続き~おいしいトコをチラ見せしてみる

 高輪ゲートウェイ駅・跡地――

 再開発の途中で鉄道遺構『高輪築堤』の出土が話題になったこの場所は、その後、今度は地中深くに埋蔵されていた天然ガス――東京湾臨海部は南関東ガス田の一角でもある――に工事の火花が引火し、大爆発。多数の死傷者を出し、駅舎も大破。そして地質再調査が終わるまで、地域全体の再開発計画が中止。

 これが公式に発表されている、惨事の顛末である。

 だが、再開発の途中で掘り起こされたのは、天然ガスでもさらなる遺構でもなかった。

『ゲート(門)』などという名前を、付けるべきではなかったのだ。



 著名建築デザイナーが手がけた地上3階の駅舎は、屋根を支える白い鉄骨がシンボルとされた。

 だが現在、その鉄骨はもちろん、駅舎のすべてが魔よけの丹塗――朱色で上塗りされている。

「迫力……」

 霊刀『慚』を携えてホームに降り立った立花は、頭上を覆い尽くす朱い空間に目を奪われた。ここまで丹塗だけで構成された空間は、おそらく、世界でここだけだろう。

 その丹塗の霊的防御で、いったい何から守られているのか。

「……ま、出てみりゃわかるか」

 立花は、破損やヒビが目立つ階段に目をやった。

「おい、立花」

 その立花を、列車の中から佐倉が呼び止めた。手には霊刀『愧』がある。

「なぁに佐倉さん」

 佐倉はひょいと首を動かして、立花を車内に招き入れた。

「はいはい」

 立花が戻ってくると、佐倉はなぜかプイとそっぽを向くと、ぶっきらぼうに言った。

「装備、してゆくぞ」

「え、わざわざこんな狭いところで? せっかく駅に着いたのに」

 佐倉はジロリと立花をにらんだ。

「霊的視覚を持ってそうなヤツが何人もいる。からくりを知られたら面倒だ」

「あ、なるほど」

 立花はうなずくと、

「んじゃ、やろっか」

「ん」



 狭い寝台車の通路に、立花と佐倉は向かい合うように立っている。

 だがそれぞれが手にしているのはお互いの霊刀だ。つまり立花が脇差を、佐倉が打刀を持っている。

 ふたりはどちらともなく目をつぶると、それぞれ相手の霊刀の鞘を持ち、相手に向かって差し出した。

 全く見えていないはずなのに、立花と佐倉ふたりの手は、自分の霊刀の柄へ、引き寄せられるように伸びてゆく。

 そしてまったく同時に、ふたりは霊刀を抜き払った。

「くっ!」

「んっ!」

 二人の口から、吐息とも苦悶の声とも判断できない呻きが漏れる。ふたつの肉体が、霊刀を媒介として結合し、ひとつの霊的存在となる時の衝撃だ。これにより、立花は佐倉が生来持ち合わせていた『この世ならざるものを見る目』の情報を共有し、佐倉は立花が無駄に発散させていた『この世ならざるものに触れる力』を得ることができる。いわばお互いの、霊的に「成り余れる処をもちて、成り合わざる処にさし塞ぐ」わけだ。

 儀式が終わり、衝撃の余韻が引いていくと、二人は同時に深いため息を吐き、そして目を開いた。

 そして、立花は口を開いた。

「……なぁ佐倉さん、俺、いっつも不思議なんだけど」

「なんだ」

「どうして、佐倉さんの目で『見る』と……」

「俺の目で『見る』と?」

「オレって2割増でハンサムになっちゃうんだろう」

「!」

 返答の代わりに、佐倉は立花の足を思いっきり踏みにじると、その傍らをすり抜けて乗車口に向かった。

「痛い! 痛いよ佐倉さん!」

「黙れ! さっさと来い!」

「はぁい」

 朱色の天井に反射する二人の声と足音は、やがて遠ざかっていった。



……ここまでお読みいただきありがとうございます。圧倒的に足りませんね、字数が……

お楽しみいただけたなら、幸いです。



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