第2話

「と、トシちゃん?」



 眼前で、二人は目を見開いていた。



「いや、それだけじゃ分かんないよ」


「亜沼市だよ、亜沼市」



 息子が何か気がついたように胸を反らし私に指を指した。



「母さんの小さい頃に住んでた所だ」


「……そうだよ」


「でも、なんでそんな所――――」



◆◇◆




 その時私は小学生だった――――


 日本は太平洋戦争の真っ只中、空襲警報が鳴り、母親と弟と一瞬に家を出た。近所の家の人達も同じだ。皆、一心不乱に走っていた。

 戦闘機が空に見えたと思うと機関銃が道に型を付けていく、まともに当たれば命は無い、倒れていく人を横目に私達は走る。更に、焼夷弾しょういだんが落ちる、私達は昨日まで賑やかだった町が焼け崩れるのを避けながら走ったが、次の一撃で体が宙に舞った。

 低空飛行の音が止み、辺りが焦げる匂いと、うめき声が私の目を開かせた。



「お母さん! かず!」



 母親と弟の和男は瓦礫の下で血を流して動かなかった。悲しくて涙が止まらない、私が大声で泣き叫んでいると、誰かに腕を捕まれた。



「こっちおいで、おばさんと行こ」



 見知らぬおばさんだった、私はどうすることも出来なかった。ただ、おばさんと一緒に焼け野原を歩いた。

 どれだけ歩いたのだろう、森の中に入り、山を登る。それでも無言でおばさんの後を歩く。涙は乾いてようやく状況が理解できかけて瞬間、目の前が開けた――――



「さ、ご飯食べましょ」



 おばさんはそういうと、私を家の中に通した。



「お母さん、誰?」



 中には一人の子供が寝ていた。体が弱いのか、時折ゴホゴホと咳をしている。



「今日から一緒に住むことになった――――」



 「えーっと?」 と、おばさんは私の目を見て、自己紹介してよ、と、言いたそうだった。

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