第7話 陛下の思惑

「サリ様、陛下がお見えです」

朝食を自室で済まして食休みを終えた頃突然陛下が面会に訪れた。

あの事件の後アレックスは王族専用の懲罰房があるらしくそこに投獄されたとの話を侍女長から聞いた。

シェーンと侍女長が陛下に報告したらしい。

事件から数日経って陛下が直々に自室へ足を運び謝罪をされた。

愚息の対応に追われていたのだろう。

「申し訳なかった、危惧していなかったわけではないが、まさか実の妹に手を出すとは・・・サリ、許してくれ、この通りだ」

床に手をついて頭を低く下げたのだ。

侍女長が駆け寄り陛下を立たせようと声をかける。

大国の国王が皇女に土下座をする。こんな場面は思ってもいなかった。

「頭を上げてください、陛下」

あげた陛下の表情は疲弊しきった様子だった。いつもの威厳たっぷりな姿勢も見る影がなく丸まっている。顔色も悪く、一気に歳を取って見えた。

「陛下が謝罪する必要はありません」

アレックスは成人なのだ。自らのしでかした過ちは自らで償うべきだ。

「陛下、なぜこんなタイミングよくシェーンを護衛としてつけることができたのですか?」

陛下が再び床に目を落としながら、12歳の私に害がないように言葉を選び話し出した。

アレックスの傲慢な態度には目に余るものが幼少期よりあったそうだ。しかし最近は特にその態度の悪さが暴走し、どうやら気に入った侍女に唾をつけて回っているらしい噂を耳にした陛下は一抹の不安を拭いきれず、シェーンに王命という絶対的命令を下し私の護衛騎士に任命してくださったとのこと。

手遅れではあったが、実際シェーンのおかげで貞操は守られたのも事実で私の気持ちも大いに救われた。

愚息も懲罰房に隔離した。

自分の娘にも自らの過ちを素直に謝罪できる。

「陛下は国王なのです」

私がこんなこと言うのもなんだけど、恐らくこの姿はこの部屋でのみ見せた陛下の弱い姿だ。この部屋を出たらまた毅然とした国王陛下に戻らなくてはならない。

「陛下は私たち王族のことよりも、やっと大陸が統一された今も落ち着かなく不安や不満がたまっている国民のことに思いを寄せてください」

陛下が項垂れたまま私を見る。

「私にはシェーンがいるから大丈夫」

陛下の前に膝をつき彼の肩を優しく擦る。

今でもこの国王との距離の掴み方がわかっていない。こんなことで今回の気苦労を帳消しにはできないし、残念ながら私自身心の傷が癒えたわけでは全くない。許せないし腹立たしい。

それでも、この人は今私に許しを乞うている。国王としての最大の自尊心を捨てて。

「今日からまたおいしいご飯を頂きましょう、父上」

初老の父親は小さく何回も「すまない」と口にしながら肩を震わした。
























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