第9話 激しい雨の音

 俺が持っていた傘に半分いれてやった。

 いつも傘を持ち歩いていない実梨がまったく雨に濡れていないのは、一緒に帰った先輩に半分いれてもらっていたんだろう。こんなに腕が密着するくらい先輩とくっついてたのんだと思うと嫌になる。でも二人で並んで歩くのは高校に入って初めてだから、さっきに比べたら少しだけ気分は良い。


「ねぇ。折り畳み傘、なんでささなかったの?」


 俺の母さんは用心深い人だから、小学生の頃から傘は鞄に常備していた。幼馴染の実梨は当然そのことを知っている。

 

「さしたくない気分だった」

「どんな気分よ」

「なんで帰り遅いの? 俺よりはやく学校でたのに」

「先輩の最寄り駅が隣なの。そこで降りて、ホームで少しだけ話してた」

「そう」

「河田ちゃんとどうなったの?」告白のことは知っているようだ。

「断ったよ」

「……そっか」


 何を話していいのかわからなくて沈黙が続く。

 家の前に着くと二人で立ち止まった。実梨はすぐに家の中に入るのかと思っていたら、一向に俺の隣から離れようとしない。


「一緒に帰った先輩、サッカー部の西澤さんって言うの」


 何を言い出すかと思ったら先輩の話だ。やっぱり体育祭の時のセンター分けの先輩か。


「さっき隣の駅で降りた時、告白された」


 駅で俺に声をかけられた時は裾を掴まれたのに、今は俺の手を握った。困ったように眉を八の字にして俺の目を見ている。

 俺はこの目に惹かれて、好きになったんだよな。


「……どう思う? 佑樹」


 雨の音は激しい。

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