第4話 陽の光の元へ


 隠し通路は、これまでの内部とは違い、なんとも陰鬱な空気が廊下中に漂っている。

 空気も、色は本来は付いていない筈なのに、なんとなく灰色と紫色が混ざっている様に見えてしまう。

 廊下は真っすぐに伸びている。


 後ろの方では、相変わらずゾンビが、ガン、ガンと壁を叩く音が聴こえる。

 もう、こうなったらディノスを倒すまで出られない事を覚悟した。


 雨は未だ降り続いているが、ここにいるとその音がやけに響く。靴音と同じ様に。



 暫く歩いていると、左側に小部屋を見つけた。


「何だ。この部屋」


 ノーティが先に入り、何もいない事を確認して二人を促す。


 この部屋は窓が無く、木製の作業台が二つポツンとあるだけだ。

 至って質素な部屋だ。


「ん? 何だアレ」


 ノーティが作業台に置かれている一冊の本を見つける。

 それは、黒く厚めの表紙に白い字で何か文字が書かれた本だ。

 少なくともユリアンとレムリィは見た事のない字で書かれているまるで黒魔術を連想しそうな字体だ。


「これって……なんて書いてあるのかしら?」

「う~ん。私も分からないな」

「これって古代文字か。それじゃあ二人が分からないのも無理ねえよ、んじゃあ読むぞ」


 賢者であるノーティは、あらゆる文字に精通している。


(あ、そういうところはやっぱり賢者なのね)


 レムリィはまた感心した。


「え~と……」




 ああ、愛しのあの方よ。

 あの森の中で出会った時から、あの方のことばかり脳裏にちらついて離れない。

 あの亜麻色の髪と私を惹きつけてやまない黄金色の瞳。

 ああ、私のものにしたい。永遠に傍に置きたい。

 次にお会いした時は、必ずこの想いを伝えようとしよう。

 


 ……何年経っても現れない。

 何処か知らない土地へでも行かれたのだろうか。

 ……いや、私は諦めぬ。

 何年、何十年かかってもあの方を探し続けてみせる。



 

 ……今日訃報を聴いた。

 私にとっては、最も聴きたくなかったものだった。

 あの方が亡くなられたそうだ。

 老衰で最期は家族に見守られながら静かに息絶えた、と。

 そんな……私がこの年月探した努力は無駄だったのか……。


 忌々しい。まさかあの方に伴侶がいたとは。

 その男が憎い。

 私の大切なあの人を奪うとは……その男を末代まで呪ってやる。

 こうなったら、あらゆる呪術を調べよう。

 その男を呪うためなら、なんだってやってやる。

 たとえ悪魔に魂を売ろうとも、体が醜くなってもだ。





 あれから何年経っただろうか。

 研究に邁進していて、年を忘れてしまった。

 だが一つ妙なことが起きた。

 私の体もそろそろガタが来ても良い頃なのに、何故か肉体が年老いた感じがしない。

 ……そうか。もう私は人間でなくなっているかもしれない。

 だが、もう私にとってはどうでもよいことになった。

 むしろ、生き永らえていることに歓喜を覚えている。




 だが、一つ変わったがある。

 それは陽の光が煩わしくなったことだ。

 あのさんさんと照るあの光を忌々しく思う。

 あれに当たると、死期が近くなる。

 陽の光をこの一帯に当たらぬようにせねば。


 私は更に調べることにする。

 だが、あの忌々しい光に当たらぬようにすることは容易ではあるが、身の回りの世話をする者が必要だ。


 ならば、この塔に人をいざなおう。

 生気を失った人に偽りの魂を吹き込み、私の世話役として遣わせよう。

 だが、人為的に殺めては不自然かつ美しくない。

 ならばこれを使うことにしよう。


 【夢幻の香水】だ。

 これは私が長年の研究の中でも最高傑作と呼べる代物だ。

 これを使えば、人の魂は夢の世界へと送り込める。

 無論、ただの夢の世界ではない。まるで鳥籠を表現するような世界だ。

 魂が離れた肉体は徐々に冷えてゆき、いずれ永遠の眠りに変わる。

 これならば、肉体が傷つかずに済む。


 【夢幻の香水】の力は期待通りだ。

 これで十五人も肉体が集まった。

 今はこれだけいれば十分だ。

 さあ、漸く研究に没頭出来る。





 太陽に関して、新たな情報を得ることに成功した。

 太陽には幾千もの精霊が宿っており、様々な地で光を与える役割を担っているようだ。

 恐らくここにも現れるだろう。


 三日後、幸運にもそれらしき者が現れた。

 私は前もって用意していたオーブを掲げ、精霊をここへおびき寄せた。

 精霊は悲し気な眼で私を見る。

 私は精霊に告げた。


 「忌々しい。光はこの世で最も憎むものだ。お前のような者は目障りでしかない」


 とな。

 それを聴いた精霊は更に絶望の色に染まった。

 ああ、良い。この恐怖こそ私の好みだ。

 私はこの精霊を封じたオーブを誰の目にも留まらぬ場所、あの夢の世界の最上階へ保管しておく。

 時々聴こえるピアノの音色が気になるが、私には関係のないことだ。

 

 資料にあった通りだ。

 あの精霊を閉じ込めてからは、この一帯は殆どの時を雨で覆われている。

 この一帯へ迷いこんだ者を片っ端から私の下僕とすることにも順調だ。

 中には出来損ないになってしまった奴もいるが、まあ良いだろう。




 

「それにしても、改めて趣味の悪いオッサンだな」


 読み上げている途中で、吐き捨てるようにノーティが言う。


「同感だ」


 ユリアンも苦虫を嚙み潰したような顔をする。


「まさかこれほどなんて……」


 レムリィは鳥肌を抑えるように両手で腕をさする。

 ノーティが次の内容を読んでゆく。

 



 ある日、この塔へ来た者から意外な話を耳にした。

 あの方の知り合いと言う女から聴いた話だが、あの方に娘がいるらしい。

 しかもその娘は、更に娘がいるのだとか。

 良いことを聴いた。

 ならば、その娘をここへ誘うよう仕向けるとしよう。



 ああ、遂に会えた。

 確かにあの方の面影を残している娘だ。

 瞳以外はまさにあの方そのものだ。

 あの方の遺伝子がある……。

 その娘の方は、髪や口元は母君の色だが、瞳は違う。

 だが、あの方の娘も瞳だけはあの方とは違っていたからそれは仕方ない。

 それでもこの娘は面影が遠い。


 ああ、早く死してほしい。

 あの方の娘……エリーよ。





「!! エリーって……お母様?!」


 ノーティが読み終わると、レムリィが思わず叫ぶ。


「あの方って、もしかしてエリーさんの母君、つまりレムリィのお祖母様ということか」


 とユリアンが言う。


「……確かにお母様は、瞳以外はお祖母様と瓜二つだったわ。お祖母様は青い瞳だったけど」


 レムリィの声が震えている。


「この塔へって下りは、レムリィ達が来た時に書いたんだろうな。かぁ~、マジでいけ好かないオッサンだな」


 ユリアンのレムリィの顔が徐々に怒りに染まる。


「おのれ……」

「絶対許さないわ!」

「確か、先の方にまだ廊下が続いていたよな。……行こうぜ。あの野郎の魂を地獄へ叩き込んでやろうぜ!」


 ノーティが槍を構えなおす。強く握っているところに、激しい怒りが見える。

 二人は強く頷く。



 隠し通路の一番奥にある扉の先にある大広間。

 壁の至る所に死体が吊り下げられている。

 遠目から見たら、趣味の悪い装飾に見える。

 と言っても趣味が悪いのは、死体そのものではなくディノスの趣味なのだが。

 封鎖されて光を遮ったドーム状の部屋には無数の死体。中には最初にユリアン達を案内した執事達までもが。


 中央には、人一人寝かせられる黄金の祭壇が置かれている。

 その祭壇に一人の女性が横たわっている。

 女性は、ディノスに隠れている為頭頂部と足しか見えないが、髪は亜麻色なのは見て取れる。

 薄手の衣が見えていたので、裸体では無いようだ。


「フフフ……。ああ、素晴らしい」


 ディノスの赤い瞳は、更に血走らせて女性の体を眺める。

 だが、次の瞬間その瞳の奥は憤怒の色に変わる。


「だが……忌々しい! あの剣士と賢者め」


 眉間に皺を寄せて、ギリリと拳を作る。

 背後からカンカンカン、と靴が鳴る音が聴こえた。

 どうやら獲物が来たようだ。


「……遂にここまで来たか」




 三人は遂にディノスの元へやって来た。


「漸く追い詰めたわよ」


 レムリィが怒りの形相でディノスを睨む。

 その眼には、微かに涙が滲んできている。


「これはこれは、カーティス家のお嬢さん」


 冷静な声色で返す。ついさっきまで苛立っていたとは思えない。


「まさか魂になっていたとは……。道理で貴女の肉体だけが見つからなかった訳だ」


 ノーティが壁を見て、鳥肌が立った。


「……レムリィ。見てみな、上」

「……!!」


 レムリィは慄いた。

 無数の吊り下げられた死体の数々。中には親しかった人もいるからだ。


「おや。忌々しい賢者と剣士ですか」


 嫌味を含めて二人に言う。


「ハン。あんたよかマシだよ」

「まさかあの精霊を解放するとは思わなかった。大人しく永遠に眠っておれば、私直属の用心棒にしてやっても良かったのだが……」

「ふざけるな! 私達はお前の人形ではない」


 怒るユリアン。だが、ディノスは涼しい顔だ。


「まあ良い。お前達には興味を失せた。私の全ては彼女だけなのだから」


 ディノスは、恍惚とした表情で振り向いて、台に横たわっていた女性を抱き上げる。


「……!!」


 レムリィはまたしても驚いた。

 その女性こそ……。


「お、お母様……」


 だったのだ。あの書に書かれていてまさかとは思っていたのだが……。


「ああ……」


 レムリィはショックで言葉を失って、頭を抱える。

 今の彼女は、やっと見つけたオアシスが蜃気楼によってかき消されたかのような心情だ。

 



 ユリアンとノーティは静かに武器を構え、


『このぉーー!!』


 怒号を上げながらディノスに襲い掛かった。


「フ」


 ディノスがエリーごとテレポートする。


「くそ」


 ノーティは自分の反対方向に向き直り、槍を構え直す。


「つっても、あの人がいるんじゃ魔法も使えねえ」

「ああ。何か良い策は……」


 ユリアンも剣先をディノスに突き付けながら考えていると、ズズズ……と半腐乱した死体が床から這い出てきた。

 それも一体ではない。十体近くはいる。


「くそ。ゾンビの大群かよ!」

「所詮は出来損ないの実験体の成れの果てだがね」

「くっそぉ!」


 ディノスの言葉に我慢ならなくなったノーティが激怒し、床に白色の魔方陣を呼び出す。

 ゾンビ達は、それを阻止しようとノーティに襲い掛かろうとする。

 いくらゾンビでも、主人のディノスの言うことは分かるようで、彼に忠実に従っている。


「させるか!」


 ユリアンが、まるでノーティの守護者の如く彼を護る。

 ザシュ! ザシュ!

 よく手入れのされたブロードソードが軽快にゾンビの頭部を切り落としていく。

 頭を落とされたゾンビは、じゅくじゅくと音を立てて足元から崩れ落ちてゆく。

 

 だが、次から次から湧き上がってくる。


「く、キリがない」


 それでもノーティの魔法が完成するまでは必死に頭を落とし続けていく。


「よし、待たせたな。ホーリーレーザー!」


 ノーティの槍の穂先が白く強く輝き、薄い菫色の光のカーテンが部屋を包み込む。

 ゾンビは瞬く間に一匹残らず消え失せた。


「まあ、ざっとこんなもんよ」


 ノーティが得意げな顔でディノスを挑発する。


「流石だな」


 ユリアンが剣の血振りをしながら感心する。そこへ、


「危ない、ノーティさん、後ろ!」


 やっと正気に戻ったレムリィが、何かに気づきノーティに警告する。


「!?」


 レムリィの声に振り返ったノーティが見たのは、短剣を持って目がけて来たディノスだ。

 咄嗟にガードは出来たが、バランスを崩して尻餅をついて倒れこんでしまった。


「いて」

「消えてもらう」


 ディノスがノーティの胸目がけて刃を向ける。

 ノーティが目をつぶったその時、


 ガキィン!


「私の大切な相棒を失わせることは断じて許さん」


 ユリアンが前に立ちはだかって、剣でガードしてくれた。


「おのれ……」


 ディノスが悔しがる。


「はっ!」


 ユリアンがディノスを弾き、


「ノーティ」


 ユリアンが、尻餅をついているノーティに左手を差し出した。


「……おう」


 ノーティは右手を出して、ユリアンの左手をガシッと掴んで、立ち上がる。

 その時の二人の表情は、お互い穏やかな笑みを浮かべていた。

 そのすぐ後、キッとディノスの方に向き直り、剣と槍を構え直す。


「……」


 ディノスは再びエリーを盾にして、ゾンビを呼び出そうとする。

 すると、エリーの体が橙色に強く光り出した。


『!?』


 一同が驚いて、手で目を覆う。

 レムリィが薄く目を開けて確かめると、母の体が輝いて宙に浮いていた。


「お母様?」


 レムリィが母を呼ぶと、ゆっくりと瞳が開いた。

 森林を思わせる翡翠色の瞳だ。


「……レムリィ、そしてそちらの剣士さんと賢者さん。ディノスが最も嫌うものは光です。私の持つ光をレムリィに送ります」


 エリーの体から発している光が、レムリィへ移された。

 今度はレムリィが橙色の光に包まれている。


「……そうか。こうすればいいのね。ユリアンさん、ノーティさん。この光を二人の武器へ送ります。それでとどめを刺しちゃって下さい」

「あ、ああ」

「うん」


 レムリィの意図を理解したノーティとユリアンも頷く。


「く、ならば……」


 怒りに身を任せたディノスが、エリーに右手を掲げる。

 その右手は、先ほど諸に光を浴びたせいか、まるで蜘蛛の糸のように無数の亀裂が走っている。


「させないわ」


 レムリィが母からもらった光を、ユリアンとノーティの剣と槍に与える。


「有難う」

「有難よ」


 刀身と穂先が強く煌めく。まるで二人の生命力にも思わせる。


『これでどうだ!!』


 ユリアンとノーティが左右からディノス目掛けて刺した。


「ア、アアアアア!!」


 光を蓄えた刃をまともに浴びたディノスは、手だけでなく体中亀裂が走り、まるでミイラの如く干からびていった。


「うぅ……。私はただ、あの方を……」


 最後にエリーをあの方に見立てて愛おし気に呟いて、じゅうじゅうと音を立てて蒸発していった。

 後を追うように、吊るされていた死体やゾンビも、主がいなくなったことでボロボロと崩れていった。

 まるでマネキンのように……。


 全ての死体が崩れると、エリーの体も砂のように崩れていった。


「お母様!」


 レムリィが母に寄ると、エリーがいたところに橙色の光が現れ、人の姿を取った。

 その姿は……。


「太陽の精霊」


 そう。先程手助けをしてくれたのは、この太陽の精霊だったのだ。

 そしてレムリィがあの時何か言いかけたのは、太陽の精霊が象っていた姿がレムリィの母・エリーだったからだ。

 精霊には実態が無い。故に誰の姿にでもなれるのだ。


「ユリアン、ノーティ、レムリィ。本当によくやって下さいました。これでこの地方の呪縛が解けて、縛られていた魂も浮かばれることでしょう」

「それではお父様やお母様も?」

「はい」

「そっか……」


 レムリィの目尻にうっすら涙が浮かぶ。


「レムリィ……」


 突然名を呼ばれて、レムリィは慌てて涙を拭って精霊を見つめる。


「あ、はい」

「貴女は百年もの間ずっと頑張って下さいましたね。それで……」


 精霊が両手をふわっと上げると、精霊の両隣に男性と女性が現れた。


「お父様、お母様!」


 レムリィが叫ぶ。


「おお。レムリィ……」


 レムリィの父・ジョージが、久しく会えなかった娘を見て、信じられないがとても嬉しい顔になる。


「ああ、レムリィ。レムリィなのね。私達の可愛い愛娘なのね」


 エリーの手がレムリィの頬に触れる。

 レムリィはたまらなくなり、二人に飛び込む。


「お父様、お母様! ずっとお会いしとうございました。この百年の間ずっと……」


 レムリィの目からは、ボロボロと大粒の涙が溢れていた。

 でも、レムリィは拭おうとしなかった。

 悲しいとも悔しいわけではない。むしろ嬉しいことだから。


「ユリアン君、ノーティ君。君達も本当に有難う。君達が来てくれなかったら、一生ここに縛られていただろう」


 ジョージが二人に向き直って、礼を言う。


「――」


 二人はあまりの出来事に、照れながら一礼するのが精いっぱいだった。

 

「皆さん、時間がありません。天へ渡る時間が来ましたよ」


 精霊が一家を呼び掛ける。

 よく見たら、周りに無数の光のオーブが浮かび上がり、どんどん天へと昇っていっている。

 縛られていた魂が解放されている。


「ちょっと良いかしら?」


 レムリィが両親に言うと、二人は優しく頷いた。

 レムリィはユリアンとノーティの元へ行き、


「ユリアンさん、ノーティさん。本当に有難うございました。短い間でしたが、旅をしていた気分になれて楽しかったです」


 と照れながら言う。


「そうか……。もし来世で出会えたら、一緒に冒険出来たら嬉しい、かな」


 ユリアンは少し照れくさそうに言う。


「ま、悪くはなかったかな。さ、早く親の元へ戻りな。あんまり長かったら行きづらいだろうしな」


 ノーティは軽口を叩いているが、頬が少し赤くなっている。

 それを見て、くすくすと笑ったレムリィが、


「そうですね。そういうことにしますね」


 レムリィが二人の元を離れ、顔だけ二人の方に少し向いて、


「それじゃあ、また……」


 と呟き、両親の元へ戻る。

 ジョージとエリーはユリアンとノーティに深々と礼をして、天へ召されていった。

 最後に向き直って手を振って、レムリィも両親の後を追った。

 太陽の精霊と一緒に。


「行ったな。皆……」

「ああ。これで良かったんだ。これで……」


 ノーティの心からの安心した声に、ユリアンが珍しく涙声になりながら返した。


 二人が見たその光景は、まるで蛍のように思えた。

 儚い光が安寧の場所を求めているその光景が――。



 全てが終わった空からは、厚い鼠色の雲の切れ目から光が射しこんでいる。

 漸く見られた日の光と少しずつ見えてきた青空の下、二人は全身で陽の光の温かさを感じていた。


 塔を出たユリアンとノーティは、同時に伸びをしてお互いを見る。


「ふぅ~。やっと出られたな」


 と安堵した声を出したノーティ。


「ああ。……そう言えばノーティ」

「あん?」


 ユリアンが疑問に思っていたことを訊いてみる。


「お前、私とレムリィが同じ曲を、と言った時に悲し気な目をしていただろう? あれは一体」

「ん? ……ああ。何か置いて行かれた気がしただけだったんだよ」


 ノーティが照れながらそっぽを向く。

 耳まで真っ赤になっている。

 そんなノーティを見たユリアンが、優しく微笑みながらノーティの左肩にそっと手を置く。


『――』


 二人はしばしの間お互いを見ながら、


「さあ、行こうか」


 最初に口を開いたのはユリアンだった。


「……おう」


 ノーティが口元に笑みを浮かべながら返した。


 ユリアンとノーティは、マントと柔らかな金髪を翻し、足を踏み出した。

 また新たな地を求めて――。


 そんな二人を二筋の光がずっと照らしていた。

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