第2話 普通の男子高校生


『…………は? 何言ってんだよ。そんな事、する訳がないだろ…………』

『まぁ、君がやらないと言っても、僕は殺しに行くから逃げるしかないよ? それか、僕を殺すか。この空間にいる限り、君はずっと僕から逃げないといけない』

『この空間にいる限り?』

『そうそう。まぁ、ゴールがないと君は途中で諦めてしまいそうだから教えてあげる。ここから抜け出す方法はね、君が記憶を取り戻す事』

『記憶? 俺、記憶あるけど』

『話はここで終わり。君が僕を殺すかは自由だけど、僕は君を殺すからね? さぁ、いつまで続くかわからない、人殺しを続けられるこの空間で、娯楽を目一杯楽しもうよ。


 ☆


 そんなふざけた約束をされ、俺は今。こいつを三回殺した。絞殺、撲殺、ワイヤー。

 でも、なぜか俺を殺した後に同じ殺され方をしてる。何でだ。

 最初はいきなりで体が動かなかった。でも、二回目はしっかりと周りを意識し警戒した。にもかかわらず、撲殺された。


 あいつはもう起き上がっているだろうか。起き上がっていてもおかしくはない。こんな訳わかんない空間から早く抜け出したい。


 記憶ってなんだよ、俺には記憶がしっかりあるぞ。平凡な日常。一般的な、ごく普通の日常。そんな記憶が俺にはある。

 記憶を思い出すにしても、俺はもう記憶があるんだ。何を思い出せというのだ。


 さっきから緊張続きで神経を削られてる。人を殺すにも忍耐と体力が必要。それに加え、相手を何で殺すか、どうやって逃げるか。それも考え続けなければならない。


 疲労で思考が鈍ったら、終わりだ。俺はあいつに殺される。殺され、生き返り、また。殺される。


 早く、早く。次の方法を考えないと。あいつを殺す方法を――……



 ――――あーっはははははははははは!!!!!!!



 っ、来た。生き返ったんだ。俺を探してる。いや、なぜかあいつは探していない。


 速いんだ、毎回。


 あいつは俺の居場所が瞬時にわかる何かを持っている。GPSか? いや。そんなもんつけられた覚えはない。

 ポケットや服の裏地とかも見たけど、何もなかったはず。それなのに、何で俺の場所が一瞬でわかるんだ。


 いや、今考えたところですぐに分かるはずがない。早くあいつをを考えないと。絞殺、撲殺、切断。次は何で時間を稼ぐ。何がここにあるんだ、何を試す事が出来る。


 まず、鍵が閉まっていない部屋を確認しないと。


 長い廊下を走り、左右のドアを見る。鍵とかは一目見ただけじゃ開いているかわからない、腹が立つな。


 手当たり次第に近いドアノブを回すけど、開かない。次のドアも、開かない。


 くそっ、どれが開くんだよ!! さっさと開けよふざけんな!! こっちは焦ってんだよ、早く開けやくそ!!


「あ、開いた!!」


 四つ目のドアが開いた。後ろを見るけど、あいつの姿はない。

 気づかれる前に中に入って、物色。何があるかを確認しないとこっちは袋のネズミ。


 灯りがないから物を探すの大変。ひとまず周りを見回し、部屋の構造や何があるのか把握しないと。


「これは、棚か?」


 壁が埋まるほど沢山ある棚。乗っているのは、スプレー缶? 中はまだ残ってるっぽいな。これは使える。

 後は、何か摩擦を引き起こせる物が…………。ライターとかがあれば一番なんだが、俺は今何も持っていない。部屋の隅々まで探す暇もない。


「…………これでいっか」


 コンセント。電気は通ってんのか? つーか、これはなんのコンセントだ。棚の上から垂れてんのを引っ張っていいものか。俺の身長より高い所にあるという事は、百七十より上。どんだけ高いんだよこの棚。


「…………えい!!」


 引っ張る!! 殺されるよりはましだ!!


「どわっ!! …………アイロン??」


 これは、アイロンだ。何でこんな所にあるんだよ。まず、ここがどういう部屋なのかわからんし、把握ができない。灯りがあればいいのに。考えるだけ無駄だからいいけど。

 これを使えば、いけるか。


 ――――どこにいーるーのー??? 出ておいでー-!!!


 くそっ、わかってるくせに。声的にはまだ少しだけ距離がありそうな感じだ。でも、多分残り二分もない。早く準備しないと、殺される。


 コンセントは…………あった。


 これを指して、電気は――――よし。通ってんな。アイロンの電気がついた。ガスは沢山ある。なぜか五本以上。

 これをこの部屋にぶちまけ、二つあるうちの入ってきたドアとは反対のドアに向かう。多分、あいつは俺が入ってきた方から来るはずだ。


 足音が近づいてきた。手汗が酷い、息が苦しい。多分、緊張で喉が絞まっているんだろう。だが、今はあいつの足音に集中しないと。タイミングが一瞬でも遅れれば、俺は殺される。そして、また生き返る。


 永遠に続く死のループ。精神が破壊される空間。


 後、約十秒。九、八、七、六、五、四、三、二、一――……


「ここだあぁぁぁぁあぁあああ!!!!! あれっ――……」


 今だ!! 


 あいつが入ってきたのと同時にドアを開け外に。すぐさまドアを閉じ、隙間から出ているコンセントを力いっぱいに引っ張った。


 ――――ドガン!!!!!


 うし、うまくいったか!? ガスと摩擦で生み出した簡易的な、ガス爆発。ありったけのガスがこの部屋には充満していた。一瞬の摩擦でも、火花が舞えば大きな爆発が起きるだろ。


「ははっ。あいつ、ドアから吹き飛んで壁にもたれてやがる。暗くて見えねぇが、おそらく顔はいったな。血だまりが出来てやがる」


 これで時間は稼げる。このまままた逃げて、俺がこの空間から抜け出すための手がかりを探してやるよ。

 記憶とか知らん。俺はしっかり持ってんだ。あいつがおかしい。


 俺は、ただの男子高校生だ。


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