第113話 あたしと、あたしと、あたしと、あたしは全部神様
▼セオリー
社務所の休憩室には俺とエイプリルとコヨミがちゃぶ台を囲んで座っている。
まずは現状、八百万神社群で起きていることを聞くのが先決だ。
「それで俺を呼んだ理由は何だ? カザキが言うには、ここらで不審な動きがあるって情報だったけど」
「うん、不審な動きねー。……率直に言えば、八百万カンパニーのユニークNPCがここ一ヶ月の内に三人も殺されてるんだよね」
「えぇ……?」
不審な動きどころか、実害を伴う被害がすでに出ていた。
コヨミはわりと軽い感じで言っているけれど、組織内のユニークNPCというのは有限だ。死んだり殺されたりすれば当然数が減っていく。
基本的にユニークNPCはある程度の力を持った忍者であることが多い。つまり、有限で貴重な戦力が何者かによって討たれているということだ。そこには八百万カンパニーの戦力を削ろうという明確な意思が見える。
「一大事じゃないか」
「その通りなんだよー。というわけで、キミの出番というわけだ!」
「……なんで?」
俺の返答を聞いたコヨミは肩透かしを食らったようにガクッと体勢を崩す。
「なんでって、それがキミを企業連合会の会長に就かせた条件でしょう」
「いや、別に何でも屋って訳じゃないぞ」
企業連合会の会長に俺が据えられることとなった経緯として、一番の功績は逆嶋でパトリオット・シンジケートの計画を未然に防いだことだ。
現状、パトリオット・シンジケートは関東地方へ狙いを定めている。かの組織が動き出し、対応の必要があると判断された場合に、俺が呼ばれる、という話になっていた。
とはいえ、それは企業連合会を正常化に持って行くための準備段階で話を有利に進めるための方便というか。もっと言ってしまえば詭弁だ。
俺自身、実際にパトリオット・シンジケートが何か良からぬ企みをしていたとして、逆嶋の時と同じように防げるとは微塵も思っていない。
「どうせ、あたしの所で起きてる事件もパトリオット・シンジケートが裏で一枚噛んでるんだよ。それが分かってからキミを呼んでも遅いでしょう? だから、怪しいと睨んでからすぐに呼び出したわけ」
「そんな怪しいとかで呼び出されてたら俺の身体がいくつあっても足りなくなるんだけどな……」
「あっはっはー、あたしみたいに身体がたくさんあれば良かったのにね」
コヨミは笑いながら薄い胸を反らして自分を誇張するように胸へ手を当てた。たしかに、あれだけ好き勝手に動く影分身を扱えたなら、いろんな場所へ呼ばれようと駆けつけられるだろう。
「あぁ、そうだ。気になってたんだけど、神社に入ってすぐのコンビニにいたコヨミは影分身かなにかなのか?」
「いやいや、あれは影分身じゃないよ。だとしたら、あたしはとんだ並列思考の天才だね」
どうやら、コンビニで働いていたコヨミは影分身ではないらしい。
うん? じゃあ、どういうことなんだ。あっ、まさか変装術でコヨミに扮した全く別の忍者たちだったとかか。
しかし、続くコヨミの返答で俺の考えは間違っていることを知った。
「あたしはさ、【神降ろしの巫女】っていう称号を持ってるんだ」
「称号……」
ここで予想外の単語が飛び出てきた。今までに称号を持っている人とは、俺とエイプリルを除くとイリスくらいしか会ったことがない。
「称号っていうのは特殊なクエストをクリアしたり、色んな条件を満たすと得られるものでね。その称号に応じた技能や忍術が得られるんだよ」
コヨミは懇切丁寧に称号というものの説明からしてくれた。俺は称号を持っているから知っているけど、普通は称号を持っている忍者はあまりいないらしい。そのため、称号というものは何か、というそもそもの説明からし始めてくれたようだ。
というか、よく考えたらシュガーも称号は持ってないんだよな。頭領であっても機会を逸すれば手に入れられないのが称号ということか。なんだかんだ称号って貴重なものなのかもしれないな。
チュートリアルを終えた直後に得てしまったので、その希少さをあまり実感できない。贅沢な悩みだ。
「あたしの持つ【神降ろしの巫女】は、あたしの姿を神様に貸して、新たなNPCを生み出す忍術なんだ」
「へぇー、神様に姿を貸す……?」
「あまりピンと来てないね。実演した方が分かりやすいかな」
コヨミはそう言うと、ちゃぶ台の上に一枚の
「よーく見ててね、『降神術・
コヨミが称号忍術を唱えると、コヨミの身体を半透明な白いオーラが包み込んだ。
その直後、コヨミの身体がガクガクと痙攣を始める。え、ちょっと待って、これってそんな気軽にやっていい忍術だったの? なんかホラー映画でありそうな痙攣の仕方してるよ。この後、バーンって何かが飛び出して驚かせてくるパターンのヤツだよ?
しばらくの痙攣の後、コヨミの掌から白いオーラがうようよと蠢き出し、ちゃぶ台に置かれた形代へと吸い込まれていく。そして、コヨミを包み込んでいたオーラが全て形代に吸い込まれたところで、急にコヨミは筋肉を弛緩させ、ダラリと頭を下に向けた。
まるで自分の身体に神を降ろしていたかのような、ともすれば危険な儀式を行ったのかと錯覚するような情景に俺とエイプリルの二人は揃って肩を強張らせる。
というか隣に座るエイプリルはコヨミが急に力を失って頭を下にダラリと向けた瞬間に小さな声で「ひぃっ」と叫んでいた。そうだよね、急にこんなことが起きれば怖いよね。
かくいう俺も正直に言うと、ちょっと怖かった。こういうホラーっぽい雰囲気苦手なんだよな。とはいえ、今は真昼の社務所の休憩室だ。さすがに耐えられる。
これが真夜中の静まり返った場所だったりしたら、最初のコヨミが痙攣しだしたところで俺は逃げ出していたかもしれない。
「ふぅ、成功、成功~」
気付けばコヨミは放心していた状態から復帰し、手の甲で額の汗を拭いながら一仕事終えた感を出していた。
「急にホラー始まってびっくりしたぞ」
「その反応が見たかったのもあるねー★」
こいつ、いい性格してやがるじゃねーか。
こうなること分かってて説明なしにいきなり術を使ったってことだなぁ?
「それは置いといて、これを見てよ」
しかし、俺の憤慨はコヨミによって横に置かれてしまった。そしたら素直に見るしかないか。というわけで、コヨミが注目を促すちゃぶ台の上へと視線を向ける。
そこには小さなコヨミがいた。体長十センチもないくらいだろうか。手乗りサイズのコヨミだ。
不思議な存在を前にしてマジマジと見つめていると、ちびコヨミの方も俺を見上げてくる。そして、目と目があった。
「やあ、セオリーくん。初めまして」
本物のコヨミより若干高い声音で挨拶をされた。
「はい、初めまして……え、どゆこと?」
とりあえず、挨拶を返してから目の前に居る本物のコヨミへと尋ねる。
「さっきも言ったけど、神様に姿を貸してるんだよ」
神様に姿を貸している。ということは、この手乗りサイズのちびコヨミは神様ってこと?
「でも、それならどうして俺のことを知ってるんだ」
「神様はあたしの記憶も保持してるから、あたしが知ってることは神様も知ってるんだ」
「……ふむふむ、なるほど。つまり、コヨミの姿をして、コヨミの記憶を保持した神様を生み出す忍術ってことでいいのか?」
「そういうことになるね」
それはまた、なんというか……
「すごいな。それって自分と遜色なく動ける影分身を生み出せるってわけだろう?」
「そんなに便利なもんじゃないよー。さっき称号忍術の説明でも言ったけど、あくまで神様に姿を貸してNPCを生み出す忍術だからさ。必ずしもあたしの言うことを聞いてくれるわけじゃないんだ。神様って結構自分勝手なんだよ」
それから、コヨミの愚痴話がしばらく続いた。
称号を得た当初は神様NPCをたくさん生み出して、最強神様軍団を作り出そうと考えたりもしたらしい。しかし、あまりにも好き勝手する神様を統率することはできず、早々に計画は頓挫したのだという。
ちなみに、コンビニで働いていたコヨミたちも当然神様だった。コンビニで働いている理由はコヨミにも分からないらしい、謎だ。……たぶん、労働とかしてみたかったのかな?
そんなわけで、コヨミの称号とたくさんコヨミがいる謎に関しては分かった。しかし、問題は解決していない。俺が派遣された問題だ。
そして、俺は早々に折れた。どうせ、最終的には何かしらゴネられて協力することになるだろうと思ったからだ。
そもそもカザキを通して俺に話が来たってことは八百万カンパニーの独断による呼び出しではなく、企業連合会全体でも把握していることなのだろう。となれば、俺一人の判断で協力を却下する訳にもいかない。
俺は企業連合会の会長なのだ。そして、そろそろ把握してきたけど会長とは面倒ごとをパスされる何でも屋なのだ。ルシス前会長、アンタが下剋上を狙った気持ち、今なら少しだけ分かる気もするよ……。
おっと、うだうだ考えてるのも時間が勿体ないな。
「まあ、ひとまず話だけでも聞くよ。でも、先に言っとくけど俺は一介の中忍程度の働きしかできないからな。後からガッカリしないでくれよ」
「うん、大丈夫。あたしもキミの功績については半信半疑な部分はあるから」
おーう、正直な人だな。
でも、それなら俺を呼んだのは何故だろう。実力のほどを確かめようってことなのかな。よし、やるからには全力でやってやろうじゃないか。
ただ一つ懸念があるのは、コヨミの発言に反応してエイプリルの方から薄っすら怒りオーラを感じる点だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます