第40話 間接キス

 実梨が案内してくれたオムライス屋さんはレトロな空間だ。人気な店らしいけど、半分も人がいなかった。一人で来ている人もいれば、子連れのお母さんもいる。平日だから空いているのかもしれない。ここが喫茶店だったら毎日通って本を読みたいくらいだ。


「デザートも食べたい!」

「俺も食べる」


 オムライスとデザートを頼んで、料理が来るのを待つ間に話をした。


「佑樹。河田ちゃんからこれ預かってるの」ポケットから小さな手紙を取り出す。

「ありがとう」受け取ってポケットにしまった。

「中見ないの?」

「さっき受け取ったの?」

「ううん、昨日受け取ったんだけど、今朝渡し忘れちゃった」


 くだらない話ばかりした。今夜の夕飯の話とか、冬休みの課題の話とか……。それでも二人で日常の会話ができることが嬉しい。

 そんな話をしているうちにオムライスが到着した。ケチャップライスの上に半熟の卵が蓋をするようにのっている。その周りにデミグラスソースがまんべんなくかけてあって、いい匂いがする。実梨のオムライスは、きのこが入ったクリームソースで、そっちも美味しそうだった。


「いただきます」


 ……やっぱり美味しい。


「お願い! 佑樹のオムライス、ちょっと頂戴」

「いいよ」


 そう言ってくると思った。メニュー表を見ていた時、デミグラスかクリームソースか、二択で迷っていた。だから、欲しいと言われることは想定内だ。言われなくてもあげようと思っていた。

 ここで、少女漫画を読んで学んだアレを実践しようと思う。


「はい」一口サイズのオムライスをスプーンですくって、実梨にさしだした。

「ありがとう」俺のスプーンを持とうとしたからすぐに引いた。

「ほら。あーん、して」


 俺、きもくないか? 言い方を間違えたな。俺はこんなこと言う奴じゃないぞ。


「あー、ん!」実梨はすぐに口を開けて食べた。


 美味しそうに食べている姿にドキッとしたから、さっきの失言は忘れよう。


「佑樹も。あーん、してよ」

「へ?」想定外で混乱した。

「はい」口を開けてスプーンを運んでもらう。

「……ん。……美味しい」


 好きな人からもらうオムライスは格別だ。一生食べられる。

 そういえば今気づいたけど、これは間接キスに入るんだった。食べさせることに集中していて忘れていた。急に恥ずかしくなり、顔が熱くなる。

 この後、頼んでいたデザートはお互い同じものを選んだ。食べあいはできないけど、2回も同じことをしたら俺の心臓がもたない。だからやめといた。


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