第6話 いやちょっと待っ……当たってる!当たってるって!

「おーい、早く来いよロキ!」


そう言って笑顔で手を振ってくるルルガ。

目を背ける俺。


彼女は……真っ裸だった。


いや待て、待ってくれ。

実際にその場になってみれば分かるだろ?

つい最近まで、童貞では無いにしろ、非モテ道を突っ走ってきたニアおっさんが、キツネ耳とは言え、いきなりうら若き女の子の裸を直視できる男がいたら見てみたい。


ルルガに言われて水浴びに来てみたら、そこには小さな川が流れていた。

……ここまではいい、ここまでは。


だが、そこで遊んでいる子供たちを見た途端、ルルガはいきなり衣服を全部脱ぎ捨て、すっぽんぽんで川に飛び込んだのだ!


一方俺はその横で固まってしまっていた。

あのよくある、顔を両手で隠しながら、指の間からこっそり覗く……というアレ状態だった。


「わー!気持ちいいなー!」

「ほらルルガ、食らえっ!」

「きゃはは、やったなコラッ!」


固まっている俺のことなどこれっぽっちも気にせず、川に飛び込んだルルガは、同じくすっぽんぽんの子供たちと一緒に水遊びをし始める。

遠くから聞こえる、周囲に響く滝の音と鳥たちの鳴き声、そして賑やかな子供たちのはしゃぐ姿が、やけにおとぎ話やファンタジーのように見える。


その一方で、紛れも無い現実感と目の前のリアリティのギャップに、俺の頭は熱射病にでもなったようにクラクラしてきた。


「何やってるんだロキ!川は気持ちいいぞ!」


元気いっぱいに手を振ってくるルルガと子供たち。

……いや、分かった分かったから。

そんな健康的に恥じらいもなく手を振られると、ま……丸見えじゃないか……!?


きっと男なら分かってもらえると思う、あのどうしても谷間に目が行ってしまう自分が見られているという罪悪感……が襲ってきて、思わずつい……と顔を背けてしまう。


すると、ルルガはそんな俺のことが焦れったくなったのか、子供みたいにいたずらをしたくなったのか分からないが、子供たちと一緒に川から上がり、俺の方へと近づいてきた。


慌てて逃げる俺。


「分かった!分かったから来るのはヤメロ!入る!俺も入るから!」


背を向けてそう叫びながら、俺も川に飛び込む。

気候のせいか、水は生温い感じでそれほど冷たくは無かった。


……森の中にあるせいか、水も浄化されて思ったより綺麗だ。

後ろから追ってくる気配もないし、まあ飛び込んでしまった以上、全身浸かってさっぱりしたいものだ。


そう思い、俺も服を脱ぎ始めた。

……さすがにあの子の前で全身裸になるのには躊躇するが、ツナギを着たまま川で水浴びというのも気持ちが悪い。


せめてパンイチかな……と考え、まずは靴を脱いで岸に放り投げる。

そして何とかフラフラしながら靴下を脱いでツナギのポケットに入れると、最後にツナギとTシャツを脱いでパンツ一丁になったのだった。


「……うわ、これは気持ちいいわ……」


日中は結構な暑さだったこの黄金耳の集落も、夕方になれば割と涼しくなってくるらしい。

植物の気温調整効果というのは素晴らしいな。


ほとんど裸になって、頭から川に潜り汗を全部流していると、何だか今日起きたことが全て幻だったかのような気が……してこないな。


正に今、幻の真っ只中だし。


でも、そんなこととは全く無関係に川の気持ちよさはどこでも同じだし、以前一度旅をした、東南アジアの農村地域と雰囲気が似ているので、まるっきりファンタジーというわけでもない。

そうか、あっちに旅をしている最中なのだと思えば……。


「ほら、気持ちいいだろ?」

「ん?」


川の中で仰向けになりながら……そう一人考えに浸りかけた時。

突然頭上から声がした。

ルルガの声だ。


あれ?気配は無かったのに?と思いながら視線を向けると、青空をバックに見える、逆光のシルエット。

……その中心には、暗くて見えない二つの山が。


「……わ、わわわ……わわっ!」

「どうした?……あ、何まだ服なんて着てるんだよオマエ!」


どうやらルルガはこっそり水中を泳いで近くまで来たのだと理解したのと同時に、そこには見てはならないものがあるということも理解し、パニックになりながらも慌てて逃げようとする俺。


そこへ面白がったルルガが追ってくる。


「ほら、脱げ脱げ!」

「わーっ!わーやめろ!い、いやちょっと待っ……当たってる!当たってるって!」


それが一体何か?……ということに関しては、あえて伏せておこう。


とにかく、さっぱりしようと思って行った水浴びでは、逆にどっと疲れて帰ってくることになってしまったのだった……。

おかげでその夜は、ぐっすり眠れたよ。


後で少し気になっていたことだが、どうやらあの川にはヒルなどの生物はあまりいないようだ。

それが何故なのかはよく分からないが、そのせいもあってあそこは村の人間の水浴び場になっているらしかった。


確かにこの暑さでは頻繁に汗を流したくはなるものだが、この女系集落の中で俺一人だけ男で水浴びするとか……ハーレムだと思ってるのは非モテ系童貞だけだろう。


女子校などの雰囲気を想像してもらえばよく分かる通り、男女の比率は偏っていないからこそハーレムの恩恵はあるのであり、同性が少ない場合、それはただのマイノリティだ。


というわけで次の日から俺は、毎日こっそり水浴びをする羽目になってしまった……。

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