第48話 一番綺麗だ

「見て! 魚が泳いでるよ」

「そりゃ、魚だからな」笑い気味につっこむ。


 水族館に来たのは中学生以来だったような気がするから、3年ぶりくらいか。あの時も実梨と二人で来たんだ。今と同じように、俺の腕にしがみついていた(迷子防止だけど)。


「佑樹。見て」


 外にはイルミネーションが飾られている。

 真ん中にクリスマスツリーがあって、それを囲むように水槽が宙に浮かんでいる。遊園地のようだった。

 歩くのをやめてその光景を見ている実梨を見ると、イルミネーションの光で輝いていた。「綺麗……」圧巻されてこぼした実梨の言葉は、目の前の光景に対する感想だ。


「本当、綺麗だ」


 でも、俺はそれよりも実梨の横顔に夢中だった。

 館内に入ると、当たり前だけど真っ暗だ。でも昼間に見るのとはまた違う雰囲気があって、心が落ち着いていた。

 いきなり、実梨は俺の腕から離れて真っすぐ駆け足で、一面に広がる水槽の前に立ち止まった。何かと思ったら、サンゴを夢中に見ていた。水槽の綺麗な青緑色を背景に、館内の暗闇で真っ黒になった実梨の姿が映っている。

 実梨の隣まで歩いて立ち止まると、サンゴよりも実梨を見ていた。すると、実梨は俺の視線に気づいたのかこっちを向き、目があった。

 この水族館で二人きりになった気分だ。

 この時の俺が何を考えていたのかわからない。気持ちがおさえられなかったのかもしれない。愛情表現の仕方がわからなくて、不器用さがでたのかもしれない。ただひとつ言えるのは、本当に愛おしいんだ。

 暗い館内で、俺の影が実梨の顔に落ちる。自分の心臓の音は、変わらず落ち着いていた。





 唇が重なる。

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