どうして、ひいお祖母ちゃんと同じ名前なの?

青キング(Aoking)

どうして、ひいお祖母ちゃんと同じ名前なの?

 今日、私のひいお爺ちゃんが88歳になった。


 ひいお爺ちゃんは私に伝えたいことがあるからと誕生日パーティーの後に寝室に私一人だけを呼び出した。

 私が寝室に顔を覗かせると、ひいお爺ちゃんはベットの端に座って温和な笑顔で手招きしてくれた。

 お母さんやお父さんが着いてきていないか廊下を確認してから寝室に入り、ひいお爺ちゃんの元まで近づく。


「なあに、ひいお爺ちゃん」

「加奈子はこの間、私の名前はどうしてひいお祖母ちゃんと同じなの、って訊いてきたね」


 訊いた覚えがあり頷いた。


 ひいお祖母ちゃんは私と同じ『加奈子』という名前だった。五年前に今のひいお爺ちゃんと同じ88歳で死んじゃった。

 読み方だけ一緒ならひいお爺ちゃんに訊かなかったけど、漢字まで一緒だと何か意味があるのかと思ってすごく気になってた。


「わしも加奈子と同じ齢になったんだよ」

「私とひいお爺ちゃんは同じ齢じゃないよ?」

「加奈子じゃないよ。ひいおばあちゃんの方だよ、わしの妻だ」


 妻という言葉がいまいちピンとこなかったけど、おそらくお父さんがお母さんのことを嫁と呼ぶのと似たようなものだと感じた。

 紛らわしいよ、と私が言うとひいお爺ちゃんは皺くちゃの顔を揺すって笑った。


「そうだろうね。紛らわしいね」

「一緒の名前にするからだよ」

「そうだね。悪かったね」


 笑顔に少し影を差して私に謝った。

 ひいお爺ちゃんの顔と声から本当に申し訳なく思っているのがわかる。

 だから、いいよと許した。


「許してくれるのかい?」

「紛らわしいけど、名前が嫌いなわけじゃないもん」

「そうかい。なら良かった」


 ひいお爺ちゃんはほっとした様子で顔の筋肉を緩めた。

 ひいお爺ちゃんの寝室にあんまり長くいるとお母さんやお父さんに注意されるので、私の方からひいお爺ちゃんに尋ねる。


「それでひいお爺ちゃん。私に伝えたいことって何?」

「そうだったね。伝えたいことがあって呼んだんだったね」


 とぼけた訳ではない言い方で、わざとらしく思い出したみたいに言った。

 ひいお爺ちゃんが優しく笑う。


「加奈子にひいお祖母ちゃんと同じ名前をつけたわけを教えてあげるよ」


 私はひいお爺ちゃんの話をよく聞くために喋るのをやめた。

 ひいお爺ちゃんは急に私の目を卒業式で校長先生が六年生に硬そうな本を渡す時のような顔になる。


「加奈子のひいお祖母ちゃんはほんとうだったらひいお祖母ちゃんになるはずではなかったんだよ」

「どうして?」

「未来人だから」

「みらいじん。何それ?」


 六年生の男の子が校庭で『トライジン』と言っていたのと似た音だなと思った。

 加奈子にはわからないかな、とひいお爺ちゃんは担任の先生が難しい話をした後みたいな笑い方をする。


「未来人って言うのは、そうだね……今よりも進んだ世界から来た人のことだよ」

「どういうこと?」

「例えば、一年後の加奈子が今の加奈子に会いに来たようなものかな」

「え、そんなこと可能なの?」

「はは、ふつうではあり得ないことだよ」

「なんだぁ」


 一年後の私が今の私に会いに来るなんて出来るんだ、と胸を躍らせたけど、ひいお爺ちゃんの顔から出来ないことだとわかった。

 でもね、とひいお爺ちゃんは続きを話す。


「加奈子のひいお祖母ちゃんはそれが出来たんだよ」

「え、どうして。出来ない事じゃないの?」

「ひいお祖母ちゃんがもといた世界にはタイムマシンのようなものがあったらしい」

「ひいお祖母ちゃん。本の主人公みたい」

「そうだね。本の世界みたいだね。それでひいお祖母ちゃんはそのタイムマシンでわしに会いに来たんだよ」

「なんで?」

「ひいお爺ちゃんの若い時を見たかったからだよ」

「うーん? よくわかんない」


 ひいお爺ちゃんの話を聞いたけど、お父さんの仕事の話みたいに訳がわからなくてスプーンを投げた。

 今はわからなくて大丈夫だよ、とひいお爺ちゃんは微笑んでくれる。


「加奈子にもいつかわかる時が来るから」

「大人にならないとダメなの?」

「早く大人になれるといいね。さあ話を終わりだよ、お母さんとお父さんに見つからないうちに部屋に戻ろうね」

「え、見つかっちゃう?」

「見つかっちゃう」

「じゃあ部屋に戻らないと」


 ひいお爺ちゃんの寝室に入ったことがお母さんとお父さんにバレると、また怒られるかもしれない!


 おやすみ。も言わずに私はひいお爺ちゃんの寝室を飛び出した。


 部屋に戻りながら、ひいお爺ちゃんの若い時ってどんなのだったんだろう、となんとなく見たくなってきた。

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