第8話ソールの剣
『トワの未来』と一緒に行った初めての依頼の後、
アルテモ草は、八穂の家の近くにも生えていたので、時間のある時にリクを連れて採取して、神様ポーチへ入れておけば、いつまでも新鮮なままだった。
トワの街へ行くついでに依頼を受ければ、その場ですぐ達成ということで、Eランクへのランクアップ条件は、十日もかからずにクリアできた。
「おめでとう、これでEランクへ昇格よ、ヤホ」
ミュレが、Eランク用の水色のギルドカードを渡してくれた。
「ありがとう、これで今年の分は安心だ」
八穂はホッとして息をはいた。
「何言ってるの、もう今年は依頼を受けないつもりじゃないでしょうね」
ミュレが呆れたように言うと、八穂は当然というようにうなずいた。
「いやいや、薬草摘みは家の近くでできるから、それだけは受けるとは思うけど。何か自分でやりたい仕事を、見つけたいと思ってるの」
「そうなの? ヤホらしいと言うか、ま、ヤホが本当にやりたいことがを見つかるといいわね」
「『ソールの剣』の皆様Cランク昇格おめでとうございます」
隣の窓口の受付嬢が声を上げた。
「カテリー担当のパーティの昇格が、決まったみたいね」
ミュレは、隣に座っている受付嬢に視線を移した。
カテリーと呼ばれた女性は、ミュレよりは年下に見える。小柄で目がクリッとして可愛い感じだ。
「ありがとう、カテリー」
嬉しそうな声が答えている。男性二人、女性一人が肩を叩きあっていた。
「おめでとうございます」
「おめでとう」
近くにいた冒険者たちからも声がかかって、ギルドの中が急に賑やかになった。
「おめでとうございます」
八穂もミュレと一緒にお祝いの言葉を贈った。
『ソールの剣』は、剣士のトルティン、弓師のラング、魔術師のミーニャの三人パーティだった。
ラングはDランクで、今回はランクアップを逃がしたが、トルティンとミーニャがCランクに上がったので、パーティ自体がCランクに昇格認定された。
「ありがとう、みんな」
リーダーのトルティンが礼を述べた。他の二人も嬉しそうに笑っている。
「おまえらは結成してどれくらいになるんだ」
「近くにいた冒険者が話しかけた。
「そうだな三年くらいか」
「二年と五月よ」
トルティンが首をひねっていると、横からミーニャが訂正した。
「二年半か、早いな」
「そうなのか?」
「Cランクまでに上がるのは、実力のあるヤツでも三~四年はかかるぞ」
「へえ、それは幸運だったな、俺ら」
「幸運か、確かに。良く生き残れたって事でもあるからな、俺たちの仕事は」
トルティンが話している横で、別の冒険者がラングの肩を叩いていた。
「ちょっ、痛いですよ、ベスベルさん」
抗議するラングをからかうように眉を上げると、今度はバンバン背中を叩いている。
「ほんとに、もお」
ベスベルの荒っぽい祝福から逃れるように、ラングはトルティンの後に逃れた。それを見ていた何人かが笑う。
「あら、あまり見かけない顔ね」
ミーニャがヤホに目を止めて、近寄ってきた。
「はじめまして、ヤホです。まだ登録して十日余りの初心者です」
ヤホは自己紹介して、ミーニャを見上げた。
背の高いスレンダー美人だ。ゆるくカールした赤茶色の髪が、肩のあたりでうねっていて、猫のようなアーモンド型の目が印象的だった。魔術師らしく暗い赤のローブをまとっていた。
「そうなんだ、ミーニャよ、よろしく」
ミーニャが手を差し出して来たので、八穂も微笑んで、握手にこたえた。
「ミーニャさんは、魔術師なんですよね」
八穂がたずねる。
「そうよ、水と風の魔術が得意。魔術師の冒険者は少ないから、珍しいでしょう」
「以前私のいたところには魔術って無かったから、興味深いなと思ったので」
「魔術がないなんて場所あるのね、知らなかった」
「あー 外国で、とても遠いところなので」
「へえ、そうなのね」
八穂はミーニャに深く追求されたら困るなと考えたが、ミーニャはそれ以上は聞かずにいてくれた。
「ヤホも仲間を見つければ、薬草摘み以外の依頼も受けられるのよ」
ミュレがカウンターから身を乗り出して言った。
「あら、ソロなの、ヤホは」
ミーニャが驚いたように目を見張る。
ランクを上げて行くにはソロではなかなか難しい。実力があればソロだけでやっていく者もいるが、大抵はパーティを組んで協力して依頼をこなして行く。
、
「いやあ、登録したばかりで知り合いも少ないので。それにまだ、冒険者を続けるか決めていないし」
ヤホが言うと、ミュレが、からかうように笑った。
「ヤホは身分証が欲しくて登録したのよ。ちょっと変わった子なの」
「あはは、そうなの、でもせっかく知り合ったんだもの、何かあったら言ってね。アドバイスできることもあるかもしれないし」
「ありがとうございます。ミーニャさん」
「ミーニャでいいわ、ヤホ、仲良くしましょう」
手を振って、片目をつぶると、仲間の方へ戻って行った。
「冒険者って、もっと荒っぽい人が多くて、恐いかと思っていたけど、気の良い人が多いのね」
八穂は、まだ『ソールの剣』の昇格祝いに便乗して、騒いでいる冒険者たちを眺めながら言った。
「まあね、トワの近くは強い魔獣もいないから、冒険者も大らかな人が多いわね。これが辺境地域だと、命に直結するから、殺伐していると聞くけれど」
「そうなのね、トワに来て良かったわ。さて、そろそろ帰る、またね」
穂は言って出口に向かった。
「またね、ヤホ。薬草待ってるわ、いくらあっても足りないから期待してる」
ミュレは手を振って八穂を見送った。
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