第121話 八百万カンパニー連続殺神事件
▼セオリー
「八百万カンパニー連続殺神事件の情報共有を始めるよ!」
コヨミは集まったプレイヤーやNPCたちを前にして、事件のあらましを説明し始めた。
概ね、俺とエイプリルが事前に聞いていた話と共通するけれど、細部は所々ぼかしている。
「気付いている人もいるかもしれないけれど、ここ一ヶ月の内に、あたしが『降神術』で呼んだ神様が三人も殺されてしまったんだ」
コヨミの発言を受け、集まった者たちの反応は様々だ。通常のNPCやプレイヤーたちは比較的動揺が大きいようだ。
それに比べて、コヨミの姿を借りている他の神様たちは落ち着いている。神様たちはこの世界で殺されたとしても仮初の身体を失った程度のことだと理解しているからだろう。
「犯人はまだ分かっていないけれど、執拗に神様を狙っているかのような動きを見せているから気を付けてね」
一つ目の嘘はここだ。
こちらとしては既に襲撃者が暗殺者クランのツールボックスである、というところまで掴んでいる。こちらとしてはあまり襲撃者側に警戒心を持たせたくない。そのため、神様が殺されたところまでは分かったけれど、それ以上の情報が無い、という風に装うようだ。
「この件を受けて、八百万カンパニーとしては事件が解決するまでの間、神様を含む八百万カンパニーの所属職員および忍者は最低でも三人以上の団体行動を心掛けるようにしてください」
八百万カンパニーとしてもNPCをいたずらに殺されたくはない。そのための対抗策として、しばらくはNPCたちに団体で動くように促すようだ。
所属するプレイヤーにも周知したのは、少しでもNPCたちについて気にかけてもらおうという意味もあるのかもしれない。襲撃された時、近くにプレイヤーがいれば例えNPCと一緒に殺されてしまったとしても、プレイヤーはリスポーンできるのでより多くの情報を集められる。
「そして、最後に紹介する人がいます」
現状の共有、対症療法の周知ときて次に必要なのは解決方法である。
つまり、俺の紹介というわけだ。コヨミは隣に立っていた俺を手招きして中央に立たせる。多くの視線が一斉に俺へと集まった。誰だと訝しむ視線、不審に思う視線、好奇の視線、その感情は様々だ。しかし、誰一人として俺のことを知る者は居ない。
まずは、挨拶から始めよう。
「初めまして、桃源コーポ都市の企業連合会で会長を任せられているセオリーだ。今回は八百万カンパニーのコヨミより要請を受けて参上した。これから事件解決へ向けて協力するので、よろしく頼む」
ひとまず、こんなところか。
当たり障りなく挨拶を終えて脇に控える。そんな俺と入れ替わるように、再びコヨミが中央に立った。
「というわけで、事件解決まで企業連合会の会長が協力してくれることになりました。彼への信頼は、あたしの名の下に保障します。皆も彼に協力してあげてねー!」
この辺が二つ目の嘘、というか釣りの部分か。
俺と言う外部協力者の存在を共有して、信頼性をコヨミが担保した。今後、俺が何かしていても事件解決のために捜査をしているだけとしか取られない。
ツールボックスの暗殺者も俺を美味しい獲物だと認識したはずだ。俺を殺して成り代われば事件捜査の進捗や容疑者として挙がっている人物、防衛警護の予定などが筒抜けになる。
さらに、少し不審な動きをしていても捜査のための行動だったと言えば気取られる可能性が低くなるだろう。なんなら、暗殺をした直後に自分で第一発見者になったって良い。
俺と言う存在に成り代わる旨味はいくらでも挙げられる。
それに、こちらとしてはツールボックスの犯行だと分かっていない体で話を共有しているので、成り代わられることに対する警戒をしなくても良い。
あとは、俺という釣り餌に暗殺者が引っ掛かってくれるのを待つだけだ。
八百万カンパニーが置かれている状況を共有し終えると、コヨミは解散を指示した。
プレイヤーたちの動きが一番早い。彼らは暗殺の対象として一番狙われにくい立場だ。殺したところで復活するし、暗殺者側としては情報を取られるリスクを負うだけの相手になる。だからこそ、彼らは単独で素早く行動を開始したのだろう。
今日の情報共有の集会に参加したプレイヤーの数は、コヨミによると多くはないのだという。せいぜい所属プレイヤーの四分の一くらいらしい。
それもそのはずで、言ってしまえば今回の招集は一プレイヤーであるコヨミが声を掛けただけに過ぎない。公式のイベント声明ではないのだ。
いくら八百万カンパニーに所属しているプレイヤーとはいえ公式の声明以外の呼びかけは優先度が低くなるのが当然だ。今回も大概のプレイヤーは後から
だから今回、集会に参加したプレイヤーは集会へ参加することを見送ったプレイヤーたちに一早く情報を共有するために奔走し始めたのだ。
クランの中でユニークNPCの数は有限だ。プレイヤーの数が同数のクラン同士が戦いになった時、勝負を分けるのはユニークNPCの数だ。そんな戦力的にも大事なユニークNPCがここ一ヶ月の内に三人も殺されている。
プレイヤーからしても、それなりに大きな事件だったのである。今のところはプレイヤーへの実害は無いけれど、これによって将来的に被害を受ける可能性は十分に考えられる。
おそらく八百万カンパニーに所属するプレイヤーたち全体に情報が浸透するのも、そんなに遅くはならないだろう。
NPCの忍者や普通の職員はどうしたものかと右往左往している。一人で行動してはいつ暗殺されるか分かったもんじゃない。だから、動くに動けないといった状況だろうか。
それに対して上位ランクの忍者と思われる人物がいくつかのグループに分けていき、集団での自衛を伝えていく。
正直な話、彼らはそこまで警戒する必要はないんじゃないかとは思っている。
何故ならツールボックスの暗殺者はいたずらに暗殺を繰り返しているわけじゃないように思えるからだ。
現時点で判明している被害はユニークNPCの神様三人。この時点でランダムに殺害している線は消して良いだろう。これだけ多くのNPCが八百万カンパニーに所属しているのだ。それなのにユニークNPCばかりが三人も連続して殺されるというのは、確実にユニークNPCを狙っているとしか思えない。
とはいえ、通常NPCに情報共有しない訳にもいかないし、共有したからには対策を伝えて実施しないと安心できないだろう。その辺のフォローは八百万カンパニーの中で頑張ってもらうしかない。
集会を終えた後、俺はコヨミに連れられて社務所の奥にある休憩室へ通された。
前回もここで話をしたな。
「というわけで、本格的な対策会議と行きましょうか」
この休憩室にいるメンバーはコヨミ、タカノメ、エイプリル、俺の四人だけだ。
「この四人だけで事件を解決するのか?」
「プレイヤーに関しては信頼できる人をもう何人か見繕うよ。でも、あまり大所帯になるとこっちの狙いを相手に気取られる可能性も高まるからねー。あたしたちだけで解決するくらいの意気込みでちょうど良いかもしれないかな」
「それもそうか」
俺は頷きつつ、話を進める。
「それで、暗殺者を
「そうだねー。あれだけ美味しい情報源があったら喰い付いてもおかしくないでしょう?」
「しかし、喰い付かれたとして、俺が暗殺者に勝てない可能性も十分あるだろう」
「うんうん、それはそうだね。でも、大丈夫。それをなんとかするのがタカノメちゃんの仕事だからね」
コヨミの発言を聞いて、俺はタカノメへと視線を移す。
タカノメはこくりと頷くと、羽織っていたマントを開き、中に隠していたものを見せる。その手には一丁のスナイパーライフルが握られていた。……いや、ちょっと待て、スナイパーライフルの大きさはタカノメの身長と同じくらいの大きさがある。マントを羽織っていたとはいえ、どこに隠していたんだ。
……違う、ツッコミどころはそこだけじゃない。そもそも、忍者だよな? なんで忍者がスナイパーライフル持ってんだ。
「簡単に言えばタカノメちゃんは仕留め役ってとこかな」
「この、スナイパーライフルで?」
俺が恐る恐るタカノメの持っている銃を指差すと、コヨミとタカノメが揃って頷いた。
つまり、囮である俺が襲撃されたらタカノメがスナイパーライフルで襲撃者を倒すという算段らしい。
「なるほどな、それなら俺の近くで護衛する必要がないから、襲撃者も安心して俺を襲えるってわけだ」
とりあえず、ツッコミたいことが色々とあったけれど、それらを一旦飲み込んで作戦における有効性を確認した。
そうだな、今回の作戦的にはぴったりかもしれないな。にしても、コヨミはよくこんなニッチな攻撃方法を持ってるヤツを引っ張って来れたな。そのことが一番の驚きだよ。
そんな風に作戦の流れを確認し終えたところで、タイミングよく休憩室の襖が開き、神主がお茶を持ってきてくれた。
「コヨミ様もセオリー様もお疲れ様でした。お茶を用意しましたので、どうぞ」
彼は、最初に俺とエイプリルがコヨミへ会いに来た時、案内をしてくれた神主だ。
それからタカノメとエイプリルにも順にお茶を渡していく。コヨミが平然とお茶を受け取っている様を見ると、巫女が神主を顎で使っているような構図で少し面白い。立場的に上下は無いはずなのになぁ。
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