薄ら笑い

「ロクでもないことあるか。北に行けば大きな街がある。そこに行けば仕事だって見つかるんだ」


「ふ〜ん、偉い人の言うこときいて一日中働かされるなんてお気の毒ね」


 小馬鹿にしたように言われたが俺は負けじと続けた。


「それに南に行けば豊かな農村があって、希望すれば畑や家が借りれる。開拓した土地を自分のものにだって出来るんだ」


「ふ〜ん、年がら年中、土地に縛られて作物の面倒みるなんて真っ平ゴメンだわ」


 しかし彼女は取り合わなかった。


「食って生きてくためだ。しょうがないだろうが」


 俺は憤慨して言った。この女こう見えて、どこぞのお嬢様かなんかだろうか? さっきから俺の視線はデニムホットの彼女のヒップバンクに釘づけである。けしからん、とりあえず全世界の務め人とお百姓さんに謝れ。


「やりたいことあるから生きてるんでしょ? 生きるためにやりたくないことやって、どこがしょうがないのよ」


 女が前を向いたままでそう切り返した。


「誰もが皆んなやりたいことだけやって食っていけるか。皆んなが皆んな上にいけるわけじゃねぇよ」


「イヤイヤやらされて、やりたい人より上にいけることもないわよ」


最初はなっから俺がやりたくないこと前提かよ?」


 俺が不満気に吐くと


「あら? だってコインで決めてたじゃない? だからロクでもないって言ったのよ」


 女は半分だけ振り向き勝ち誇ったような横顔を見せた。


 ぷくっとした色づきのいい口唇が薄っすら笑っていた。


 まったく、なんて夢だ。

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