第28話 保健室

「サーブで飛んできたボールが顔に当たって、途中で保健室に行って……、さっき見に行ったんだけど、次の授業は休むみたい……」


 新木さんは心配そうに話した。俺はクラスで一番心配してその話を聞いた。

 実梨が体育で怪我をすることは珍しすぎるから、何か考えごとをしていたに違いない。考えごと__体育の授業中に何かあったのかもしれない。


「……新木さん」席を立って声をかける。

「えっ! さ、澤田君? どうしたの?」


 話しかけたのは初めてだから、とても驚いていた。


「体調悪いから次の授業休むって先生に言っといてほしい」

「う、うん。わかった」


 体調が悪いと思わせるように、教室を出るまでゆっくり歩いた。教室を出てドアを閉めたあとは、走って保健室に向かった。その間にチャイムが鳴って、6時間目の授業が始まった。

 いつもならこのくらいの距離を走っただけで息はあがらないのに、保健室に着いた頃には心臓の音が聞こえるくらい激しく、大きく動いていた。

 息を整えずにドアを開けると、先生はいなかった。3つ並んでいるベッドは、手前のベッドだけカーテンで囲まれている。きっと実梨はそこにいるんだ。

 スッ__できるだけ音を立てないようにカーテンを開けると、布団の中に入り、横を向いて寝ている実梨がいた。


 しばらく見ていると、俺の気配に気づいたのかこっちを向いて布団から顔を出す。


「……なんでいるの」


 来てほしくなかったように言っているけど、俺はこの言葉の意味を知っている。



“もっとはやく来てよ”

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