第44話 ありがとう

 12月24日、金曜日。今日で2学期が終わる。

 俺は朝のホームルームが始まる前に、隣のクラスに行き河田さんを呼んだ。


「おはよう」

「おはよ。実梨ちゃんから手紙もらった?」

「……あ! ごめん。もらったんだけど見忘れてた」


 ポケットに手をいれると、あの時もらった手紙が入っていた。3日以上も気づかなかった俺って……。


「意外と抜けてるんだね。私の連絡先書いておいたの。あの時の返事聞いてないから聞きたくて」


 ”私も佑樹君と幼馴染だったら、好きになってくれる可能性あった?”という質問の返事だ。宿題にしてもらっていたのに、すっかり忘れていた。


「今日、その返事をしようと思って呼んだんだ」


 考えなくてもわかることだったのに、すぐに悩むから先延ばしになってしまった。


「河田さんはしっかりしてる。お姉さんみたいで、幼馴染だったら良い意味で学ばされる日々を過ごせると思う。読書をしている俺の邪魔なんてしない。でも、実梨じゃないと駄目なんだ」

「……私と実梨ちゃんの差がわからないよ」

「実梨は違うんだ。俺の時間を邪魔をして、無理にでも外につれだそうとする」

「……ついて行くの大変じゃない?」

「大変だよ。考え方の違いで最近まで1年以上も話していなかった。やっと話せたと思ったら、口喧嘩が始まる。自分勝手でたまに扱いにくい。何考えてるかわからない時もあって困る」


 ここ数週間の話なのに、かなり濃い時間を過ごしたんじゃないかな。


「でも、真正面から俺のことを受け止めてくれる。俺が無理をすると、すぐ異変に気づいて気持ちを聞きだしてくれる。あの子の前だと嘘をつけない」


 河田さんの目を見た。


「俺は……、んっ」手で口元をおさえられた。

「惚気話はいいです。もういいよ。その先の言葉は本人に言って」


 河田さんは背中を押してきて、俺の教室の前で止まった。


「どうせ、明日デートでもするんでしょ?」

「あ、まあ……」

「ちゃんと告白しなさいよ?」

「はいっ」

「……頑張って。澤田君!」思いきり背中を叩かれた。

「いっ! ……ありがとう」


 河田さんは、もう俺のことを名前で呼ばなかった。

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