第32話 ”幼馴染”

 河田さんは俺が実梨のことを好きだということを知っている。俺が言ったわけではないけど、女の勘ってやつでいつの間にかバレていた。だから実梨に聞いているのかな。

 どうせ俺のことは好きじゃないのに。


「好きだよ、幼馴染として。それ以上でもそれ以下でもない」


 ……うん、そうだよな。

なんで耳塞がなかったんだろ。傷つくとわかっていたのに、何を期待してたんだ。嫌われていないだけいいとしても、本当はひとりの男として好きでいてほしかった。


「もし佑樹君に告白されたらどうする?」

「嬉しいよ。でも私にはその気持ちがないから」

「……そっか」

「終わった!」処置を終えた。

「あっ、ありがとう。私すぐに戻らないといけないから、ここで」

「気をつけてね」


 河田さんは保健室を出ようとしたとき、実梨に何か話しかけた。俺には聞こえなかったけど、他愛もない話かもしれない。「お待たせ~」河田さんが保健室を出て行くと、実梨はこっちにやってきた。


「聞きたいことあるんだけど」

「ん?」

「実梨は好きな人いないの?」

「……いないよ」


 そもそも好きな人がいたら、西澤先輩と付き合うこともなかったよな。よく考えたらわかることを聞いてしまった。


「なんでそんなこと聞くの?」


 好きだからだよ。


「幼馴染だから」

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