三品目 焼き物・タケノコの春炒め
「ハァァ、流石に疲れたー!!」
ひたすら探して、ひたすら掘ったタケノコの数は20本を超していた。
20本採るのを目標にしてねと本田先輩に言われたので、土手で休憩した。
しかし、不思議なところだ。
山の麓に畑があって、畑のすぐ脇から山が繋がっているみたいだ。俺たちは畑と山の境目みたいなところでタケノコを掘っていた。
「2人とも、お疲れ様!」
本田先輩が迎えに来てくれた。車の後ろに採ったタケノコを積む。
「じゃあ、車に乗って〜!」
車内の足置場には新聞紙が敷かれてあり、なるべく汚さないように慎重に座った。
「そういえば、残りの4人はどこにいるんです?」
坂下が本田先輩に尋ねた。
そう、参加者は教授含めて8名なのに俺が知る限りでは教授含め今ここにいる3人なのだ。
「それぞれの役割があるんだよー。薪割りと仕込み。どっちもどっちで大変よ。」
ここに姿が見えないだけで別に楽しているわけじゃないと暗に含んだような言い方をした。
その彼らの作業場にはすぐに着いた。車から降りる前から何人かが民家の外で作業しているのが見えた。
「ザルあるかー?」
「ハイハイ!!あるよ!」
「皮剥き終わらないから手伝って〜!」
山での作業とは打って変わって声が飛び交う。
「あ、仁美、来たね!」
「あ、今第二陣終わった感じ?」
本田先輩と同級だろうか、女性が本田先輩を『仁美』と呼びかけて話す。
「薪がちょっと湿気ってて、中々火がつかなかったけどやっと沸騰してきたよ。」
「坂下君と立木君も手伝って〜!」
本田先輩が俺達にも声をかけて手伝いを催促した。
「タケノコの皮を剥いてね。」
と言われたものの…
「『どうやって皮を剥くの?』って顔してるな。」
「顔を読むなよ…。」
坂下は近くにあるタケノコを手に取って俺に説明した。
「ここにあるタケノコはすでに誰かが包丁で一筋切れ込みいれてるんだよ。それをこじ開けるように剥いていくんだ。」
なるほど、タケノコの皮を剥くなんてしたことがないので分からなかったが、そんな風に剥くのか。
「あ、でも、ぞんざいに剥かないでくれよ。外側のはなるべく綺麗なまま剥いたほうがいいぞ。」
『なんで?』と理由を聞きたかったが、とりあえず言われた通りにする。
メリメリと剥いていく感触は中々面白い。
少し厚いロールの包装紙を触っているような、形容しにくい感触だ。ほんのりと何か匂う。これがタケノコの匂いか?水っぽい、根菜の独特な匂いが皮を剥くたびに鼻の奥を刺激するようだ。
あれ?でも…
中々、タケノコの中身に到達しないぞ?
60センチほどあったはずのタケノコがもう半分に削られて…
「…これ、大丈夫?」
不安になって坂下に尋ねたが坂下が剥いていたタケノコはもっと小さくなっていた。
「何が?」
手際よく皮を剥いている。
タケノコの皮剥きは鹿児島県民の必須項目か?
「あれだぞ、タケノコの中身なんてちょっとだけだぞ。」
坂下が剥き終わったタケノコを見せた。
そこには1/3ほどの大きさになったタケノコがあった。
「まじか…。」
無心に皮を剥いていたら、あたりはタケノコの茶色の皮で溢れるような光景になっていた。
すると、他の参加者だろうか、たけのこの皮を集めていた。
目があった。
お互いにぎこちなく会釈する。
「剥き終わったらどんどん持っていくよー。」
先ほど本田先輩と話していた女性が剥き終わったタケノコを持っていく。
30分ほどするとほぼ全てのタケノコの皮剥きが終わった。
「坂下君と立木君、悪いんだけど残りのタケノコもこっちに持ってきて〜!」
本田先輩が手招きしているところにタケノコを持っていく。
普通の家では見ないようなでかい鍋。
沸騰しているその中には切られたタケノコが入っていた。
「仁美ー!米、持って来いー!」
鍋のそばにいた老婆が本田先輩に大きな声で言った。
「どれくらい持ってくればいいのー?」
本田先輩も大きな声で返す。
「ゆのんじゃわん一杯!!」
本田先輩は普通に使われるような湯呑みに米を入れて持ってきた。そしてその米をざらっと鍋の中に入れた。
なんで?
「ん?あぁ、これね、アク抜きのために入れるんだよ。米糠を入れたりするけど、米糠無いから米入れてるの。」
『なぜ米を入れるのか謎だ』とか、そんなにわかりやすく俺の顔に出ているんだろうか。
「そうだ、もう第一陣のタケノコできてるから食べておいでよ。」
その第一陣の採れたてタケノコの刺身も、シンプルタケノコのお吸い物も体感2分でなくなった感じだ。
「やっぱ、男子ってすんごい食べるね!!」
本田先輩達が急いで料理を運ぶ。
「いい食べっぷりじゃが!!」
釜のそばにいた老婆がガハハと笑っていた。
「…とても美味しいです、このタケノコ。」
「そいは勝手に生えてきただけじゃ。」
「え。」
すると別の参加者が教えてくれた。
「どうやら、こちらのお婆さんの畑近くまで竹が侵食してきてて、昔は土地の所有者が定期的に竹や木を間引いていたらしいんだけど、今ではあまり定期的にできないらしく、こうやって僕たち山本教授の教え子達が畑の部分だけでも間引きの手伝いをしている…らしいよ。」
え、本当にパシリだったのか。
「お…おう、そうなんだ。説明ありがとう。俺、立木です。」
「宮木です。」
宮木は愛想よく微笑んだ。
「さて、できたよー!『タケノコの春炒め』!ガッツリ食べてね!」
本田先輩が大皿を両手に持ってきた。
その中には綺麗な黄緑のキャベツとタケノコ、透明に炒められた玉ねぎと豚肉が入っていた。
あぁ、めっちゃ美味しそうな匂いがする。
「いただきます!」
取り皿にそれぞれよそう。
口に運ぶ。
キャベツが柔らかいし、玉ねぎは甘い。豚肉はもちろん、タケノコもうまい。
「ん!うっま!!やば!!」
「美味しいですね、焼き肉のタレですか?」
宮木が本田先輩に尋ねた。
「え、ええっとねー」
本田先輩が台所に声をかけた。
「これ味付けって何だったっけー?」
台所から声が帰ってくる。
「奈良の宝山寺味噌!!」
「だって。悠美のこだわりなんだって。」
焼肉のタレでも十分美味しくできそうだが、これはこれで美味しい。
味噌ダレの旨さと野菜がよく合う。
「これ、お婆さんのところのキャベツ?」
「うす、自分。収穫手伝ったっス。」
収穫を手伝ったという坊主頭の男性が言う。
「あ、自分、脇山です。お婆さんの畑、グランドくらい広くてビビりました。」
タケノコもキャベツもついさっき採ってきたばかりのものなのか。
何だろう、いつも食べるものより優しい感じがする。
「悠美の作る味噌炒め、タケノコと豚肉だけでも美味しいんだけど、せっかく採れたての春キャベツもあるし、一緒に炒めたんだよ。」
これはこれでタケノコの味が味噌に絡んで美味しい。
箸が止まるわけがない。
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