第39話 フィルターのせい?

「一緒に行っていいの?」

「佑樹、クラスの人と話し始めたんでしょ? それなら、そこらへんで二人で会ったことにすれば何も言われないかなって」


 やっぱり俺の挨拶作戦は効果があったんだ。俺が一人になることで自然とレアな人として認識されるようになっていたから、その見識をなくすためにみんなに声をかけて壁をなくす作戦だったけど、上手くいっている。

 二人で教室に入ると、3,4人しか人がいなかった。「おはよう」近くにいた男子に声をかけると、眼鏡をクイッとあげた。「お、おはよう」ぎこちなく返される。


「おはよー、う?」

「おはよう。香織、珍しく来るの早いね」

「たまたま。澤田君と登校してきたの?」

「うん。声かけてくれて」


 嘘ではない。


「あんなに興味なかったのに。で? 何話したのよ」興味津々。

「いろいろ~。それより1時間目なんだっけ」

「はぐらかさないでよね」


 女子はすぐに詮索しようとする。実梨は俺に関する質問にはどうも答えようとしなかった。本人が真後ろにいるから言わないのかな。

 チャイムが鳴るぎりぎりの時間になると、教室にぞろぞろと生徒が入ってきた。女子は俺のことをジロジロ見ている。「ワックスだ!」俺がワックスをつけただけで、数人の女子ははしゃいでいた。嬉しいけど騒いでほしくないから、ちょっと複雑だ。

 午前授業はあっという間に終わって、みんなすぐに帰って行った。はやく帰る人もいたけど、友達と昼食をとるという人もいた。午後に部活がある人は教室で弁当を食べ始めている。

 俺は、人気がなくなった校門の前で実梨を待っていた。

 

「佑樹。お待たせ」腕をツンツンとつつかれる。

「ん。行こっか」

「隣の駅にあるの。電車で移動しよ」


 実梨は朝よりも輝いて見えた。好きな人とデートができるから、嬉しすぎて勝手にフィルターがかかったのかもしれない。

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