第27話 体育の授業

 何を考えている顔だろ。"俺には好きな人が一生できない"と思っていたような顔に見えるけど、"俺の好きな人が誰なのか"考えているような顔にも見える。本当は嫉妬してくれることを願っていたんだけど、絶対嫉妬はしてなさそうだ。

 しばらく放っとくと、実梨は現実に戻ってきたのか何度か瞬きをした。

時計を見る。もうそろそろ戻らないと。弁当を片付けて立ち上がり、教室に戻ることを呼びかけた。


「先に戻ってるぞ」

「あ、うん」


 思ったより素直で驚いたけど、すぐに更衣室を抜けて胸をなでおろしながら階段を降りた。好きな人がいることを暴露するより、実梨のあの表情が気になって仕方がない。なんの顔だよ。

 次の授業は体育だった。男子は外で野球、女子は体育館でバレーボールをする。

 俺は中学までよく怪我をしていた。“邪魔だ”とののしられて嫌になり、体育の授業は何度かサボっていた。でも、高校に入ってからは外に出てランニングとかするようになった。実梨は俺と違って昔から運動神経がいいから運動は余裕でこなすし、怪我なんてしない。だからこそ、実梨にかっこいいところを見せたいっていう不純な理由で運動を始めた。そのおかげで中学の時よりは筋肉がついて怪我だってしなくなった。

 この野球の授業も楽しい。


「うわっ! 澤田が打つのかぁ。最初から点取られそう」


 今なら周りの男子から称賛される。相変わらず友達はいないから普段の学校生活では褒められないけど、この体育の時間は妬みをふくめて褒めてくれるから良い気分だ。

 これも全部、実梨を好きになれたおかげだ。

 体育の授業が終わって更衣室で着替えた後、一番に教室に戻った。席について水を飲んでいると、あとからどんどん生徒が戻ってくる。いつも新木さんと帰ってくる実梨だけど、今日は違った。新木さんは一人で教室に戻ってきて、俺の二つ前の席に座った。

近くの男子となにやら話している。その時、信じられない言葉を聞いた。


「石川、怪我したん?」


 石川は、実梨の苗字だ。

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