第15話 間違った噂

「聞いた? 澤田君が元サッカー部の先輩殴ったらしいよ」

「こんなに噂広まってるのに、よく平然と本読めるよね」

「清楚イケメンってイメージだったのにがっかりだわ」


 昨日の放課後の一部始終を見ていた生徒がいたのか、もしくは西澤先輩が自分で話を広めたのか、俺のクラスの人はみんな顔を合わせて俺を見ている。

 噂によると、“俺は実梨のことが好きだから嫉妬して先輩のことを殴った”だそうだ。それに先輩は頬に湿布までして学校に来たみたいで大げさだ。

 昨日は、先輩が俺から殴ってきたと実梨に告げ口した。その後の実梨の視線は痛々しくて、あの場にいるのが凄く嫌だった。だから俺は鞄をもって逃げた。校門を出て駅に着くまで、いつもは知らない道を走って帰った。

 幼馴染の俺ではなくて、彼氏である先輩の言うことを信じたのかもしれないと思うと心苦しい。今すぐ俺があの人を殴った理由を話してやりたいけど、タイミングがわからない。


「澤田君」


 聞き覚えのある声に視線を向けると、予想通り河田さんだった。「放課後、図書室前来て」真剣な顔だったし、断る理由もないから頷いた。

 放課後、人のいない時間帯を見計らって図書室前に行くと、「こっちこっち」と小さな声で俺に手をふってくれた。


「どうして実梨ちゃんの彼氏にあんなことしたの?」

「え?」

「何か理由あったんでしょ」


 その言葉に救われた。河田さんは俺が人を殴るような人ではないと思っているから、今こうして聞いてくれるんだ。


「話してほしいな。本人の言葉しか信じたくないの」


 俺は一呼吸おいて、あの放課後にあったことをすべて話した。

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