5-7 噛みしめた喜びとミランダ勧告
「ジェフ! クローディア! 無事――だなぁ・・・・・・」
ダミアンは言葉を尻すぼみにして、申し訳なさそうに目を背ける。彼の部下たちも「うーわ、ボスやっちゃったなぁ・・・・・・」と表情をゆがめる。その中でも一番気の強いクロエに至っては、無言で彼の頭を引っ叩いている。
さらに、カズィは「うーわ、引くわ。マジ引くわ」と顔を嫌悪に歪ませ、ロバートも「ウェルズ捜査官、流石にこれは・・・・・・」とドン引きである。
普段ならな激怒必須の状況だが、彼は半泣きで「仕事じゃねえかよぉ・・・・・・」と口を尖らせるばかりだ。正直、こんなダミアンを見たくはなかった。
「あー、いやあの、僕の体が動かなくなって、クローディアが支えてくれただけで、皆さんが想像してるようなことは、ないですよ。一切ないです」
あまりにも可哀想だし、誤解されるのも嫌なので、フォローする。
しかし、連邦捜査局の面々のリアクションは最悪としか言いようがなく、一様に「チッ! クソ童貞が!」という表情を隠しもしない。
庇ったはずのダミアンは「全く、情けねえガキだ」と腕組みし、クロエはそんな上司とこっちに侮蔑の表情かつ無言で中指を立てる。
救いを求めて身内の方を見れば、カズィは腹を抱えてゲラゲラ笑っているし、ロバートはいなくなっている。
(連邦捜査局も
「ねえ、みんなが思ってるようなことって、なに?」
「気にしなくていいよ・・・・・・。ロスにいると、一定以上の年齢の人間はゲスくなるんだ」
そんなジェフの言葉に応えたのは、ロバートだ。ゲスい大人たちが騒いでいる間に、祭壇に上がってきたらしい。
「ハハハハ。手厳しいね、まあ、この騒々しさがこの街の魅力さ。――クローディアちゃん、ジェフ君を借りてもいいかな?」
ロバートが声をかけるとクローディアはうなずく。
「うん。いい加減重い」
「ひどいなぁ・・・・・・」
口をとがらせていると、体をずいっとロバートに押し付けられる。そしてそのまま仰向けに寝かされた。
「そういえば、何で副社長がここに?」
「まあ、腹いせかな? まあ、僕も弟子が可愛いからね」
にこやかに笑う彼の言葉にジェフは冷ややかなものを感じるとともに、普段ハンコックがなぜ彼を恐れるのかという疑問の一端を理解した。
「さて、ジェフくん、手足が動かないみたいだけど、メドゥーサの影響と言うことでいいのかな?」
「はい。師匠たちなら、こんな深傷は追わなかったかもしれませんね・・・・・・」
「自分を卑下するのが癖になっているね。直した方がいい。君は、マーブル・ホーネットを壊滅に追いやったんだ。それは、誇るべきことだよ」
ジェフが「はい・・・・・・」と答えると、ロバートは「なにより、意気揚々と突っ込んだくせに、焦って無様を晒す自称最強よりよっぽどいい」とリアクションに困ることを言いながら、非接触型体温計に似た機器を手に取ると、ジェフの動かなくなった手脚に向ける。
「あー・・・・・・」
そして気まずそうに声を漏らして天を仰ぐ。
「副社長?」
「どうしたの?」
ジェフとクローディアに呼びかけられて、彼は一瞬びくりと身をこわばらせる。
「えー、あー、うーん・・・・・・。――ウェルズ捜査官、出ましたー・・・・・・」
二人から露骨に目を逸らしてダミアンがクロエの名前を呼ぶと、事後処理を始めた一同が悲嘆の声を漏らす。
「マジで・・・・・・?」
「はい、残念ながら・・・・・・」
なにがそんなに悪いのかわからず、ジェフとクローディアは顔を見合わせる。
「お前言えよ・・・・・・。上司だろ?」
「やであるよ、お前言えよ・・・・・・。捜査官であろう?」
「やだよ最悪中の最悪じゃねえかよ」
「そんなもん吾輩に押しつけるんじゃねえであるよ・・・・・・」
急にヒソヒソわちゃわちゃやりだしたダミアンとカズィに、ジェフは首を傾げる。
「何なんですかあれ?」
「あー・・・・・・。ジェフくん、気を強く持ってね?」
容量を得ないロバートの回答に、ジェフはさらに首を傾げると、クロエが露骨に深いため息をついて、「あー男ってこういう時本当に使えない」とぼやくと、祭壇に上がってクローディアの正面にしゃがみ込む。
「クローディアちゃん、手ェ出して。両手」
「こう?」
クローディアが素直に従うと、カシャンと音が鳴る。
「えっ?」
思わずジェフは声を漏らした。
なぜクローディアの手に手錠がかけられているのか、まるで理解できなかった。
「クローディア・メルヴィル。あなたを神代の系譜の因子の暴走、及びそれに伴うエリック・サージに対する殺人未遂、並びにジェフリー・バックマンに対しての障害で逮捕します。あなたには黙秘権があります。なお、供述は法廷で不利な証拠として用いられる場合があります。あなたには弁護士を雇う権利がありますが、自分で依頼する経済力がない場合は、公選弁護人をつける権利があります」
ミランダ警告を最後まで聞いて、クロエとクローディアを交互に見る。
クローディアは目を白黒させている。対してクロエは泰然とした調子で「まっ、そゆこと」とこっちを見ていってのける。
それがスイッチとなった。
「――――・・・・・・!」
自分でもなにを言っているのかわからない声を漏らして、ジェフの意識はぶっ飛んだ。
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