最終話 これからもずっと
高校2年生の3学期からは、毎日実梨と登校した。
俺のファンからの嫌がらせを気にしていたけど、実際に嫌がらせをする人は一人もいないから、俺も安心して学校生活を送った。
お互い暇のある放課後にはデートをした。カフェで話している時が一番楽しかったけど、終業式が終わった頃に家の近くの公園でお花見をしたことも印象深い。満開の桜に囲まれながらお互いの手料理を味わったんだけど、実梨の料理は独特だったな。卵焼きは、塩と砂糖を間違えたのか異常に水を欲した。料理が苦手なことは初めて知った。
3年生になると、受験勉強で忙しくなり、学校以外で顔を合わせる数が減ったと思う。実梨はAO入試だったから秋ごろには受験が終わったけど、俺は共通テストを受けないといけないから、家にこもって勉強づくし。それでも、12月25日は絶対に予定を開けた。
「佑樹!」
去年と同じように家の前で待ち合わせをした。
「ごめん、ちょっと遅れた」
「いいよ。昨日も勉強してたんでしょ、お疲れさま」
1年記念日の今日は”夢の国”に行く。絶叫系の乗り物に連続で乗って気持ち悪くなったけど、実梨はとても楽しそうだった。女子は強いな。
昼頃になると、二人で昼食をとった。
「ねぇ、ずっと聞けなかったんだけど、いつから私のこと好きなの?」
1年も聞いてこなかった質問だ。
「中学卒業して、俺の髪切ってくれただろ? そこで目が合った時に好きだなって」
「ふふっ。そうだったんだ」
「ん?」
「ううん。なんでもない」
「実梨は、いつから俺のこと好きなの?」
「んー、ひみつ」
数年後__俺は、”一生のお願い”を使って実梨にプロポーズを迫った。答えはもちろん、否定する空気さえなく、めでたく結婚した。
その時に教えてもらったんだけど、実梨が美容師を目指したきっかけは、俺の髪を切った時だったらしい。今では数年の見習いを終えて、表参道の美容室で立派な美容師として働いている。
そして子供も授かった。病院に行って実梨のいる個室に入ると、女の子の赤子を抱いて幸せそうに微笑んでいた。
「名前決めた?」
子供を産む前に実梨は言っていた。自分が生きていたら自分がこの子に名前をつけたいと。
「しおり。本に挟む”栞”って書いて、しおり」
由来を聞いた。
「栞には、”道しるべ”って意味があるんだよ。この子には、誰かを思いやる心をもってほしい。高校時代にすれ違った私達のように、道に迷っている人を助ける道しるべになってほしいの」
「……良い名前だね、気に入ったよ」ベッドに腰かけて、栞をなだめた。
かわいいなぁ。誰に似るんだろう。実梨に似たら、わがままな子になるだろう。俺に似れば物静かな子になるな。俺たちの性格を半分ずつ授かればどうなるんだろう。
「それにね、私が佑樹を好きになったきっかけが本だったから、栞が良いなって思ったの」懐かしい目で俺を見る。
意味がよくわからなかった。俺は実梨に本を紹介したことがないし、共通点がない気がする。
「小学1年生になりたての頃。教室で本を読んでる佑樹を見て惹かれた」
初耳だ。そういえば、俺を好きになったきっかけを教えてもらっていなかった。読書をしている姿を見て好きになるって、単純じゃないかな。
「俺以外にも本読んでる人いたよ。俺じゃなくても好きになってたんじゃない?」
「ううん。佑樹じゃないと駄目」
どうして俺じゃないと駄目なのか聞きたかったけど、栞が少しだけ声を発したからそっちに夢中になった。
「幸せにするよ」
「何言ってるの。佑樹もふくめて、家族みんなで幸せになるんだよ」
幼馴染が実梨でよかったと、改めて思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます