第29話 まさかまさかの

 俺は近くによってベッドに腰を掛けた。怪我をしている場所はすぐにわかった。視線に入った実梨の右頬はすぐ近くにあって、しっかり湿布が貼ってある。ジッと見ていると、あおむけで寝そべる実梨は恥ずかしそうに湿布を貼った右頬に手を添えた。


「あはは。笑っちゃうよね。いつの間にか目の前にボールがあって避けられなかったの」

「笑えない。でも無事でよかった」


 さっきより心臓の鼓動は落ち着いていた。無事が確認できただけいい。


「佑樹。起き上がりたいから手伝って」

「体調悪いなら寝なよ」

「体調悪くないよ。仮病、仮病」

「悪いやつだな」

「佑樹もサボってるから仲間だよ」

「実梨が原因だ」


 デコピンでもしてやろうと思って、親指と中指をくっつけて近づけた。すると実梨はビクッと目を閉じた。怪我人にデコピンは申し訳ない気持ちになったからデコピンはやめた。代わりに少し崩れた前髪を軽く整えてやった。


「考えごとしてたから、飛んできたボールに気づかなかったんだろ」

「……うん」

「何考えてたんだよ」

「バーカ」


 いきなりけなされた。でもそう言われて気づいたことは、俺が原因だという可能性があること。体育が始まる前の昼休み、実梨は俺とプールにいた。俺に好きな人がいることを伝えた時に、あっけらかんとしていたし、心ここに在らずという顔をしていた。

 待てよ? まさか……。


「俺の好きな人が気になるのか?」

「……」


 実梨は俺から視線をそらして、焼けていない白い肌を赤らめた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る