第30話 冗談ばっか
「当たり前でしょ。幼馴染の好きな人だもん、気になって悪い?」なぜか強気だった。
モゾモゾと音がすると思って辺りを見渡すと、実梨が布団の中で足をもじもじさせている音だった。
「幼馴染の好きな人ね……」
「間違ってないでしょ」
間違ってはいないけど、少しだけ違和感がある。やっぱり俺なんて恋愛対象外だから、これからも“幼馴染”が続くのか。
「俺の好きな人は、俺と反対の性格の人だよ」
「ギャップ萌えしたってこと? 河田ちゃん?」
「確かに河田さんにはギャップがあるな」
「……佑樹」布団の中から手を出し、俺の右手を握った。
「教えて」
布団に入っていたからか実梨の手は暖かい。
この角度から実梨を見ることも、甘えられることも初めてだった。だからこそ珍しい一面に胸を矢で打たれた気分になった。純粋に甘えるところが可愛いから、毎日されたら確実に死ぬ。
ただ、“教えて”と言われても困る。今は絶対に告白しないと決めているからだ。実梨が俺のことを好きだと思ってくれるまでは教えない。でも少し意地の悪いことをしてみた。
「実梨だよ」
冗談だと受け取られて、もっとふざけてくると予想した。思わせぶりをすれば俺のことで頭がいっぱいになると思ったけど、流石に響かないかもしれない。ていうか、予想以上の反応をされた。
「冗談」
「え?」
「冗談言わないでよ」いつのなく真剣な顔。
「ご、ごめん」思わず謝る。
しばらく沈黙がつづいて気まずくなると、まっすぐな声がこの空間に響いた。
「私は好きだよ。佑樹のこと」
一瞬、思考が停止する。純粋な瞳が俺の脳裏を真っ白に染めた。
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