第2話 小屋の紹介1

「......じゃあ、まず今いるこの部屋から紹介しましょう。」


と、早速彼女は話し出した。


俺は改めてこの部屋を見る。床から天井まで全て木でできた広さ6畳ほどの、いかにも「雪山の小屋」っぽい部屋だ。しかし家具は少なく、俺が今座っているベッドと、今彼女――この小屋の家主だ――が座っている小さな椅子、そして椅子のそばにある小さな机しかない。どれも簡素な作りで、物を引っ掛けられそうな所は1つもない。


「......ここがあたしの寝室です。まぁ、今見えているもの以外は特に何もない、つまらない部屋ですけどね。」


「えっ、ここが......きみの寝室?じゃあこのベッドは......」


「えぇ。あたしが普段使っているやつです。」


俺は慌てて立ち上がり、ベッドから離れた。こんな年頃の女の子が使っているベッドを使うなんて、なんだか罪悪感を感じてしまった......


「......大丈夫ですよ。気にしてないですから。」


「あ、あぁ.....ありがとう......」


とはいえ座りなおすわけにもいかない。俺は立ったまま、部屋の端に移動した。


何とも言えない空気になる......


「......もうここについて話すこともないんで、次、行きます?」


「う、うん......そうしようか。」


そして、彼女は取っ手まで木でできた引き戸のドアを開けて、部屋の外へと出た。


俺もそれに続く。


「段差あるんで、気を付けてください。」


「わ、わかった......」


そうして、俺は部屋から出た。


ドアの先にあったのは、とても広い部屋だった。広さは......100畳くらいはあるだろうか。天井も5mメートルほどと、とても高い。


そしてこの部屋も家具は少なく、部屋の真ん中にまきストーブと水道、そして寝室にある物よりかは多少大きいサイズの机と椅子があるだけだ。机は水道と一体化していて動かせそうになく、椅子も床に固定されている。そしてそれ以外のスペースはというと、



木材の薄茶色がほとんど見えないレベルで、、壁にも......ではなく、1m50cmあたりの高さまで、真っ黒に落書きがされているのだ。


「何だ......ここは......」


「ここはキッチンです......広すぎるとは思いますが、ここにストーブと水道があったので、仕方なくキッチンにしました。」


「いや、そうじゃなくて......この落書き......」


「あぁ、これ?何てったって退屈なんで。床や壁に落書きでもしなきゃやってられませんよ。薪から炭を作って、それで描いているんです。」


確かにそうなのかもしれないが......それにしたって量が異常だ。もはや何を書いているのかすらもわからない。


かろうじてわかる所を見てみると......日記のようなもの、火山の断面図のようなもの、そしてポエムのようなもの......


「......あんまりジロジロと見ないでください。このあたしでも流石さすがにこれを見られるのは気にしますんで......」


「た、確かにね。ごめんね......」


さらに部屋を見渡してみると計4つのとびらがあることに気づいた。


まず1つ目は今俺たちが出てきた、寝室につながる引き戸。


2つ目は、その扉のそばにある、小さな扉。これも引き戸だ。


「あ、あの扉の向こうは何......?」


「トイレとシャワーです。見ます?」


「いや......いい。」


ユニットバスなんだ......


3つ目は、それらの扉の反対側の壁にある、とても大きな扉。やはりこれも引き戸である。頑丈な造りをしているから、おそらくあれが外へ繋がる扉だろう。


「......ほかにこの部屋には何もないんで、次、行きますよ。」


「う、うん......」


そう言って彼女は最後の4つ目の扉である、ストーブのそばにある床扉を開けて、地下へと降りて行った。


......やっぱりこれも引き戸だ。何もここまで引き戸にしなくてもいいのでは?


「......地下もあるんだね。」


「えぇ、そうですよ。むしろ地下の方が色々な物があります。」


「へぇ......」


こうして俺と彼女はこの部屋を後にしたが、その直前に俺は......気づいてしまっていた。


ほとんど1m50cmまでの高さにしかない壁の落書きに、1ものがあったということを。


1m80cmくらいの高さの所に......大きく、黒い文字でこう書かれていたのだ。


『こ の 山 は 雪 女 が 現 れ る』


......一体どういうことなのか。


小屋のツアーは、まだまだ続く。

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