第114話 神を殺すは誰が為に
▼セオリー
「まずは何から説明すれば良いかなー」
コヨミは眉根に皺を寄せて思案した。それから、すぐにポンと掌に拳を当ててから喋り出す。
「そもそも殺されたユニークNPCっていうのは、あたしの生み出した神様なんだよね」
「ほうほう、なるほどな。……って、さっきの忍術ってユニークNPCまで生み出せるのか?!」
ユニークNPCは基本的に通常のNPCよりも力を持っている場合が多い。そんなユニークNPCを生み出せるというなら、俺が思っていた以上に破格の称号なのではないか。
しかし、コヨミは手を横に振って俺の疑問を否定する。
「いや、むりむり。基本的には通常NPCの神様しか生み出せないよー。だけど、その神様も成長するからさ。たまにユニーク化することもあるんだ」
「あぁ、なんだ。そういうことか」
つまりは通常のNPCがユニークNPCになるのと同じように神様がユニークNPCになる場合があるということか。
そもそも好き勝手に動く神様がユニークNPCになったところで、やっぱり言うことを聞いてくれる訳ではないだろうし、そこまで破格でもないか。
「それにしたって、どうして神様ばかりが殺されてるんだ?」
コヨミが言うことを鵜呑みにするなら、八百万カンパニー所属の神様が三人も殺されたということになる。それなら確実にコヨミが生み出す神様を狙っているとしか思えない。
「言い方が悪かったね。必ずしも神様だけが狙われてるとは限らないんだ。こちらで把握してる限りで正確に殺されたと分かってるのが神様三人ってだけなんだよ」
「どういうことだ?」
「神様にあたしの姿を貸してるっていう話はしたでしょう。つまり、この世界であたしの姿をして動き回ってる神様は、仮の姿で顕現してるだけで本体ではないんだよね。だから例え仮の身体が破壊されたとしても【神降ろしの巫女】であるあたしはその神様と交信ができるんだ」
「神との交信ねぇ……」
「それで分かったことがあるの。今回の相手はNPC専門暗殺クランのツールボックスだったんだよ」
ふむふむ、殺された神様と交信をして情報を得たということか。
そういえばツールボックスというクランの名も聞いたことがあるな。たしか、桃源コーポ都市で企業連合会の会合を行う際に会場へ向かおうとしていた俺の命を狙っていたというクランだ。
「ツールボックスが相手だと何かあるのか?」
「それがね、厄介なことにツールボックスは標的を殺した後、しばらくの間は変装術を使って殺した本人に成り代わっちゃうんだ」
「それって殺しの発覚を防ぐためか」
「それもあるだろうし、情報の錯綜を狙ってる節もあるね。やられた方はたまったもんじゃないよ。誰がいつ死んでいたのか分からないし、NPCと情報共有するのも気軽にできなくなる。そうなると、プレイヤーとNPC間で手を組めなくなって対応も後手に回っちゃうわけ。……負の連鎖だね」
「それは恐ろしいな……」
考えるだけで背筋が凍る。味方の中にいつ敵が潜り込んでいるか分からないというのは気持ち的にも落ち着かない。
それはNPCの側もそうだろう。いつ自分が狙われて成り代わられるか分からない状況で生活するというのは精神的にも辛いものがある。まあ、このゲーム内の神様がそんな精神的な負担を感じるのかは分からないけれど。
「そういうわけだから、正確に殺されたと分かっているのは、あたしが交信して判明している三人だけなんだよね」
「そうなると現状、八百万カンパニーのNPCに対して全幅の信頼を置くことは難しいということか」
「相手の術中にハマってるみたいで嫌なんだけどね」
「でもさ、だったら変装術を見破れば良いんじゃないのか?」
変装術を使っているからと言って絶対にバレないわけではないだろうし、しっかりとチェックすれば変装しているかどうかくらい分かりそうなものだ。
「普通の暗殺クラン相手ならそれでも良いんだけどね。相手はツールボックスだから」
「何か特殊な忍術でも持ってるのか?」
「結構、有名な話なんだよ。ツールボックスには完璧な変装術を施す忍者が所属しているらしいってね」
「そこまで見破れないものなのか」
「あたしも自分で確かめたわけじゃないから真偽のほどは定かじゃないけど、今までもツールボックスが関与していたと後から分かった殺人事件は数あれど、犯行当時はほとんどの組織が尻尾を掴めなかったらしいよ。それが裏付けとも言えるかな」
見破れないほどに精巧な変装術を使った成り代わりか。非常に厄介だ。
そんな風に俺が戦々恐々としているのとは裏腹に、コヨミは目をキラリと光らせて、やる気十分といった表情を見せる。
「ヤバい相手なのにずいぶん
「そう? ……でも、そうかもね。あたし、ちょっとワクワクしてるのかもしれない。違法系クランの中でも壊滅させるのが難しいクランの一つであるツールボックスに引導を渡してやれるかもしれないからね」
なんとも血気盛んな巫女様なこった。だけど、たしかに今回はコヨミが神様と交信できるという称号を持っていたために相手がツールボックスだと判明した。つまり、今まではまるで掴めていなかった尻尾の痕跡をついに見つけたわけだ。
ツールボックスに関してはシャドウハウンドですら詳細な情報を掴めていないらしいし、相手の目的が完遂される前に倒すべき目標が明確になったことは大きな一歩だ。
「それで、どうやってツールボックスを打倒するんだ?」
「それなんだけど……、企業連合会の会長って暗殺対象として目立つと思わない?」
「……は?」
まさか、この巫女は俺を暗殺の囮に使おうとでも?
「ちょっと待ってくれますか。セオリーを囮として使おうなんて私は許せません」
これにはエイプリルもご立腹だ。
腕を組んで怒気のオーラに纏わせながらコヨミを睨み付ける。
「あら、キミはセオリーくんの配下?」
「配下じゃなくて腹心よ」
「腹、心……?」
「えっと、同じクランの仲間なんだよ」
コヨミは腹心という言葉に疑問符を浮かべつつも、俺の言葉でひとまず納得した。それからエイプリルへ向き直る。
「クランのマスターが心配なのは分かるけど、だったら全力で守ったら良いんじゃないかな? あたしだってセオリーくんを囮にするとは言っても、見殺しにするわけじゃない。出来る限りのフォローアップはするよ」
「でも……」
エイプリルはなおも言い縋ろうとしたけれど、俺が手で制止した。
「良いんだ、エイプリル。それで暗殺をしているヤツを捕まえられるなら、俺は囮として使われたって構わない」
俺の言葉を聞くとエイプリルは目を伏せ、力なく頷いた。
俺が危険な目に遭うのをエイプリルが嫌に思う気持ちはこれまでの経緯で分かる。そして、それでも囮役を請け負うことをエイプリルも分かっていたのだろう。それ以上はエイプリルも口を挟むことは無かった。
「それじゃあ、囮役ってのは請け負うよ。でも、そんな都合よく俺を狙いに来るかね」
「そこは色々と情報操作するよ。とはいえ、釣り餌に引っ掛かるかどうかは五分ってとこかな」
「まあ、釣れたらラッキーってところかね」
「そういうこと。……ところでさ、キミって本当にプレイヤーだよね?」
突如、コヨミの目が鋭く細められる。
「それ、どういう意味だ?」
そういえば、俺がプレイヤーであることはきちんとした情報としてはコヨミに渡っていなかったかもしれない。企業連合会の会合で言い当てられた時に、勝手にプレイヤーであることをバレた気になっていた。
しかし、俺の疑問への解答はなされないまま、直後に俺の両手首へ何かが巻き付く感触がした。
座っている畳を見ると、そこには半透明な白いオーラが蠢き、俺の手首を絡めとっていた。隣にいるエイプリルを見る。彼女も俺と同じように白いオーラが腕に巻き付き、身動きが取れないようだ。
俺たちが動けない状態になったのを確認すると、コヨミはこれ見よがしに札を取り出した。右手に掲げた札からは紫色の炎が燃え上がる。そして、その札を俺へ向けて投擲したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます