第36話 胃袋をつかもう作戦

 昼休みになったらすぐに屋上に移動した。まだ実梨は来ていないから、今のうちに表情筋をほぐしておくために頬のマッサージをした。スマホのカメラ機能を使って自分の顔を確認して、笑顔が変絵はないことを確認する。

 階段を上る足音が聞こえたからすぐにスマホをポケットにしまうと、実梨がやってきた。


「お待たせ~。今日は早いんだね、待った?」

「いや、今来たとこ」


 漫画に描いてあった。好きな人に合わせてあげることができる男らしい。相手に気遣わせないためのセリフだけど、現実でも通用するのかな。


「そう、よかった」


 安心した顔をするから、多分通用したんだ。漫画は想像の一部だけど勉強になるな。


「あ、これ弁当」

「ありがとう~。ねえ、いつも作ってないよね。なんで今日作ってきたの?」

「み、実梨のため」

「へ?」

「俺の弁当を美味しそうに食べるとこ見たいから」


 料理男子はお洒落だと漫画にあった。俺にも料理ができるというところを見せれば、結婚相手にいいと思ってくれるかもしれない。


「嫁かっ!」肘で俺の腕をつつく。


 鋭いツッコミをいれられた。冷めても美味しいカニクリームコロッケを口にふくむと、目をキラキラさせてこっちを見る。


「美味しい! これ、また食べたい」

「よ、よかった」

「良いお嫁さんになれるね」


 嫁では駄目だけど、とりあえず胃袋はつかめたからいいだろう。


「実梨は料理しないの? 前にクッキー焼いてたけど」

「挑戦してみたいけど部活で時間ないから」

「あー、そっか……」食べてみたかった。

「そんなに私の手料理が食べたいなら作ってあげてもいいよ。でも、好きな人に作ってもらったほうが嬉しいんじゃない?」


 何か試されている気分だった。何を試されているのかはよくわからないけど。


「実梨の料理がいい」


 正直なことを言うと、実梨の頬が真っ赤に染まった。「え?」驚いて思わず心の声が漏れる。こんな表情見たことない。


「そういうのは好きな人に言いなさい!」


ビシッ! 肩を叩かれる。


「少し痛い」

「自業自得」


 俺の言葉に揺さぶられたから恥ずかしそうに顔を赤くしたのだとすると、かなり効果があったといえる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る