第16話 火力アップへの道のりは遠い
▼セオリー
猪狩りを無事に終えた後もさらにクエストをこなしていった。途中、現実に戻り昼食を挟みつつもクエストを達成していく。昼過ぎからはコタローとも合流し、猪を追加で二体狩った。そんな風に順調にレベル上げが進んだ結果、俺とエイプリルは下忍ランクの20レベルへ到達した。
このゲーム「‐NINJA‐になろう VR」ではレベル上限が忍者のランクによって決まっており、それ以上はランクを解放するまで上げることができない。
例えば、下忍の場合はレベルを29までしか上げられず、中忍にランクアップすることで30レベル以降に上げられるようになる。以降も同じように中忍頭で60レベル、上忍で90レベル、上忍頭で120レベル、頭領で150レベル以降へ上げることができる。このようにランクを上げることでレベルの制限キャップを外していく仕組みだ。
忍者ランクの上げ方は様々な方法があるらしく、コタローのようにコーポに所属している場合はその企業の課す課題やノルマを達成することでランクを解放できるようだ。課題やノルマは今コタローが行っているように下忍を手助けすることでカルマ値を上げることだったり、難易度がワンランク高いクエストが課されたりなど様々だ。
「とはいえ、ここまで説明したことはあくまでコーポ所属であるボクの流れだからね。現状無所属のキミらにそのまま適用できるかは分からないよ」
「いやいや、それでも情報は助かるよ。課されるクエストが大きく変わることはないだろうし、事前に心構えしておけるからな」
「うん、先を見据えておくのは大事だね。ところで、もう一つ相談事があるんだっけね」
コタローとパーティーを組んでいる間にも猪狩りを二回クリアした。
その二回ともコタローはエイプリルのフォローに回って陽動をしていただけなので実質俺とエイプリルの二人だけの火力で倒したことになる。かかった時間はどちらも四十五分程度だ。最初に二人だけで戦った時は一時間以上かかったので、それよりは早くなった。しかし、まだまだ時間がかかっている。
その原因は明白だ。ひとえに俺とエイプリルの攻撃に火力が足りていないのだ。そこでコタローに戦いを見てもらった後、相談をした。
「俺とエイプリルはどちらも火力不足が課題だ」
「コタローの知恵を貸してほしいの」
コタローはその言葉に「うんうん」と頷く。
「火力不足は非攻撃系の固有忍術を発現した忍者がみんな持つ悩みなんだよね。火力不足を解決する方法は二つある」
コタローは指を二本立てて、俺たちの注目を集める。
「まず一つ目は火力のある忍者とパーティーを組むことだ」
「それはパーティーメンバーを増やせってことか」
「そうだね。手軽だしパーティーとして強ければ任務の成功率も上がる。でも、推奨はしない」
「なんでだ?」
パーティーメンバーを増やすという手段は事前に俺とエイプリルで話し合った時、最初に出てきた案でもあったのだ。
初めて猪狩りのクエストを受けた時、偶然にも刀使いと急所感知の二人組と共闘する形になったことで十分足らずという驚異的な速さで倒し終わった。素早く倒すことができた大きな要因は急所感知と不殺術がマッチしたからだ。そして、細かな要因として、刀使いが上手く急所に刀を突き入れたことやエイプリルが猪の気をそらして俺に気付かせなったことも関係するだろう。
つまり、人数が増えるとそれだけ術同士の相乗効果や対応できる状況が増えていくということだ。火力不足を解消するには火力のある忍者を仲間にするのが一番手っ取り早い。
「なんで推奨しないかと言うと、そもそも火力のある忍者って希少なんだよね。何故かは分からないんだけど固有忍術って直接的な攻撃系忍術が少ないんだよね」
「へぇ、そうなんだな」
結局のところ固有忍術で火力のある忍者は希少なため、すでに他のプレイヤーとパーティーを組んでいることが大半だ。そんな中、火力があるのに特定のパーティーに入っていない場合はゲーム中のプレイマナーが悪いなどの地雷プレイヤーである可能性が高くなるのだという。
他にも忍者ランクを上げていくとソロ専用クエストが出てきたりするので自身の戦闘力も上げておいた方が良いなど色々と理由があったようだが長くなるとのことで詳細は割愛された。
「そんな訳だから、ボクは二つ目の解決方法として自分自身の火力アップをお勧めするよ」
「それは俺たちも考えたんだけどさ、その方法が難問なんだよなー」
「ちょっと言いづらいんだけど、ほら、セオリーって筋力1なのよね……」
エイプリルはコタローへ近寄り、手で口元を隠すとコソコソ話をするようにして話す。エイプリルさん、そういうコソコソ話すような言い方は良くないと思いまーす。俺が睨むようにエイプリルを見ていると、それに気づいたコタローが苦笑いを返した。
「とりあえず、エイプリルの火力アップについて考えようか」
コタローは手始めにそう話し始めた。あれ、不満たらたらな俺を差し置いてエイプリルの火力アップについて話すの? これもしかして俺への解決策ないんじゃないか。
「エイプリルの『瞬影術』は相手の影に跳ぶ忍術だよね。この忍術は初見の相手に対して莫大なアドバンテージをとれる良い忍術だと思うんだよね。だから、基本は初撃の一発で相手を倒すことを目標にするのが良いと思う」
「一発で倒す、か。それなら武器の殺傷力上げるためにクナイより刀とか使った方がいいかな?」
今までのエイプリルはヒット&アウェイを繰り返す戦法で手数を増やし、ダメージを蓄積させる方法で戦ってきた。そのため、一撃で敵を倒す方法を模索するというのは諦めていた手法だ。エイプリルは新しい戦い方を開拓できるかもしれないと目を輝かせている。
たしかに武器を変えるというのは、簡単に火力を上げられる方法だ。今まで使っていたクナイは使い勝手は良いけれど殺傷力で言えば刀の方が数段上だろう。
「それなんだけど、軽く能力値を聞いた感じだとエイプリルも筋力が高いわけじゃないんだよね」
驚愕の事実である。レベル1の時点で俺と十倍の差があったエイプリルの筋力ステータスも特別高いわけではなかったのだという。比較対象が悪かったのかもしれない。
ちなみにレベル20へ達した俺とエイプリルの筋力差は四十倍になっている。俺の筋力が1から全く動かないせいだ。だが、そんなエイプリルの筋力のステータスは平均と比べて低い方に属するらしい。
「だから大きい武器を使うと振りも大きくなって避けられる確率が上がってしまう。それじゃあ奇襲する旨味が半減しちゃうよね。だから、コレだ」
コタローは懐から野球ボールくらいの大きさをした黒い球体を取り出すとエイプリルの手のひらの上に乗せた。俺とエイプリルはそろって手のひらの上に乗った球体へ顔を寄せる。
それにしてもコタローは服の中から色んなものが出てくるな。一度隠し持っている忍具をすべて出して見せてもらいたいものだ。
「これはなに?」
エイプリルは小首をかしげながら、指先で手のひらに乗った球体をツンツンと突く。
球体は黒いテープをグルグルと巻き付けられており、テープの隙間から一本だけひょろりと紐が伸びている。その見た目から何となく想像したのは花火だ。それも打ち上げ花火の玉の方だ。なんか危なそうだなと思い、俺はゆっくりと離れた。
「それは爆弾だね」
コタローは普段通りの調子で答えた。しかし、その答えを聞いた瞬間にツンツンと球体を突いていたエイプリルの指が止まる。そして、俺に投げ渡してきた。って、ちょい待てい! 爆発したらどうする!
「ちょっと、そんな危ないもの持たせないでよ!」
「いや、それを言うなら俺にパスすんのもおかしいだろ! 腹心じゃないんか!」
「なら、今だけ腹心止めますーぅ」
俺が爆弾を投げ返そうとするとエイプリルは即座にコタローの背後へ『影跳び』した。おのれ、コタローを盾にするとは小癪な。いや、このまま全力で投げつけてやれば悪を二つ滅ぼせるのではないだろうか。そんな考えまで
「あははは、着火しなければ爆発しないよ。二人とも慌てちゃって可笑おかしいな」
笑い事じゃないだろ、俺とエイプリルが詰め寄ると、ごめんねと形ばかりの謝罪が返ってきた。こいつもいい性格してやがるわ。だが、それを詰め始めると一生本題に入れない。俺は手のひらの爆弾を持ち上げると続きを促すように顎をしゃくった
「それでこれがどう繋がるんだ?」
「うん、エイプリルには爆弾を使うのが適してるんじゃないかなと思ってね」
俺の手から取った爆弾をエイプリルの手に持たせる。
「今までクナイで行っていたヒット&アウェイの攻撃戦法を爆弾で行っちゃおうということだね」
「なるほどー、それで火力アップするわけね。それにしても爆弾なんてあったんだね。私たちが行った忍具屋さんには爆弾は無かったけどな」
「それはそうだよ、これはボクが作った手製爆弾だからね」
「嘘だろ、忍具って自作できるのか」
「『忍具作成』っていう技能があるんだよ。忍具屋で忍具作成依頼を一定回数頼むと教えてもらえるね」
コタローが言うには、『忍具作成』技能はチュートリアルでは教えてくれない基本技能の内の一つらしい。序盤の金策に苦しむプレイヤーたちの間ではほぼ必須の技能とのことだ。たしかに忍具屋で毎回忍具を補充していたらお金がいくらあっても足りないし、俺も少し疑問に思っていたところだ。
とはいえ、そんなプレイヤー御用達の必須技能すら知らなかったのはインターネットなどで探せばいくらでも出てくる攻略方法の書かれたウェブサイトを俺が遮断してプレイしているからに他ならない。自業自得である。
「セオリーは外部のゲーム攻略サイトとかは見ない派のようだったから必要に迫られるまでは黙ってたんだよね」
「おう、配慮ありがとうな。それはさておき、エイプリルの火力アップは目途がついたな」
「そうね、これからしばらくは忍具作成依頼を出すようにして、ゆくゆくは私が自分で爆弾を作れるようになれれば良いってわけだよね!」
今までは採集したものや採掘した鉱石はそのままクエスト納品物として出していたけど、今後はクエストに必要な分以上に集めて、忍具作成の依頼を出せるようにしないといけないわけだ。
その後、俺の火力アップに関してもコタローに尋ねたところ、筋力1は今まで見たことないから良いアドバイスはできないんだよねと返された。やっぱり俺への解決策は無いんかい!
しかし、なんにせよ、当面の目標が決まったことは良いことだ。まずは『忍具作成』技能の習得だ。そのためにも忍具の材料となる鉱石や薬草などを採集に行こう。
目標も新たに俺たちは依頼掲示板へ向かったのだった。
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