4-6 ラウンドツー

 殺到する銃弾と魔術を、意識を失った敵を盾がわりに突っ込んで、それらを凌ぐ。オークの巨体はジェフに攻撃を通さず、鎧は意識を失った敵を守り抜いた。

「畜生!」

中央の敵が、味方を盾にされたことに毒づいて、魔術を止める。

 不意にその眼前で、盾にされたオークが崩れ落ちる。しかし、そこにいるべきジェフがいない。

 さっきのように、下に逃れたのかと思って下を見るが、そこには誰もいない――顔を上げた瞬間に、ジェフの踵がその脳天を捉える。

「速い!」

「だがもう、盾はねえ!」

「やっち――」

右翼の三人が魔術触媒や小銃を構え直す。

しかし、ジェフの方が早かった。

 身体強化で一番外側にいる小銃を構えた敵の懐に潜り込むと、構築で両手にコンバットナイフを形成――小銃を切り払い、身を捻って体当たりすると、その体を照明の支柱めがけて吹っ飛ばした。

 さらに眼前の二人に対してナイフを投擲。一人は杖型の触媒を切り飛ばされ、ナイフを肩に受けるが、もう一人は剣型の触媒でナイフを弾き飛ばす。

「クッソ――時間ねえんだよ!」

 ナイフを肩に刺され怯んだ敵に接近して、股間を蹴り上げてから剣の男めがけて蹴り飛ばし、追撃をかけようとするも、包囲の輪を縮めた左翼から飛んでくる魔術に阻まれる。

「魔力の浪費は・・・・・・、まあ、俺は考えなくていいか」

開き直って、身体強化の出力をさらに上げる。

 さっきアルターエゴとやり合った時より出力が上がっているのに、体が軋むことなく思う様動くし、もっとギアを上げられるという確信があった。

 ジェフは再び身をかがめ、敵の攻撃の下を走る。銃弾そのものは避けることはできないが、射手が火線の向きを変えるよりも早く動くことはできる。

 すでに通り過ぎた場所を銃弾が食い破るのを無視して突撃――強化されたスピードそのままに額から敵の腹に向かって飛び込んだ。

 その体をすっ飛ばした直後、左右から大剣型とヌンチャク型の触媒を持った敵がそこに魔術をエンチャントして襲いかかる。

 それをヤマネコのようなしなやかさで回避するが、動きは最小限。つま先に、振り下ろされた武器が生んだ衝撃を感じると同時に、回避されて思わずつんのめる敵二人の後頭部を掴んでその額同士を叩きつける。

崩れ落ちる敵に一瞥もくれず、ジェフは小銃を拾い上げる。

「あと、二人か・・・・・・」

 銃を構えると、呆然としていた剣の触媒を持つ男は、ハッとして触媒に魔術を纏わせ、防御の姿勢をとる。

ジェフはそこで引き金を引かず、身体強化によって小銃を投げつける。

 敵は怪訝な顔をしてそれを斬り払うが、突飛な行動に意識を向けさせられ、さらには折角魔術を纏わせた剣も使わされて、その姿勢に隙が生まれる。

 銃を投擲すると同時にその背後にピタリとつくように走り出していたジェフは、再び両手にコンバットナイフを形成――その柄尻で相手の顎を打つ。

崩れ落ちる敵を背に振り返り、ジェフは側近を見据える。

「ば、馬鹿な――! なぜ連絡がつかない! あんなヤツがRCIにいるなんて聞いてないぞ!」

 自分がジェフリー・バックマンだと気づいていないのか、側近はずいぶん傷つくことを捲し立ててくれていた。しかも、その言葉からして、まだ敵には控えがいるらしい。それと連絡がつかないのは行幸だった。

「よお。傷つくこと言うなよ。俺がジェフ・バックマンだってそんなに信じらんねえか?」

「ヒイイイイイイイヤアアアアアアアアア」

 ジェフとしては普通に話し掛けたつもりだったのだが、側近は完全に怯えていた。彼は気づいていなかったが、彼が敵の一人を照明に叩きつけた影響で光の射す方向が歪み、サイコキラーフェイスを照らす光が絶妙なコントラストを生んで、もはやホラー映画のワンシーンの様相を呈していた。

 側近がみっともなく走り出すと、ジェフは呆気に取られ、思わずカズィの方を振り返る。彼は暇そうにタバコを吸っていたが、ジェフの視線に築くと、倉庫の方に向かって顎をしゃくる。「こっち見んな。いいから行け」のサインだ。

ジェフはうなずいて、身体強化をそのままに側近を追いかける。

 出遅れたせいでその姿を見失うが、倉庫に入ってからは一本道だったので、迷うことはなかった。



「敵襲です!」

声の響く方へ足をすすめる。

「どうしたんだい? 今いいところなんだ。邪魔を――」

この声には聞き覚えがあった。エリック・サージだ。

(死にかけてるんじゃねえのかよ! 随分元気そうじゃねえか!)

 自分が死にかけている時に見た光景や、市内の監視カメラを元に情報部や連邦捜査局が割り出した情報と随分様子が違うことにジェフは毒づくが、引き返すことも立ち止まることも頭をよぎりもしなかった。

「表は全滅! 増援も連絡がつきません」

「それは大変だ。きたのは誰だい? ロバート・ベイリー? カズィクル・ベイかな? ウィラード・ハンコックが生きていた? それとも、とうとうクリスチャン・ローゼンクロイツが首を突っ込んできた?」

二人の会話を聞きながら、ジェフは空けた空間に出る。

「い、いえ、それが、来たのは――ヒィ!」

「見いいいいいいいいいいいつけたあああああああああ!」

飛び上がって、転んだのか転がっていた側近の背中めがけて飛び込む。

踏み潰された蛙のような声を漏らす側近を無視して周囲を見回す。

 倉庫のほとんどを石造の祭壇が埋め尽くし、制御層うちと思われるコンソールの前にはエリックが、祭壇の中央にはクローディアがいた。

その光景に歯噛みしていると、クローディアが声を漏らす。

「嘘・・・・・・」

ジェフはまだ無事な様子の彼女に安堵のため息を漏らし、元気付けるようにいう。

「よう、助けに来たぜ」

「えっ、誰・・・・・・?」

 帰ってきたのは、当然といえば当然だが、今一番聞きたくない言葉だった。大人たちに言われるよりもよっぽど刺さる。

「ジェ、ジェフダヨー・・・・・・」

少し涙目になりながら言うが、

「目つき悪っ・・・・・・」

返ってくるのはドン引きの言葉。

心が折れそうになるが、今はそれどころではない。

「今それ言うなよ! 泣くぞ! 色々あったんだよ! 傷つくぞコラァ! 今助けてやるから、早くこっちに――」

 祭壇へ向かって歩きながらちょっと震えた声で喚くと、ジェフは瞬時に身体強化と構築を同時に発動し、コンバットナイフを握った左手を払う。

「――今、話してんだけど?」

伸ばした職種を切り払われたにも関わらず、エリックは鷹揚な笑いを浮かべている。

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