第8話 散る思い
実梨はこの誘いにどう返事をするんだろう。しばらくすると、俺から視線を外してゆっくり俯きだす。前髪で目元が見えなくなった。
この時点で断られるんじゃないか、と予想はしていて実際当たっていた。
「ごめん。先輩と帰る約束してるの」
先輩と聞くと、体育祭で実梨に話しかけていたサッカー部の先輩が真っ先に思い浮かぶ。
「ごめんね」辛そうな声だ。
「……ううん」実梨の腕を掴んでいた手を離す。
「じゃあ」駆け足で教室を出る。
教室に一人残された俺は、失恋した気分になっていた。雨の音に包まれていると、余計にその気分は募っていく。
拳を握って後悔している間に実梨は先輩と二人でいるんだと思うと嫌になる。今帰り始めたところであの二人に会うだけだから、少しここで時間を潰してから帰ろう。
少し、と言っても10分くらい席について読書をした。雨は一向に弱まる機会はなく、強まっているような気がした。
「はぁ」重い腰をあげて教室を出る。
脱力。気分が沈んでいる俺は傘をさす気もなく、強い雨に打たれながら駅に向かった。普段なら5分くらいで駅に着くのに、雨の水を含んでずっしりと重くなっている制服を背負っているせいか、10分以上歩いたような感覚だ。
駅に着く頃には、たっぷり水をいれたバケツを被ったように頭が濡れていた。すれ違った会社帰りのおじさんと肩がぶつかると小さく舌打ちをされる。
ごめんなさい__。
家の最寄り駅に着いて改札を出ると、やっぱりまだ雨が降っていた。明日も学校があるし、これ以上濡れたら母さんに怒られる。でも気だるいから、少し上を向いて空から無数に降ってくる大きな雨を眺めて突っ立っていた。
すると、右の裾を軽く引っ張られた。ゆっくり振り向くと実梨が心配そうな顔で俺を見ている。
「濡れてるよ」
実梨はハンカチを使って、俺の頬に当ててくれた。
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