められていない。俺は残った柄の部分だけをエイプリルに渡す。
「刃の部分が無いの……?」
青ざめるエイプリル。そうだよな、柄だけじゃ直しようがないよな。
そんな俺たちに救いの女神は微笑んだ。
「
アリスだ。パトリオット・シンジケートの戦闘部隊『
「おぉー! ありがとう、アリス!」
「主様に喜んで頂けたのであれば回収した甲斐がありました」
本当にできた腹心を持ったものだ。俺とアリスはそれぞれ咬牙の破片をエイプリルへ渡す。
「よし、これならすぐに直せると思うよ」
久しぶりにエイプリルが簡易工房を展開させているところに直面した。エイプリルはあまり俺の前で忍具作成の技能を使わない。裏でこっそりと練習して驚かせたいらしい。
簡易工房の真ん中に空いた穴へと咬牙の破片を放り込んでいく。それから気を集中させ、形を想像し、創造する。一度作った武器であるなら修復は最初の創造時より簡単になるだろう。そう思って見ていたけれど、いつまで経っても修復は終わらない。
五分ほど経っただろうか。とうとうエイプリルは観念したように大きく息を吐いて忍具作成を中断した。
「……ごめん。どうしてか修復が上手くいかないみたい」
「そうみたいだな」
一体どうしてなのか。理由は分からないけれど、普通の忍具のように欠けた部分をちょちょいと修復したりという風にはいかないようだ。
「……ごめんなさい」
「いや、気にするな。そもそも壊れたのは使い手である俺が原因だ。破片は預けておくから、いずれ咬牙を直してくれないか?」
「うん、分かった!」
忍具作成に関して俺は才能が無さすぎて全く戦力にならない。あとはエイプリルに任せよう。
「すまない、待たせた」
待ってくれていたロッセルへ謝罪しつつ、フロアの中央へ進み出る。周囲には俺たちを囲むように今回集まった人々が観戦していた。カザキやパットが呼んだ者たちは俺の実力を見定めるかのように真剣な眼差しを向けている。反して俺を知る者はお気楽観戦ムードだ。
「手持ちの武器が壊れているのか?」
「パトリオット・シンジケートに襲撃された時にちょっとな」
俺は仕方なしにクナイを取り出して構える。
「ふむ……、それで実力を出し切れないと言われても困るな。得意な武器の形状は?」
「突然、なんだ? 一応、咬牙は曲刀だったけど……」
俺の答えを聞いたロッセルは床に手を当てると忍術を唱える。
「『剛柔術・軟化』続けて『形状指定』、『硬化』」
なにやら連続して忍術を使っているようだ。床に使われていた物質が変形し、形を変え、そして、最終的には一振りの曲刀が生み出されていた。
「これを使え」
そう言って曲刀を放ってくる。咬牙と形状は異なるけれど、大きさは同じようなものだ。あれなら不可もなく使えるだろう。
「ありがとよ」
放られた曲刀を空中で掴み、受け取る。
そして、そのまま重さに引っ張られて引っくり返った。
「ぶふっ、あははっ、タカノメちゃん見てよ! 格好つけたのに引っくり返ってる!」
「……コヨミ、くふっ、後輩を笑うのは良くないよ」
そういうタカノメも目を反らして笑うのを
笑ってるヤツを睨み付けるとタカノメは気まずそうに目を下に向けたが、コヨミとハイトは変わらずに笑っていた。ちくしょう、今盛大に笑ってるヤツら覚えたからな。後で覚悟しておけよ。
「悪い。重すぎて持てないわ」
「アンタの筋力、どうなってんだよ……」
最初はギラギラとした目で俺を見ていたロッセルも、さすがに毒気が抜かれたのか、呆れたように呟いた。
「何の呪いか知らんけど、筋力が最低値のままなんだよ」
「それじゃあ、ほとんどの武器が使えないだろう」
「あぁ、だから俺の曲刀はエイプリルに作ってもらったオーダーメイドだったんだ。いやぁ、近頃は武器の重さで困ることなかったから忘れてたわ」
だが困ったな、そうなると武器が無い。
どうしようかと思っていると、ロッセルは壁際へ向かい、飾られていた観葉植物に手を触れた。先ほどと同じように忍術を唱えると瞬く間の内に植物が圧縮され、形状を変化させる。
「木製ならどうだ。ただの棒だが強度に関しては保障するぜ」
そう言って投げ渡したのは木製の棒だ。長さは俺の身長より少し長いくらい、二メートル弱ってところだろうか。空中で掴み取ると今度は引っくり返ったりもせず、重さもちょうどいい具合だ。
「おぉ、これは問題なさそうだ。サンキュー!」
「それと俺はアンタの固有忍術に関して報告書で知っている。だが、それじゃあ、フェアじゃないからよ。俺の固有忍術に関しても説明しておく。さっき見た通り、俺は手に触れた物体の硬度を操る。形状もある程度自由自在だ」
「なるほど、それで床や植物の形を変えて武器の形状にしたのか」
物体の硬度と形状を操る。わりと何でもありな忍術だ。発想次第で応用力も高そうだし、面倒くさいことになってきたな。
「中忍頭相手に大人げないかもしれないが全力でやらせてもらう。どうしのぐのか見せてもらうぞ」
そう言ってロッセルは徒手空拳のまま構えを取り、俺へと対峙するのだった。
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ロッセルの固有忍術『剛柔術』。
簡単に言ってしまえば鋼の錬●術師みたいな忍術です。
戦闘まで含めて一話で納めたかったのですが、
ギャグパート含めて書いてたら長くなりそうだったので分割。
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