3-7 ウィラード・ハンコック
「落ち着けバカ! クソッタレ!」
三機の戦闘ヘリを危なげなく墜としたハンコックだったが、四機目には酷く苦戦させられていた。
と言うのも、機体下部からとりついたのはいいものの、操縦士はパニックに陥ってしまった。生身の人間が、ヘリを落とすなんて光景を見せられれば当然だろうが、ハンコックにその自覚はない。
機体は、ロサンゼルス上空を旋回し、直下に逃げ遅れた市民や、暴徒、それに対応する警官が来たことですぐに撃墜するわけにもいかず、しばらく空中散歩するハメになった。しがみつくにも身体強化を維持する必要があり、魔力を浪費させられて、苛立ちと焦りが膨らんでいく。
「あー、クソ。ここじゃ堕とすわけにも――いや・・・・・・」
蛇行するヘリは、人気のない道路の上空へ移っていた。
「あー、クソ。魔力の温存とか言ってらんねえか……」
自分の不手際に毒づいて、ハンコックはヘリ機体をよじ登っていく。
側面に張り付くと、手刀でローターを切除――人的被害でないようにすかさずキャッチして薔薇色の燐光に包まれた道路に投げつける。
「さて次は――」
ヘリ上部の装甲を果物の皮をむくように引っぺがして、操縦士とガンナーの顔を拝む。
『うああああああああああああ! 来たあああああああああああああああああ!』
二人そろってズボンの股間を汚し、実に傷つくリアクションをしてくれた。
もちろんこのままにしておいたらヘリと共にぐしゃりといってしまうので、溜息をついてシートをもいでパラシュートが開く高度まで投げ捨てる。
「さて、俺はジェフ達を――」
独りごちるが、「探すか」と口にする必要はなかった。
身体強化された視力が見つけたのは、四ブロック先の光景。
エリック・サージが、アルターエゴに蝕まれたジェフの首に触手を巻き付けていた。
「あんの野郎――」
不出来な弟子への呆れと、それを傷つけるクソ野郎への怒りを込め、ハンコックは身体能力以上に得意とする魔術――
颶風とともにその現場へ飛び込むと、エリックの直上で魔力を操作して方向転換――ヘリコプターをベリー・トゥー・ベリーの形で叩き付ける。
金属がひしゃげる音がして、エリックはその姿を消した。
「ふう・・・・・・。おい、クローディア、大丈夫か? 悪いな、手荒なことしちまって」
彼女はハンコックの生み出した暴風の余波で吹き飛ばされ、へたり込んでいた。偶然にも、そこは地に臥すジェフのすぐ隣だった。
「ハンコック・・・・・・」
「おう、俺だぜ」
しがみついていたヘリからぴょんと飛び降りて、クローディアに笑って見せ、周囲を見回す。倒れた小銃を持ったチンピラは、刺さっている武器からしてアルターエゴがやったのだろう。それ以上に目を引くのはひっくり返っている偽ボーマンの車だ。中から弱った声で、「助けてくれー」だの「出してくれー」だのと聞こえる。
「あれ、お前がやったのか?」
クローディアは首を横に振る。そして傍らの少年を見やる。
「ジェフ・・・・・・。ジェフがやったの・・・・・・。私を助けてくれた! お願いハンコック! ジェフを助けて!」
なるほど状況は理解した。自分の弟子は思っていたよりもよほど優秀だったと誇らしくなる。同時に、上手くいった心の隙を突くエリックのやり方は妥当と感じる半面で腹立たしい。
「わかってるさ。こいつを飲ませてやれ。そのぐらいの症状だと、すぐに完治するワケじゃねえが、病院に担ぎ込めば助かるぐらいになる」
そう言って、ポケットからエリクサーの小瓶を取り出してクローディアに放り投げる。そして、堕としたヘリの方へ向き直り、声をかける。
「おい、もういいぞ。待っててくれてありがとうな、カス野郎」
言うと、戦闘ヘリは内側から無数の触手に食い破られ、それが上下左右に走ると瞬く間に細切れになる。降り注ぐヘリの残骸の中心には、エリックが立っていた。まるでダメージを受けた様子もない。
「親切心で待っていたつもりはないんだけどね・・・・・・。まったく恐ろしい。まるで隙がないじゃないか」
「ああ。なんせ、俺は
「探知魔術には自信があるんだ。これでも元医者でね。状況を把握する魔術はお手の物さ」
「ケッ! 医者が闇ディーラなんざ、世も末だぜ」
言うと、チラリとクローディアの方を見る。彼女がエリクサーを飲ませたおかげか、ジェフは意識こそ取り戻さないものの、呼吸を取り戻し、全身に広がった発疹も治まってきている。
「クローディア――」
ハンコックは自分の通信機を彼女に投げ渡す。
「――暴動の影響でスマホが使えねえ。そいつで助けを呼べ。それと、ジェフを引き摺って物陰に隠れててくれ。巻き込みたくねえ」
何か言いたげな彼女を無視して、身体強化で全身に魔力をみなぎらせる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます