第16話 頭の中は君でいっぱい

 河田さんは俺の言うことを信じてくれた。その上で、実梨に本当のことを話してくれると言ってくれたけど、それは断った。


「自分で言うよ。話聞いてくれてありがとう」

「そっか。ううん、話してくれてありがとう。頑張ってね!」


 背中を押されて、一歩前に足を踏み出した。

 帰り道、電車に揺られながら外を眺めた。初めて電車の中で本を読まなかったと思う。今は読む気にならなかったし、実梨と話すことで頭がいっぱいだった。そんな感じで最寄り駅に着き、長い階段を上がって改札を出て左に曲がる。目の前に見えるカフェを無視して真っすぐ歩き、普段人の通りが少ない細い道を抜けてまた左に曲がる。一つ目の角を右に曲がって直進すると、住宅街に入った。この通りに俺たちの家がある。

 実梨の家に行く前に鞄を家においてこようと思っていたけど、その必要はなかった。

 俺の家のドアの前に実梨がいた。どうしてここにいるのか頭の中で考えていたら、実梨は口を開く。


「メール見た?」


 そう言われて急いでスマートフォンを鞄から取り出すと、いつものように電源が切ってあったからメールを見ていなかった。実梨は俺のそばによってスマートフォンの画面を覗いた。「はぁ」電源を消していたことに気づいてため息をつかれた。


「ごめん」

「いいよ。大したことじゃないもん」


 とりあえず鍵を開けて家の中にいれた。

 実梨は2階にある俺の部屋に向かった。お茶を用意して、俺も後を追って部屋に入ると、本棚にある大学受験の赤本の帯に指を滑らせていた。4本足の背の低く丸い木造テーブルに茶を置いて地面に座ると、本題に入った。


「実梨に話したいことがある」


 本棚に目を向けるのをやめて、俺の向かい側ではなく隣に腰を下ろした。


「うん。聞きたい」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る