4-9 邪悪の目覚め
カズィは、ジェフが飛び込んでからというもの、暇を持て余していた。あまりにも暇なのでタバコを吸いながら、スマートフォン片手にセレブのゴシップを漁っていた。
「暇であるなぁ・・・・・・」
すでに五分が経過している。
死にかけの標的を抑え込んで、護衛対象の奪還など、実働部員なら一分でできるし、フォー・ホースメンなら十秒だ。なお、この倉庫及びコンテナヤードが応じて被害からは目を背けるものとする。
しかし、ジェフなので十分も二十分もかかるのは仕方がない。仕方がないので、画面をスワイプする指は止めない。
「あー、ミーティア・クルセイダーズのギター、まーたコカインであるか・・・・・・。こんどのおつとめは長くなりそうであるなぁ――」
デビュー当時から応援しているメタルバンドの悲しいお知らせに肩を落としていると、空気が変わるのを感じた。
同時、周囲を囲むコンテナの一つを突き破って、岩盤を削り出して作られた腕が飛びだす。それはコンテナから這い出すと、立ち上がり、倉庫の方を見る。
「ゴーレム…。なるほど、安全装置というわけであるか・・・・・・」
全長三メートル程のゴーレム。その十指の先端には、黄金に輝くフックのように歪んだ刃が爪の代わりに装着されていた。
「なるほど、ハルペーの模造品であるか。儀式が失敗してなお、メドゥーサの首は諦めぬか・・・・・・。まあ、暇つぶしくらいには――」
言いかけて、言葉が凍る。
カズィの眼前の一体に呼応するように、周囲のコンテナから一斉に腕が飛び出し、無数のゴーレムが這い出してきた。
「多くね・・・・・・?」
思わず口元がひくつくが、直後、ゴーレムの向こう側からパトランプとエンジンの音が響き、やがてエンジンの音だけが止まる。
「おいおい、なんだこりゃあ!」
驚愕の叫びには聞き覚えがあった。
「この数を一人でやらずに済んだのは行幸であるな。ダミアン、お前に恋しそうである」
本人に聞かれれば「気持ち悪い」とショットガンをぶっ放されそうなことを言いながら、カズィはゴーレムへ飛びかかる。
だが、同時に懸念は晴れない。
(ジェフリー、お前は無事なのか・・・・・・?)
「――――――――――――――」
勝利を宣言したエリックは、祭壇に手をついたまま崩れ落ちる。気絶してなお、彼の手は祭壇についたままだった。
一瞬の出来事であった。クローディアの首の傷が塞がったと思えば、宙に浮いていたその体は不可視の力によって地面に降ろされた。そして彼女は無言のまま髪の蛇を伸ばし、エリックを締め上げるとすぐに戒めから開放した。
「クロー、ディア?」
ジェフは祭壇ににじり寄りながら、声をかける。その最中エリックの方へ目を向けるが、弱々しく呼吸はしており、幸か不幸かかろうじて生きているようだった。
「現代の魔術師って、頑丈なのね。命を【拒絶】したはずなのに・・・・・・神代の人間よりよほど丈夫だわ」
クローディアの口から発せられたのは、本当に彼女の声かと疑うほどに妖艶な響き。
「クローディア・・・・・・?」
そんなはずはないと、自分に言い聞かせる代わりに彼女の名前を呼ぶ。
そして、彼女は顔を上げた――に浮かんでいたのは、ジェフの知らない妖艶な笑みだった。
「ああ、私を呼んでいたのね? ごめんなさいジェフリー。あの子はもういないの?」
決定的なものを、突きつけられた。
「私は、メドゥーサ。やっと会えたわね、ジェフリー!」
恋する乙女の晴れやかな顔で、怪物は朗らかに言った。
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