第46話 迷宮の駅

 偶然か、必然か。実梨も先日買った服にチェスターコートを着ていた。色は白だけど、そのほうが実梨らしくて似合っている。


「おはよう」

「あれ? アウター、偶然だね」

「そうだな。寒くない?」

「朝から手が冷たいんだよね……」


 恥ずかしながらも、実梨の手を握った。


「カイロで温めといたんだけど、どう?」

「……うん。あったかい」頬がほんのり桃色に染まった。

「よ、よかった。行こ」


 手をつなぐのは小学生以来じゃないかな。

 電車に乗ると、男女のカップルが多かった。次の駅に着くと席が空いたから、二人で座った。肩がくっついて緊張した。


「車内はあったかいね」

「そうだな」


 手をつなぐ必要もなくなった。

 池袋に着く間、多くの人が降りて行った。特に渋谷や原宿は降りた人の数が多すぎた。周りには制服でデートをする人もいて、高校生らしい。


「佑樹、着いたよ」

「迷子になるなよ?」

「ならないよ!」


 実梨はけっこう抜けているから不安だ。中学生の頃、二人で出かけた時に、いつの間にか実梨が隣にいなかったことがあった。スマホも持っていなかったから必死に探して、結局1時間近く走り回ったと思う。見つけた時は泣きそうになりながら引っ付いてきたことがあったな。


「怖いな」

「もー、心配性だなぁ」俺の腕に手を回す。


 不意の行動にドキッとした。


「これなら離れないよ」


 さっきのように手をつなげないのは悲しいけど、これはこれで距離が近いから嬉しい。香水をつけているのか、ふんわりと柔らかい花の香りがする。


「んー? 出口どこ?」

「こっちだよ」


 相変わらず方向音痴なところは変わってない。

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