白夜

「何だってそんな西の果てまで行きたいんだよ?」


 俺は気になり聞いてみた。


「だって太陽は毎日西に向かっていくじゃない? だったらそこには素敵な何かがあるんじゃないかって思うわけ。それに夕陽があんなに綺麗ならそれが沈む場所はきっと美しい所に決まってるわ!」


 実際どうかは知らないし知りたくもない。ただ純粋にそう信じて疑わない。そんな目をしてミランダが答えた。


「オーケー分かった。じゃあこのまま西に進むと駅馬車が停まる小さな村がある。そこまではお供するとしよう。そしたら俺は引き返す。やっぱり北か南に行きたいしな」


「あんた、そんなに社畜か農奴に憧れてるわけ?」


 ミランダが呆れきった顔で言った。お前ほんとその言い方やめれや。


「すまん、さっき言ったことはウソじゃないが全部ってワケじゃなかった」


 彼女が理由を話してくれたのだ。俺もまったく応えないというわけにはいくまい。


「北か南の果てどっちでもいい。その近くまで行くと太陽が一日中沈まない国があるって話でな。何でも白夜と言うらしいぜ」


「あんた、いい歳こいて夜が怖いの?」


「怖くはないさ。そこで暮らしてきたからな」


 俺は食後の一服に紙巻き煙草を咥えると踵の裏でマッチを擦り火をつけた。


「だからこそ憧れるんだよ。太陽の眩しさに、輝きにな……」


 ゆらゆらと立ち昇る煙を目で追いながら、俺は誰ともなく呟いた。 

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